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高円寺酔生夢死 トルネードベース編

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かつてWebマガジン「トルネードベース」にて連載していたコラム?エッセイ?よしなし文な「高円寺酔生夢死」をこちらで再アップ。まずはしばしお試し版。
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高円寺酔生夢死 第十六回(終)

さて、前回の続きである。

絶好地なのに店が続かない、果たしてそんな場所があるのかといえば、これが実際に存在するから面白い(店にとっては災難だが)。高円寺駅の南口を出て右を進み、左を曲がるとパル商店街に入る。かの場所は曲がって二軒目のところにある。

「え、駅からすぐでアーケード街の入り口じゃない。何でそんな絶好の場所がNGなのさ?」

人はたいていそう思うだろう。駅から近いし雨風も吹き込むことは

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高円寺酔生夢死 第十五回

高円寺に限らず、春になると新たに開店する店が多くなる。じっくり改装して準備万端で始まる処もあれば、三月で契約が終わると同時に居抜きで一週間足らずの準備で始まる処もある。梅雨明けも間近なこの頃はそろそろ明暗別れる頃でもある。ぶっちゃけて言うと「乗り切れそうな店」と「ヤバそうな店」、この二つに分かれるのだ。

例えばラーメン屋——自信満々に店頭に看板を掲げ、「寄らば食え!」みたいな店は余程旨くは無い限

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高円寺酔生夢死 第十四回

アニメの仕事をしていると当然始まりがあって終わりがあるわけで、そうなると「打ち入り」「中入り」「打ち上げ」と呼ばれる会が行われることになる。実はこうした会というものは、本来音響関係の収録が終了したときに行う飲み会から始まったものである。だから昔の打ち上げなるものは規模もささやかなもので、お金を出していたのは主に音響制作の所だった。監督以下フィルム関係のセクションの人間は、言わばお情けで呼んでいただ

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高円寺酔生夢死 第十三回

以前、友人と昼から朝まで飲めたらどんなに素敵なことだろう、という話をしたことがある。昼は昼食ついでにカフェでビール、散歩をしながら公園のベンチで焼き鳥をつまみながらカップ酒。3時を回ると立ち飲み屋も開店するところも多いので、長居をしないで適当に数軒回り、夕方はお目当ての店で一回戦(今までのは予選である)、飲み友達と合流して二回戦、最後は飲みメインで締め。余力があればもう一軒行くか行かないか…

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高円寺酔生夢死 第十二回

失われた楽園への未練いまだ断ち切れないときにはどうするか——前回は「果報は寝て待て」と書いた。そんなに悠長に待てない、マイペースさんの自滅や気まぐれを待つなんて負けたような感じでイヤだ、そう考える人もいるだろう。しかし、外で飲むという行為自体に勝ち負けはない。気分よく飲めるか飲めないかのどちらかだ。ふらっと河岸を変えてみるというのは今までの自分の酒飲みの日々を振り返る良いきっかけになるだろう。ひょ

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高円寺酔生夢死 第十一回

酒を飲み出して四半世紀——多少誤差はあるが、文字通り一世紀の四分の一も酒を飲んでいる。学生の頃はとにかく飲むために連む、つるむために飲む、という感じだったので行くのは大抵居酒屋が多かった。以前にも書いたが一人飲みをするようになったのは『劇場版機動戦艦ナデシコ』が終わった辺りである。馴染みの店が出来て飲み友達も増えると仕事や普段の付き合いとはまた違う付き合いも始まる。一見、いいことずくめのようだが落

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高円寺酔生夢死 第一〇回

世の中にはローカルルールというものが存在する。一般的ではないかもしれないが、身の回りではそういうことになってるんで一つ宜しくという。高円寺に限らず、飲み屋では当たり前なルールの一つに「姐さん」「兄さん」というのがある。サトウが気づいたのは4歳の頃。当時、爺さんの膝の上でサトウはいつもTV時代劇『素浪人花山大吉』を見ていた。花山の旦那が居酒屋にやって来て、酒やつまみを頼む時に、あきらかに年上な女性に

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高円寺酔生夢死 第九回

ただいま2007年は12月31日。大晦日の夕方にこれを書いている。基本的にこのエッセイはリアルタイムなことは書かないことにしているのだが、今日くらいはいいだろう。

現在、1月から始まる新番組(『シゴフミ』という)を制作している。昔はアニメの新番組というと4月であった。なぜなら基本TVにおける30分アニメは子供の見るものであり、玩具や文房具などスポンサーの商品を売るための販促番組でもあった。それゆ

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高円寺酔生夢死 第八回

飲み屋がよく昼間にランチ営業をやっていることがあるが、なかなかこれは勇気のいる試みである。とはいえチェーン店な居酒屋の場合、バイトの人員やシフトを調整すれば比較的容易だ。なかでも仕込みの必要のない食材(冷凍&レトルト食品など)が配送されるシステムを採用している場合などは、ある意味ファミレスに近いノリである。

問題なのは個人経営の場合。基本的に仕込みは自分で行っているし、一日は24時間しかない。寝

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高円寺酔生夢死 第七回

サトウはたいがい飲めるクチだが、一番はビールである。ビールは国ごとに銘柄があるし、製造方法にもエールにラガー、ランビック。ベルギーのビールに到ってはホワイト、レッド、トラピスト、セゾンにブラウン、ゴールデンエール……何だか色々あり過ぎて、列挙して行くとそれだけでこの原稿の全てが埋まってしまうという非常に楽な展開になってしまう。取りあえず幾つか好きなビールを揚げてみろと言われたら、まずはオランダのハ

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高円寺酔生夢死 第六回

以前、足繁く行っていたタイ料理屋が近所にあった。

歩いて一分ほとんど掛からず。路地の一本道を抜けて商店街に出たところに、その店の入り口はあった。階段を上って二階部分の引き戸を開けると、トゥクトゥクがまずはお出迎え。そして店内に広がるタイの音楽とにぎやかな装飾が屋台な感じで「さぁ食うぞ」という気分にさせてくれた。トゥクトゥクというのは三輪のタイの乗り合いタクシー。元々大型バイクを改造したのが始まり

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高円寺酔生夢死 第五回

高円寺には小さな飲食店も多いが、いわゆるチェーン店も当然ながら多い。思えばチェーン店の居酒屋というのも大したものである。どんな客でも基本的なサービスを安い値段で享受できるのだ。ああいう上っ面だけの接客は好かん、という人もいるが、店の側もお客の側もストレスをためずに時間を過ごすことが出来るというのは実はかなり素晴らしいことだ。いらっしゃいませと挨拶を受け、注文の後にはてきぱきと酒やつまみがテーブルに

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高円寺酔生夢死 第四回

それは突然やって来た。ずいぶん昔になる冬の夜、自宅作業をしていた時に携帯に着信があった。飲み友達のTさんからである。普段は店で顔を合わせるのみで全く電話のやり取りなどしない人なのに珍しい。

「もしもし、どうしました?」
「サトウさん、Bに来て。大変なことになってるの」
「え?」
「ママさんがいなくなっちゃった。マスターは酔いつぶれて寝てるし、訳分からない。取りあえず来て!」

Bというのは当時の

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高円寺酔生夢死 第三回

『学園戦記ムリョウ』を制作中だったから、あれは2000年の夏頃だったと思う。南口のルック商店街の青梅街道側の入り口付近、今は帽子屋になっている所にその店は開店した。

サトウは当時、新高円寺に住んでいたが、ある時JRを利用すべく、青梅街道を横断してルック商店街に入った。ふと見ると、中南米ぽい男性たちが小さなテナントを囲んで何やらにぎやかにしている。思わず足を止めてまじまじと眺めてしまった。

「お

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