見出し画像

雨とコーヒーと彼

雨は結構好きで
太陽とは違うあの、空気が重たくなるような感覚が
ふわふわしている私の足が、地に着くような気がして落ち着く
 
彼は雨が降ると泣いている
そんな自分を嫌っている
私はいつも彼に言う
その涙もいつか虹に変わる、と。
 
彼の涙はいつも美しい
すーっと涙を流す
まるで絵画のように
人を惹きつける何かがあった
 
彼は画家になるのが夢だ
夢がない私とは正反対の星に生まれたようだ
 
絵を描いている時は一言もしゃべらない
すごい集中力で描き続ける
とても力強くでも繊細で
彼の性格がにじみ出るような絵だ
 
彼は雨が降るとコーヒーを飲みたがる
憂鬱な気持ちをなくすために
 
今日は朝から雨が降っていた
外にはどんよりとした雲が太陽を隠している
彼が起きられるようにコーヒーを淹れる
 
雨の日は香りが濃いコーヒーを好む
湿度でさらに濃いにおいが部屋中に漂う
おそろいのインディゴブルーのマグカップに注いで
 
コーヒーにつられて彼がソファーに座る
淹れたてのコーヒーを並んで飲む
彼はあんなに嫌っている雨の絵をかく
幾重にも重なる雨が涙のようだ
静かに私を見つめる
 
空気は重くどんよりとしているけど
私はあなたの雨でさえも愛おしく感じる
雨の音とコーヒーが
彼の未来につながって
 
彼の後ろには虹が見える





解説

主人公

喫茶店で働く23歳、陽(よう)。
太陽のようにまわりをあたためるようにという願いを込めて
陽(よう)と名付けられた。
大学を卒業したが就職はせず
喫茶店でバイトをしている
生活のほとんどを喫茶店で過ごしている

路地裏に入ったところにある昔ながらの喫茶店
オーナーは60歳。
早期退職をして親戚の喫茶店を5年前に引き継いだ
なんとなく面接をしたこの喫茶店を彼女は気に入っている
レトロな雰囲気でジャズがかかっていて
オーナーこだわりのコーヒー豆が並んでいる

出会い

半年ほど前
急な大雨が降ってきた
30分ほど前に来ていた大学生の男の子
初めて見る顔だった
その子が雨を見ながら泣いていた

静かに
穏やかに
とても不思議な光景だった

雨はすぐ止んだ
彼は席を立った
私は思わず彼を見つめてしまった
彼はニコッと笑っていた
自然な笑みに安堵した。

それから彼は雨が降るたびにコーヒーを飲みに来る

きっかけ


その日はオーナーに用事が出来て夕方お店を閉めることとなった
ドアを閉めて施錠をしオーナーと別れる

少し歩いたところで急なゲリラ豪雨となった
折り畳み傘をさがすため近くの軒下に入る
リュックからインディゴブルーの傘を出す

雨は止みそうにないので走り出す
家までは遠くない

ただ、雨が降ると彼が来る
陽は気になって引き返す
彼が来てないか確認するためだけに。

彼は喫茶店の前で立ち尽くしていた

陽は急いで彼のところへ走った

「すみません。今日は都合で17時までだった・・ん・・・です・・・」
彼は泣いていた。
彼の美しい涙に心奪われる

「うちで、コーヒー飲みますか?」
彼は泣きながらうなずいた。

それからごく自然と彼と付き合うようになった

彼はとても繊細だ
画家を目指している二つ年下の大学生だった。
名前は優雨(ゆう)
色素が薄い肌はとっても白くて
きれいな瞳をしている
ふわふわの髪は猫のようだ
彼を見ているとモノクロの世界かと錯覚するほど
白と黒で構成されている
絵をかくこと以外興味はなく
私が淹れるコーヒーを喜んでくれる
とても穏やかで優しくてでも時折とても悲しい顔をしている
それすらも美しく見え私の心を溶かす
陽はそんな彼が気に入っていた


雨と憂鬱

彼は雨が降ると憂鬱になる
雨を見るとそれに比例して涙を流す
まるで絵画のような彼だけど
私には虹に見える

泣くことが悪でも
憂鬱なことが悪でもない

私は純粋な彼と
優しい名前が大好きだ

違う角度から楽しむ

こちらは彼女バージョンのお話です
彼氏バージョンはこちらからどうぞ^^
また違った角度から見る同じ話は
より深く世界に浸れます



儚く美しい詩や物語が好きです★また明日も頑張ろって思えるようなものご用意しています♡ぜひご覧ください。いっしょに素敵な世界線へまいりましょう。