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世界史のまとめ × SDGs 第3回 都市の誕生と世界のこれから(前3500年~前2000年)

SDGs(エスディージーズ)とは―

「世界のあらゆる人々のかかえる問題を解決するために、国連で採択された目標」のことです。
 言い換えれば「2018年になっても、人類が解決することができていない問題」を、2030年までにどの程度まで解決するべきか定めた目標です。 

 17の目標の詳細はこちら
 SDGsの前身であるMDGsが、「発展途上国」の課題解決に重点を置いていたのに対し、SDGsでは「先進国を含めた世界中の国々」をターゲットに据えています。
 一見「発展途上国」の問題にみえても、世界のあらゆる問題は複雑に絡み合っているからです。
 しかも、「経済」の発展ばかりを重視しても、「環境」や「社会」にとって良い結果をもたらすとはいえません。

 「世界史のまとめ×SDGs」では、われわれ人間がこれまでにこの課題にどう直面し、どのように対処してきたのか、SDGsの目標と関連づけつつ、歴史地理の両面から振り返っていこうと思います。

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第3回 都市の誕生と世界のこれから(前3500年~前2000年)


Q. どうしてこの時代に生まれた都市は「長続き」しなかったのだろうか?

SDGs 目標2.4 2030年までに、持続可能な食糧生産システムを確保し、生産性および生産の向上につながるレジリエントな農業を実践することにより、生態系の保全、気候変動や極端な気象現象、干ばつ、洪水その他の災害への適応能力向上、および土地と土壌の質の漸進的改良を促す。

歴史:この時代には、植物の栽培や動物の飼育があちこちで発展していくよ。
 特にユーラシア大陸の乾燥エリアでは、厳しい気候だからこそ、大きな川から水を引っ張り大規模な農業・家畜の飼育をおこなうことに成功。


 人口が爆発的に増えて余裕ができた分、いろんな技術や世界観が発展していくよ。
 もちろん自然を大規模に改造して農業をやっているわけだから、しっぺ返しもある。おなじ土地で水を引っ張って農業をし続けることによる連作障害塩類化だ。

 それでも収穫量が増えれば、それを独り占めしようとする人も出てくる。
 でも、たくさんの人を「納得」させるにはどうすればいいと思う?

武器を持っておどすとか…

歴史:実力行使だね。
 「力」(パワー)でねじ伏せせれば大抵の人はあきらめるだろう。
 
 実力行使のためには武器が必要だ。
 食べ物に余裕が出てくると、食べ物を作らずに別の物を作る専門家が現れるようになる。
 例えば金属を作る人だ。金属は骨や石よりも硬いから、当時最強の武器だった。
 これを大量にゲットして兵士たちに持たせ、自分の豪邸や穀物の倉庫を守らせれば良さそうだ。


でも、不満に思う人もいますよね?

歴史:力だけでねじ伏せようとしても、長続きはしないものだよね。
 「この人をリーダーにしたい!」
 「リーダーになるならこの人だ!」というメンバーの気持ちも重要だ。


ただ単純に「強い人」ってだけじゃダメっていうのは、今とあまり変わらないかもしれませんね。

歴史:「なぜその人がリーダーじゃなきゃいけないか」という納得のいくストーリーが求められるよね。
 当時の人たちは、今のわたしたちよりも「人間は自然の一部」という気持ちが強かったと考えられる。
 どんなに頑張っても、「いつ雨が降るか」を自由にコントロールすることはできない。
 自然っていうのは「複雑」だ。
 ほかの動物とおなじように、人間は必ず死ぬ。

 そういう「よくわからない」ものって「怖い」よね。
 「どうして生まれたのか?」「死んだらどうなるのか?」。
 そんな複雑なことまで考えることができるほどの脳の仕組みになってしまったことが、そもそもの原因だ。

そういう「よくわからないもの」を説明してくれる存在を求めているってことですかね?

歴史:それっていつの時代でも変わらないかもね。
 当時の人間たちにとって、「いつ降るかもわからない雨」「いつ現れるかもわからん太陽」「すべてを壊してしまう地震や台風」「いつ死んでしまうかもわからないこの命」。そのすべてを説明してくれるストーリーをわかりやすく提供してくれる人は、リーダーに値する人といえたわけだ。
 彼らはこの世界のさまざまなことを「神様」によって説明した。
 雨の神様、太陽の神様、地震の神様、台風の神様。不吉な神様もいれば、自分たち部族の神様もいただろう。

 複雑な神様とコミュニケーションするためには、複雑な儀式が必要だ。複雑な儀式をおこなうことができる人を、神官(しんかん)とか聖職者というよ。
 この時期に「都市」ができると、その中心には決まって「神様」とコミュニケーションする公共的な場所(大きな神殿)が建てられるようになる。


Q. どうして都市の中には格差が生まれるのか?

SDGs 目標10.2  2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、すべての人々のエンパワーメント、および社会的、経済的、および政治的な包含を促進する。

どうしてわざわざ都市の中心に大きな神殿を建てる必要があったんでしょうか?

歴史
:都市というのは、食料の生産に直接かかわらない人が集まるエリアのことだ。
 都市にはさまざまな場所から食料やいろいろな物、つまり(とみ)が集まる。
 初期の都市の中には西アジアの「ハブーバ・カビーラ南」(下図)のように6000人から8000人の人が暮らしていたところもある。
 そのレベルまでいくと、もはや血のつながりのある人たちだけの群れ(社会)ではないよね。

(書評/小泉龍人『都市の起源 古代の先進地域=西アジアを掘る』,WEB版『建築討論』2016年3月10日より)

歴史:さまざまな人が集まるようになったからこそ、都市の中心には「誰がみてもすごいと思うような大きな神殿」が建てられるようになっていったわけだ。
 当時の都市の支配者には、神殿の権威を利用しつつ同時に王として君臨するタイプの人が多かったようだ
 西アジアのメソポタミアでも、インドでも中国でも、同じような大きな神殿が見つかっている。
 その力が強くなればなるほどより多くの富を集めようとして、都市の周辺の農地でより多くの人を働かせようとしたり、都市の外からあの手この手で富を取り込もうとするようになっていく。
 こうして、都市内部の格差はますます大きくなっていくことになったんだ。



人類はなんのために文字を使うようになったのだろうか?

SDGs目標 4.6  2030年までに、すべての若者および成人の大多数(男女ともに)が、読み書き能力および基本的計算能力を身に付けられるようにする。

歴史:限られた資源をコントロールしようとした有力者の下に、さまざまなバックグラウンドを持つ人々が都市に集まる。
 都市にはさまざまな役割を持つ人々が集まるようになる。

 人による職業の分担(注:分業)が進むこと。
 一般にそれが「都市の誕生」の指標の一つと考えられている。
 

仕事が増えれば増えるほど、さまざまな情報が飛び交うようになりますね。

歴史:コミュニケーションがどんどん複雑になっていくよね。
 人間なんでも自分ひとりでやろうとしたら、時間にも能力にも限界がある。
 だから例えば、「洗濯」してくれたら、「ご飯を代わりにつくる」っていうふうに、仕事の役割分担をするわけだよね。
 「子供の面倒をみてあげる」ことと、「小麦粉を一包」を交換することもあるかもしれない。

なるほど、それくらいなら「恩」っていうか「義理」っていうか、今でもよくある話ですよね。

歴史:そうそう。
 そういうちょっとした「交換」だったら、お互いよく覚えることができるよね。
 でも、街に見知らぬ人が増えていくと事情が変わる。
 どんな基準で「あるもの」と「あるもの」を交換すればいいのか、いちいち記録しておかなければ忘れてしまうよね。
 そこで西アジアの都市では「トークン」といって、粘土を固めた小さな粒に「×」のような記号を刻み、それを交換することによって「なにかとなにかの交換の記録」を表そうというこころみが始まっている(注:代用貨幣)。


それってお金じゃないですか?

歴史:トークンは、「あるもの」を手に入れるときに、それをつなぐ「記号」としての役割をしているよね。
 まあ、それを今では「お金」と表現しているよね。


 重要なことは「手持ちのトークンを支払うことで、「あるもの」を手に入れることができる」っていうことを、その場にいる2人が「納得」しているかいなかってことだ。

 これって、かなり複雑な能力だと思わない?
 

たしかに。「ルール」は目には見えませんもんね。
 

歴史:あるものを、別の何かで表そうってときに、「その別の何か」のことを「記号」というね。
 この「記号」はやがて、「文字」へと発展していくことになる。
 すでに前3300年頃には最古の文字が使用されていたと考えられている。

 文字を必要としたのは、都市の支配層だ。

 都市に集められた金属の原料の重さや数、製品の重さや数、輸出入や販売の記録、穀物が誰から税として徴収されたものかという記録などなど。
 人口や物流が増え、都市のしくみが複雑になればなるほど、実用的な記録を文字に表す必要は急務になっていった。
 人間の記憶力には限界があるし、「とりきめ」を文字にすることはトラブルの防止にもつながるからだ。

歴史:文字はみんなが読み書きできたわけではない。
 書記という仕事は「特殊な能力」だったのだ。

地理:現在の世界でも文字の読み書きを行うには、年齢の若いうちから集中的な訓練を受ける必要がある。
 文字の読み書きができるということは、働く上でも、適切な情報を集める上でもとっても大切なことだ。
 近年では、ようやく世界各地で文字の読み書き能力(注:識字率)が上がりつつある。

1970年代に比べ文字の読み書きのできない人は2015年には半減している(wikimedia


(*第4回に続く)

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