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古典で読み解くフットボールの世界【孔子『論語』編】ー “外様”フレンキー・デヨングのバルサイズム ー

孔子

【原文】
子の曰わく、仁に当たりては、師にも譲らず。

【訳】
孔子は言いました。
仁徳(他者への思いやり、又は正しいと思う行いや信念)を行なうに当たっては、例え師匠や目上の者であっても遠慮はいらない。

2022/2023シーズンのラ・リーガは、バルセロナが首位を独走しており、4年ぶりのリーグ優勝が目前となっています(第29節終了時点で、2位レアル・マドリーに勝ち点差11のリード)。
相変わらずピッチ外では、深刻な財政難と審判買収疑惑騒動で喧騒が止むことが無さそうですが、少なくともピッチ内の方では一定の成果を手に出来そうです。

「チャンピオンズリーグはとりあえず置いといて」
ですが。

リオネル・メッシ退団前後の時期は、エル・クラシコでも5連敗してしまう程、完全にマドリーの後塵を拝し続けていたバルサでしたが、今年1月サウジアラビアの首都リヤドで行われたスーペルコパ決勝で、その宿敵を破りシャビ監督体制で初タイトルを獲得しましたし、二つ目のタイトルもほぼ手中です。

では、メッシが去って競争力が著しく低下していたバルサが、復活のきっかけを掴んだターニングポイントは何だったのか?

もちろん1つや2つだけではなく、多くの要因があった事でしょうが、筆者が印象深いと感じたある出来事も少なからず影響していると考えています。

時は遡る事、2022年1月12日。
前述と同じくリヤドで行われた、スーペルコパ準決勝で、延長戦の末に2-3でマドリーの軍門に下ったバルサは、これで屈辱のエル・クラシコ5連敗。しかし敗戦後、クラブの中からは意外な声が上がったのです。

シャビ監督
『多くの場面で私たちはレアル・マドリーよりも優れていた。』『敗北に関してはとても嫌な気持ちだが、相手を圧倒したことについては誇りを持っている。』

シャビ・エルナンデス監督


副キャプテンのジェラール・ピケ
『ようやく戦えるようになってきたこのチームの事を、誇りに思う。』

ジェラール・ピケ

ラポルタ会長『今日のマドリーとの試合の事は、全てのバルセロニスタが誇りに思っているだろう。あとは勝利だけだ。』

試合後、ドレッシングルームを訪れるジョアン・ラポルタ会長


数年前なら考えられないコメントが、バルサの重鎮たちから発せられたのです。

永遠の宿敵相手に負け続けているのに、誇りに思う?


世界中のクレが、この負け犬の遠吠えの様なコメントを聞いて、もどかしい思いを募らせていたはずでしょう。

こんな根拠のないポジティブムードに、苦言を呈する選手がいました。

入団3年目のオランダ代表MF、フレンキー・デヨングです。

2022年1月23日のアラベス戦。
自身の決勝点で辛勝した試合後のフラッシュインタビューで、スーペルコパのマドリー戦についてこう語りました。

『マドリー戦で敗れたのに、内容が良かったからといって誇らしいと思って良いわけがない。
僕らはバルサなんだ。マドリーに負けたなら失望しないといけないんだ。』

2022年1月23日アラベス戦後、インタビューに応じるフレンキー。


額面通りに受け取れば、クラブ首脳陣とチームに対する痛烈な批判です。
しかし当時のバルサ内部に蔓延っていた、レアル・マドリーに対する引け目に対する強い抵抗感と、バルサの一員である事への“誇り”を、端的に表したフレンキーのコメントでした。

ラ・マシアの生え抜きではない、言わば”外様の中途採用”で入団した外国人選手の、獅子吼の如き発言に胸がすく思いをしたクレもさぞかし多かったでしょう。

フレンキーは、たとえクラブの会長や監督そして副キャプテンの言動であっても、それが間違っている、応援してくれるクレの気持ちを思いやっていないと思えば

【師匠に対して遠慮せずに仁を実践】

したのです。

そのフレンキーの発言が功を奏したのか、バルサはアラベス戦から公式戦(リーガとEL含む)11戦無敗と、好調を維持しました。
そして迎えた3月20日のエル・クラシコ。
敵地サンチャゴ・ベルナベウで0対4の大勝を納めるに至ります。

3月20日のレアル・マドリー戦で、会心の勝利を収めるバルサ。

どうでしょう?
このエピソードがチームに好影響を及ぼしたであろうと、筆者は思ってました。

昨今のバルサでは、多額の移籍金収入が見込まれるフレンキーの売却話が進められたり、彼の高額年俸を大幅カットを要求したりと、フレンキーに対して理不尽でないかとも思える扱いをしている印象はありますが、背に腹はかえられぬというのも、一理あります。

しかし目先の利益を求めるあまり、気高い誇りや魂を持つ若者を蔑ろにするのは、如何なものかとは思ってます。
フレンキー・デヨングは、バルサ復権の為には必要な人材だと思います。

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