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涙の生徒会役員選挙

子どもの頃は、今より幾分かは積極的な性格だった。

いや、幾分どころかまるで違う。明朗活発を絵に描いたような陽キャ男児だった。どこで道を間違えたのか。

さらには、勉強ができ、グループの班長とかも積極的に引き受けていた。まさにリーダー的存在感を放っていると言っても過言ではなかった可能性が多少あったかもしれなくもなくなくない。


そんな陽キャ時代のアルロン少年に転機が訪れたのは、小学4年生のとき。

きっかけは、ある日の帰りのホームルーム、担任の先生が教壇で言い放った一言だった。

「生徒会の役員選挙が始まります」

僕のいた小学校では、6年生が会長、5年生が副会長、そして4年生が書記を務めることになっていた。
つまり、我々4年2組にとって(無論ほかのクラスにとっても)初めての選挙である。

どうやら、明日明後日に立候補者を選出する必要があるらしい。まぁ、僕は?そんなの全然興味ないっていうか?やりたい奴がやればって感じ?
ホームルーム終了後、なぜか少しソワソワしながら、僕は帰路に就いた。

家に帰り、事の顛末を母に伝えた。
すると、
「いいじゃん!立候補しなよ!」
とテンション高めの返答が返ってきた。ティモンディ・高岸が「やればできる!」と言うかのような舞い上がりようだ。何この温度差。

僕も僕で、あんなに斜に構えていたくせに、母に推されてまんざらでもない顔をしている。元来から調子乗りの気質だ。お恥ずかしい。

そんなわけで、僕は立候補しようと決めたのである。


後日、ホームルームにて書記の立候補者を決めることになった。
立候補者の立候補者(ややこしい)は3人。

1人目は、勉強ができてサッカー少年団に所属している、優等生の櫻井くん(仮名)。男女ともに人気の有力候補であり、最大のライバルと言える。

2人目は、少しやんちゃだが一部男子から絶大な支持を受けている、ミニバス少年団員の松本くん(仮名)。まぁ、女子人気はさほど高くないだろうから、櫻井くん程の票数は得られないだろう。

3人目は、ふふふ、お待たせしました。いや、お待たせすぎたかもしれません。勉強ができてサッカー少年団に所属している、優等生のアルロンくん。1人目と紹介が被っているのは気のせいだ。サッカー少年団に関しては幽霊団員というのも、今は黙っていてほしい。

3人の中から立候補者を決める運命の刻。戦いの火蓋が今、切って落とされた。


決定方法は至ってシンプル。立候補者を除く残りの30数人が、残り2年ちょっとの小学校生活の未来を託すに相応しい人物をそれぞれ選び、その者の名が呼ばれたときに挙手をする。そして、その人数をそれぞれ計算し、最も多くの人望を得た者が立候補する権利を勝ち取るというもの。
要するに多数決だ。

担任の先生が一人ずつ立候補者の立候補者の名前を高らかに呼んでいく。最初は、松本くんだ。

「松本くんがいいと思う人ー!」

3割くらい手が挙がる。そしてそのほとんどが男子だ。まぁまぁ、松本くんは最初から相手にしていないんでね。櫻井くんとアルロンの一騎討ちというのは、初めから想定していたことなのだよ。


おっ、次は僕の番だ。先生がこれまた高らかに声を上げた

「アルロンくんがいいと思う人ー!」


ッシーーーーーン


ええええええええええ?
ちょ、え?え、え?えええええ?
え、まじ?まじで?え、まじで?えええ、え、えええ?ちょ、ま、え?え、ま、えええ?

誰一人として手を挙げていない。皆、無表情で前を向いている。無?無なの?0?ゼロなの?ゼ〜ロ〜(高音)なの?

えええ、恥ずい恥ずい!めちゃくちゃ恥ずい!
もっと手上がるかと!もうちっと人望あるかなって思ってたら!うわーーー!!!恥っず!!!めちゃくちゃ恥っず!!!松本くん、アウトオブ眼中みたいなこと言ってごめん!!!
先生!もういいから!わかったから!お願い!もうやめて!アルロンのライフはゼロよ!票数もゼロよ!

永遠かと思われた赤っ恥シーンも、体感とは裏腹にものの数秒で終わり、櫻井くんのターンになった。

「櫻井くんがいいと思う人ー!」

クラスの大半がぶわっと手を挙げる。ですよねー。

こうして、4年2組の代表は櫻井くんに決定した。
そして、後日行われた生徒会役員選挙で、櫻井くんは見事当選した。おめでとう、櫻井くん。


僕は、弱冠9歳にして、己の人望の無さに落胆した。
そしてこの日を境に、僕が生徒会の類に立候補することは二度となかった。

なんと アルロンが おきあがり サポートを してほしそうに こちらをみている! サポートを してあげますか?