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『ひとづくり』は手段ではなく目的

[要旨]

三和建設社長の森本尚孝さんは、かつて同社がリストラを行った経験を通して、ひとこそが経営の中心であり、ひとの基盤さえあれば、少しのことでは会社は倒れないと実感したそうです。このことにより、利益のためにひとづくりをすると考えるのではなく、ひとづくりそのものが目的であると考えるようになったそうです。

[本文]

前回に引き続き、今回も、三和建設社長の森本尚孝さんのご著書、「人に困らない経営-すごい中小建設会社の理念改革-」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、三和建設では、2001年に業績不振からリストラを行なったことを教訓にして、「つくるひとをつくる」を経営理念にしましたが、これは、人づくりによって企業の継続性・永続性を担保するためのもので、そのことによって顧客満足も実現できるという考えによるものということを説明しました。

これに続いて、森本さんは、同社において「ひと」は手段ではなく目的になっているということを述べておられます。「ここで、手段と目的の違いについて問いたい。『つくるひとをつくる』という経営理念は何かを実現する手段である以上に目的である。利益が目的、その手段としてひとづくりをするという会社の方が一般的であろう。しかし、2001年前後の経験を通して、ひとこそが経営の中心であり、ひとの基盤さえあれば、少しのことでは会社は倒れないと実感させられた。自然と目的と手段がひっくり返ったのである。ただし、私は、社員を『大切にしたい』と思って経営しているのであって、特段、『大切にすべきだ』と思っているわけではない。

そもそも、社員を大切にすべきだといっても、企業経営上、社員は財産であると同時にコストでもある。三和建設のような受注産業において固定費となる人件費の増大は経営上のリスクにほかならない。こういうと、社員はコストであるべきではない、資産であるべきという声も聞こえそうだが、このように、『社員を大切にすべき』と考え始めると、「(そうある)べき論』の論争に陥って、先に進まなくなる。しかし、『社員を大切にしたい』と考えれば話は簡単である。『したい』というのは経営者の願望であり、目指す目的として議論の余地はなくなる」

森本さんは、「ひとの基盤さえあれば少しのことでは会社は倒れないと実感」したご経験があることから、ひとづくりを目的にするようになったと述べておられます。かつて、製品をつくれば売れた時代(生産志向)や、性能のよい製品をつくれば売れた時代(製品志向)は、事業活動の目的は間違いなく利益を得ることと言えます。なぜなら、生産志向や製品志向の考え方では、事業活動に関わる「人」には、それほど高いスキルは求められていたかったからであり、「ひとづくり」はあまり重要ではありませんでした。

しかし、現在は、スキルの高い「ひと」が働かなければ競争力の高い製品を提供することができない時代であり、ひとづくりができなければ、「土俵に上がる」ことができなくなったと言えます。このような状況について、森本さんは、「ひとづくりは手段ではなく目的」と表現しているのだと思います。もちろん、経営資源は、ひと、もの、かねの3つということに変わりはなく、ひとさえあればよいというわけではないと、私は考えています。

ただ、VRIO分析の考え方にもあるように、自社の競争優位性は、Value(価値)、Rareness(希少性)、Imitability(模倣困難性)などがどれだけ高くても、それらを活用できるOrganization(組織)がなければ他の優位性は発揮されません。繰り返しになりますが、これからはひとづくりが事業活動で最も重要な課題になっている時代であるという森本さんの着眼点は、私もその通りだと思います。

2024/1/27 No.2600

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