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よい組織風土は所与のものではない

[要旨]

かつての日本の会社では、「日本的経営の三種の神器」があったことから、組織のモチベーションが保たれ、会社が成長しました。すなわち、三種の神器がうまく機能しているときは、組織風土は大きな問題とはなりませんでした。しかし、かえってそのことが、日本の会社の経営者にマネジメントスキルを身につけることの必要性を感じさせなくなり、「素人」の経営者が組織風土を劣化させ、業績に悪影響をもたらすことになりました。

[本文]

今回も、遠藤功さんのご著書、「『カルチャー』を経営のど真ん中に据える-『現場からの風土改革』で組織を再生させる処方箋 」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、長い間、終身雇用、年功序列などが続いてきた日本の会社では、自分では何もせず、他者の企画を批判・批評しているだけだったり、自分が決定しなければならない問題を部下に押しつけたりしている、すなわち、周りの人の努力にフリーライドする人が増え、「弛んだ共同体」の状態になっているので、これを打開するためにも、経営者の方は、組織マネジメントを学び、組織の活性化により注力していく必要があるということを説明しました。

これに続いて、遠藤さんは、フリーライドをするような従業員を排除するためにも、経営者の方は、良い組織風土の醸成をする努力が求められるということについて述べておられます。「日本における伝統的大企業の多くは、年功序列、終身雇用、企業別組合という、いわゆる『三種の神器』をベースにした、いわゆる日本的経営によって、高度成長期に発展し、企業としての基盤を固めた。『大家族主義的』な考え方を重視し、ひとつの同質的な共同体を形成することによって、組織のモチベーションを保ち、会社の成長へとつなげてきた。それがうまく機能しているときは、組織風土は大きな問題とはならなかった。同質性、同一性が色濃く出た集団主義的、全体主義的組織マネジメントの下で、社員たちは懸命に働いた。少なくとも、昭和の時代まではそれが機能した。

しかし、時代が変わり、組織マネジメントの考え方や方法論は大きく変わっている。悪平等を排し、多様性を尊び、透明性の高い組織マネジメントを志向しなければ、組織の風土をよくすることはできない。『社員にやる気があるのは当たり前』、『社員は一生懸命働くのが当然』、『社員は上司に従順』、『社員は不正などしない』とする旧来の考え方は、通用しないばかりか、組織風土を劣化させ、会社の競争力を根っこから削いでしまう原因にもなりかねない。にもかかわらず、組織マネジメントの『素人』が社長や幹部に就き、自己流で脈略のないまま不合理な経営をしている会社が実に多い。そんな会社が、『良い組織風土』を手に入れられるはずもない」(72ページ)

この遠藤さんの指摘も、前回の記事の主旨と同様になりますが、現在は、経営者の方のマネジメントスキルが低いままでは、自社の事業の競争力を高めることができないということです。さらに、遠藤さんは、別のところで、「よい組織風土は、所与のものであるという前提は崩れた」とも述べておられます。これは、かつて、「日本的経営の三種の神器」があったことが、経営者にマネジメントスキルがなくても、自社をうまく経営できるようにしてしまい、そして、その後もマネジメントスキルの重要性を認識する人を減らしてしまったという、望ましくない結果をもたらしてしまったということだと思います。とはいえ、過去のことを悔やんでも何も改善しません。

私は、21世紀はマネジメントの世紀だと思っていますが、マネジメントスキルがなければ、会社の事業を発展させることができないという認識を、多くの経営者の方に持っていただきたいと考えています。そして、難しい病気を治すスキルを持った人が医者であり、複雑な税金の申告をするスキルを持った人が税理士であるのと同様に、厳しい経営環境にあっても事業を改善させることができるような優れた「マネジメント(経営)スキル」を持った人でなければ「経営」者は務めることができないと、多くの人が認識する時代が、1日でも早く到来して欲しいと、私は考えています。

2023/9/21 No.2472

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