見出し画像

月明かり 《詩》

「月明かり」

満月がくまなく街を照らす夜

僕は自分自身が
失われるべき場所のドアを開けた

その場所に君が

閉じ込められている事を

知っていたから


君は残された短い命を慈しむ様に

詩を書いていた

その事だけは僕には 
はっきりとわかっていた

その場所には僕達ふたりしか居ない

そのドアは一方向にしか開かない


僕等は

正しく人を愛する事が出来なかった

そしてまた

自分自身を正しく愛する事も


沈黙を破る様に風が急速に強くなる

その音だけが聞こえる


僕は君に世界で一番古い
愛の詩を読んで聞かせた

その魔法の言葉が世界を貫き

ふたりをひとつに結び付ける 

離れない様にずっと


風はやがて止む 

そして

月の明かりと愛の言葉だけが残った

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?