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"歴史" 系 note まとめ

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2020年10月の記事一覧

日本史の通史――高校用教科書『日本史a』指導書に書いたもの

はじめに 前近代を学ぶ意味  教科書の序編「近代史を学ぶ前に」の「近代」は英語でいえばModernという意味であるが、Modernは現代という意味ももっている。英語のModernは近代とも現代とも訳すことができるのである。Modernとは、私たちが生きている現在の社会と同じ社会構造をもつとと感じている時代をいうといってよいだろう。英語でModernというと、ようするにフランス革命と産業革命以降の時代のことであって、欧米の人々は18世紀の後半からの200年以上の時代を自分たちの

「歴史学と歴史教育という分業の形を前提とすることへの違和感」

2014年5月28日 (水) 「研究と教育の統一」という命題の特権性の自覚。―歴研大会全体会(2) 140523_100920  これは学芸大の槻の木、ケヤキの木。月神は、桂だけではなく、槻にも降臨するのではないか。似た枝振りなのではないかと思う。  さて、歴史学研究会全体会の話。レジュメに書き込んだメモを忘れないうちに文章化しておく。    まず今野日出晴氏の報告「歴史教師の不在―なぜ『歴史教育』なのか」であるが、歴史学の現状をよくとらえていると思い、賛成のところが多

凡人がCOTENに入社してアレクサンドロス大王になる話

はじめまして、草野陽夏(ひなつ)と申します! この度、株式会社COTENに入社いたしました。 (正式には2020/10/22に入社) 代表の深井さん(@CotenFukai)の弟子としてビジネススキルを継承して事業をガンガン伸ばしていくポジションです。 本記事は入社エントリーとして、 ・COTENて何やってる会社? ・COTENで働こうと思った経緯は? ・代表深井さんの弟子って何やるの? ・今後の目標/ビジョン この4つについて書いていきます! COTENて何やっ

図書館をネットに広く開放せよ。書物の歴史から学べる大きな意義

図書館には、過去の膨大な「知」が収められています。これらをインターネット経由でもっと気軽に利用できるようにできないだろうか、という議論が進んでいます。文化庁は、各家庭への蔵書のネット送信を可能にするため著作権法改正を進めようとしているようです。 この記事にくわしく解説されているので読んでいただければと思いますが、難点として「権利者側が最も懸念するのは電子書籍ビジネスへの影響」と書かれています。これは確かに問題でしょう。調査研究のために研究者が利用するだけでなく、漫画や小説を

「ざっくり過ぎる世界史」にチャレンジ

古市憲寿さんの本のタイトルがいい。 「絶対に挫折しない日本史」。 固有名詞にこだわり、細かすぎる歴史は、確かにその人その時代には詳しくなれるかもしれませんが、全体は見ることができません。それゆえに、挫折する人が多い。そりゃそうですよね。カレーライスで言えば、ニンジンばかりこだわって、スパイスや肉やライスとの関係、カレーライス全体の味を無視しているようなものなのだから。 私は「固有名詞にこだわって」、以下のような歴史記事を書きました↓。 これらは「森を見ずに木を見る」記

文化は魅せなければならないのか?:「ウポポイ(民族共生象徴空間)」について

2020年9月に北海道白老町の「ウポポイ(民族共生象徴空間)」を訪問した。本稿はその感想である。 ウポポイならびにその一部である国立アイヌ民族博物館についてはすでに多くの訪問機や記事が書かれている。その中でも小田原のどか氏の以下の記事は、私のウポポイ理解と共通している部分が多く、また基本的な事実を詳細に記述しているので、まず紹介しておく。 ガイドのホスピタリティーは高く、展示には体験を重視するさまざまな工夫が凝らされており、ウポポイが意欲的であることは確かだ。しかし、小田

1945年8月に日本で革命があった?

 八月革命説 憲法の議論で「八月革命」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは1945年8月に日本に「革命」が起こったという説です。(★以下、憲法の教科書で『八月革命』説についての説明を承知している方は、お読みいただく必要はありません。)  これに対しては「日本は1945年8月に第二次世界大戦で負けて、確かに大きな変動を経験したが、別に革命なんか起こっていないではないか?」という反応が、当然出てくると思います。  しかし、ここでいう「革命」という単語は、一般に使われ

滞独日記「歴史を切らないところが好き。テーゲル空港を訪ねて」

昨日はベルリンへの玄関口、テーゲル空港に行ってきました! はじめてベルリンに来た人の多くは六角形が特徴的なこの空港を利用したのではないかと思います。 じつはこのテーゲル空港、ベルリン国際空港(ベルリン・ブランデンブルグ空港)の建設が始まったため閉鎖することになりました。 詳細はシュタムゲシュタルターさんのnoteに詳しく紹介されています。 さて。現在テーゲル空港の屋上を訪ねると(予約が必要)、要所にパネルが建てられて空港の歴史が展示されています。 やっぱり!と思いま

読書録: 『人口で語る世界史』

 人口の変動という側面から、世界史上の出来事を眺めた本。最も面白いと思ったメッセージは、 ・人口の変動は、経済や産業の変化とは鶏と卵の関係にあるが、確実に関係している。 ・人口の飛躍は、乳児死亡率の低下と平均寿命の上昇によって発生し、出生率の低下によって低減していく。 ・政治的な作為は、マクロで見た時には人口の変動に影響を及ぼすことはできない(ので、一人っ子政策等は無意味である) あたりだろうか。 人口の推移というマクロな現象は、人為的な政策では変えることはできない、と

十字軍遠征は最初からエルサレム奪還がねらいじゃなかった⁉

“十字軍”! 名前がかっこよくて世界史をかじった学生なら誰もが覚えている単語ですよね。 しかし彼らのやったこととなると、なんだかよくわからない。 世界史では、十字軍は、キリストの聖地であり、 イスラム教が支配していたエルサレムを 奪還するための軍隊と習いますよね。 ですが7回200年にわたって行われた十字軍は、 エルサレムを奪還しても長く統治ができなかったり 途中でエルサレムが目的でなくなったり、 一貫してそうで全体がみえにくい。 そのグダグダ感は、将軍争いで10年殺し

アンティゴネーの愛を聞く—ギリシア悲劇のなかの少女のために

アンティゴネにあっては、すべてが愛である。あるいはすべてがいつか愛になる。 ————アンドレ・ボナール『ギリシャ文明史Ⅱ』より  最近、友人の愛娘ちゃん (二歳になったばかり)に「否定する」ブームが来ているらしい。「おかあさん、○○っていわない」「○○しない」などなど、ちいさな彼女は目の前の相手・世界と彼女を区切って、相手から要求された言動をとらないばかりか言葉に出して「しない」と言ったり、親の行動を否定してみたりしている。子育てをしている友人にとってはなかなか手ごわいこと

史料でよむ世界史 6.2.4 宋代の社会と経済 世界史の教科書を最初から最後まで

宋は、これまでの中国の王朝(漢や隋や唐)と違って、タリム盆地方面の領土を持っていなかった。そこで貿易の重心は「海ルート」に移り、長江下流部から南の港町が急速に発達した。インドや東南アジア、それにさらに西からはイスラーム教徒・キリスト教徒・ユダヤ教徒の商人もさかんに来航し、さまざまな文物が流れ込んだ。 ジャンク船という帆船が大型化していったのも、宋代のことだ。 遠洋航海のために、方位を知るためのコンパス(羅針盤(らしんばん))が発達。 火薬の実用化技術とともに、インド洋をわ

史料でよむ世界史 13.3.6 東南アジアにおける民族運動の形成② フィリピン

東南アジアの地域は、タイをのぞくすべてのエリアが植民地の支配下にあった。 いずれのエリアでも、植民地支配に抵抗する運動がみられたけれども、その多くは弾圧され挫折していった。しかしこの時期の運動は、のちの民族運動に大きな影響を与えることになる。 それぞれの地域についてみていこう。 🇵🇭フィリピン 16世紀以来、現在のフィリピンの大部分は、スペインの植民地として支配されていた。 しかし、この時期になるとスペインに留学して大学に通っていた新しい世代のフィリピン出身者が、スペイン

青木健『ペルシア帝国』(講談社現代新書 2020年)の諸問題

「ひどいよドクロちゃん。何がひどいって全部ひどい」  (OVA「撲殺天使ドクロちゃん」第2期4話より)  この記事ですが、タイトルに掲げました通り、青木健『ペルシア帝国』(講談社現代新書 2020年)を読んでの感想や批評、および古代ギリシア史を学んだ人間からのツッコミです。  『ペルシア帝国』がお手元にあって、なおかつどんな問題点があるかを把握したいという人向きの記事ですので、「面白ければヨシ!」という方にはオススメしません。  また、私の専門分野の都合上、本書全体の4分の