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[要旨]

ミスターミニットでは、かつて、経営者層の独断で、女性客に受け入れられることを目的として、カウンターを低くしたことがありました。しかし、女性客からは胸元が見えていないか気になるという苦情が多数届き、失敗に気づきました。そして、このような失敗は、事前に従業員の意見を傾聴していれば、避けることができたものでした。

[本文]

今回も、前回に引き続き、迫俊亮さんのご著書、「やる気を引き出し、人を動かすリーダーの現場力」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、迫さんが、ミスターミニットの業績が低迷していた原因のひとつとして、かつては、ファンドから送り込まれた経営者の方たちが、やる気や能力が高いために、無意識のうちに、従業員の方たちを論破し、空回りしてしまったからであり、したがって、経営者に求められる能力は、部下たちに寄り添い、信頼を構築し、動いてもらえるようにする能力だということについて説明しました。これに続いて、迫さんは、机上の理論が先行してしまったことも、同社の業績を悪化させていたということについてご説明しておられます。

「ミスターミニットは、女性のお客様が多いため、広告代理店に委託して、『もっと女性に受け入れられる店舗デザインにする』という方向で変革に着手したことがある。その中で、女性の身長に合わせて、カウンターも低くしようということになったのだが、これがうまく行かなかった。女性に合わせて、カウンターを下げる、何だか正しそうに聞こえるし、やる意味があるようにも思える。ところが、カウンターの内側は、外側より十数センチ高い造りのため、カウンターに載せた靴を扱う時に、腰をかがめて腰痛になる社員が続出した。また、ターゲットである女性のお客様からは、『カウンターが低くなったせいで、胸元が見えていないか気になる』という声が続々と届いた。もし、初めから現場の人間の意見が反映されていたら、『机上の正しさ』には騙されなかっただろう」(48ページ)

迫さんが示した例は、経営者層が、事前に店舗の従業員の方たちの意見に耳を傾けていれば、避けられた失敗だったというものです。私は、迫さんのご指摘するような体制をとることも大切だと思うのですが、新たな戦術を実際に実践した上で、それに問題がないかを迅速に把握することも大切だと思っています。カウンターを低くすることについては、事前に店舗の従業員の方たちが問題があることが分かっていたとはいえ、顧客からの苦情が届いたことで、問題があるということが把握でき、戦術を修正することができました。私は、戦術の事前の慎重な検討も大切であり、また、実施後の検証も重要だと思います。そういった、実践と検証を迅速に繰り返すことが、競争力を高めることにつながると考えています。

2023/10/3 No.2484

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