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#30 私の両親への挨拶・前日【マッチングアプリで出会ったモラハラ婚約者と別れた話】

贈り物は自分アピールの道具じゃない


11月の最後の土曜日。
明日、私の両親に挨拶に行くので、銀座の百貨店で手土産を探すことにした。私の両親の好みが分からないから、アドバイスが欲しいらしい。

(百貨店の食品フロアにて)
わんこ
 お母さんにはお菓子、お父さんにはお酒はどうかな。

 一つでいいよ。

わんこ いや、それぞれに用意したい。お母さんには、この一番高い桐箱入りのカステラ2本(6,500円)。金の包装紙なのがイケてる。お父さんには、さっき見た日本酒の一升瓶(9,000円)がいいかなと。

 えっ、待って待って、どちらも高すぎるよ。私は3,000円くらいのお菓子を想定してた…。桐箱は仰々しいし、金ぴかの包装紙は派手すぎて母の好みではない。父だって初対面の彼氏に一升瓶をもらったらびっくりする。うちの両親にはやりすぎだから、別の物にしない?(店員の前なので小声)

わんこ あのね。リンちゃん、よく聞いて?おれはリンちゃんのご両親に「覚悟」を示しに行くの。それなのに、手土産選びでたかだか数千円ケチるのはどうかと思う。大学生ならともかく、いい歳した娘の彼氏が、ペラッペラの紙箱に入ったしょぼい焼き菓子を持ってきたら、「なんだこいつ。娘を任せて大丈夫か?」って思うでしょ。

 言っている意味は分かるけど、そもそも、私の両親は手土産一つであなたを評価したりはしないよ。

わんこ とにかく、ちゃんとしたものを。

 色々考えてくれるのはうれしいけど、これは両親の「ちょうどいい」ではないんだよ。贈り物って、相手にとってちょうどいいかが大切なんだよ。高けりゃいいってもんじゃない。で、この二つは私の両親にとっては「ちょうどよくない」の。自分があげたいものではなく、両親が気を遣わないものを用意して欲しいよ。

わんこ でもね、こういうのは格が出るんだよ。最初が肝心なんだよ。


だーー!!人の話を聞けやーーーー!!!
ねぇ、私を連れて来たのは、両親がよろこぶ贈り物がどれなのか、助言をもらうためじゃなかったの?

わんこくんは、この手土産一つで自分が試されると思っているのだろう。この人は、自分を大きく見せたいんだ、と思った。
でも、何度も否定したくないのと、彼の挨拶へのモチベーションが落ちるとかわいそうなので、それ以上は何も言わなかった。もう好きにさせとこ…。
結局、彼は金色の包装紙に包まれたカステラと、どでかい一升瓶のお酒を買った。


文明堂の特選五三カステラ


1本入りはこちら。安定の文明堂なので味はもちろん最高に美味しい。慣れ親しんだカステラってこれだよなぁって感じ。



彼は人の気持ちを読めない。うすうす気づいていたけど、これは思っていたより重症だ。それに、見栄っ張り。私の両親がどう感じるかよりも自分が評価されることを優先するなんて、虚栄心が強すぎる。

でも、大切な人のために時間やお金をケチらず、全力で応えようとする姿勢は、彼のとても良いところでもある。その一所懸命さが根底にあるから、今回みたいなことが起きても、少し経てば「ま、いっかぁ」と忘れてしまう。
ただ、最近は、この考え方で彼を甘やかし過ぎている気もしてきた。いつかビシッと言った方がいいのかもしれないなぁ。

下着を買うだけなのに


百貨店を後にした私たちは、銀座のランジェリーショップへ向かった。先日、「ブラが合わない。買い替え時期かなぁ」とつぶやいたら、わんこくんが「おれが買うたる」と言ってくれたのでプレゼントしてもらうのだ!手土産事件のモヤモヤは散財することで解消してやる!(わんこくんのお金で)

下着屋の店内に男性がいるのをよく思わない女性がいるので、彼は店の隅のテーブル席で静かにスマフォをいじりながら待っていた。大人しくニュースを読んでいる風に見えて、その実態は、試着室にいる私に「ピンクがいいね♡」だの「ひらひらのレースがあるのがいい♡」だの、ちょっかいLINEをしてくるただのエロい犬である。しょうもなくて、かわいい。

気に入ったセットアップを色違いで2セット買ってもらった。ピンクと紫。赤と水色も欲しかったけど、品切れなので、入荷したら取りに来ることになった。
彼は、私と店員のやり取りを黙って聞いていた。伝票の内容、入荷時期、遅れる場合の対応など、すべてに納得してから決済した。それは当たり前のことなんだけど、私はなんとなく「商談をする人の目をしてるなぁ」と感じた。こちらに不利な点がないかチェックしている感じだった。しっかりしてるし、細かい。

私なんて「赤のTバックはクリスマスに履くんだい!」なんてことしか考えていなかったから、電卓を打ち間違えられても気づかなかっただろうな。


娘の顔と、恋人の顔と


わんこハウスへ戻った。
着替えながら、明日の挨拶の打ち合わせ。

自分の両親の前だと、「子供の顔」をしたらいいのか「彼女の顔」をしたらいいのか分からなくて困惑しそうだと話した。
親に恋愛話をしたことがない秘密主義な娘が、40目前になって結婚するかも知れない恋人を連れてきた。親にとってこんなにうれしいことはない。きっと、あたたかいまなざしで私を見つめてくるのだろう。それを恥ずかしがる「子供の顔」をわんこくんに見られるのも嫌だし、わんこくんの前で「彼女の顔」をしている私を親に見られるのも嫌!はっずかしーい!

私は、ベッドの上でバタ足をしながら騒いだ。彼は私の隣にちょこんと座り、「リンちゃんは、時々、大人なんだか子供なんだかわからなくて面白いね」と言った。


私たちは毎回一緒にお風呂に入る(裸を見慣れたくらいで性欲は落ちない)。彼は、私が家に行く日には、必ずハーゲンダッツの新作を2つ買っておいてくれる。この日は、子供みたいに大騒ぎする私の緊張をほぐすために、極上のバスタイムを演出してくれた。

・浴室に入浴剤が3種類(好きなのをどうぞ)
・ハーゲンダッツが2つ
・のぼせやすいので、コップに入った氷水
・私が好きなBGM
・いい感じにライトダウン
・体が冷えぬよう、洗面所にヒーターを用意

絵の中でくらい、盛らせてくれ。


いつもは新作フレーバーだけど、今日は王道のバニラ。脳がとろけそうな甘さとわんこくんの気遣いに、明日の心配が消え失せた。音楽に耳を傾かせて黙ったまま、私たちは何時間も湯船に浸かった。
さて、明日はどうなることやら。


―― 私のメンタル崩壊まで、あと141日 ――


【今日のわんこ語録】
「こういうのは格が出るんだよ」
「あのね。リンちゃん、よく聞いて?おれはリンちゃんのご両親に『覚悟』を示しに行くの」


りん

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