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残り香のなかで

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四半世紀以上の人生を歩んできた中であった、様々な出会いとそこから生まれた大切な愛おしい時間。 時の経過とともに色褪せていくのは仕方ないことだけれど、 記録として残しておきたくて… もっと読む
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#ライフストーリー

もう食べられないナポリタン

正直そこまでこだわりがないけれど、強いて言うならパスタは固めが好きだ。今はもうない、小さなイタリアンレストランの亭主が作るナポリタンが大好きだった。

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小学生のころ、毎日、商店街を通っていた。学校と自宅の距離は片道30分弱ほどあっただろうか。帰宅の際、最初は何人かと一緒に学校を出ても、ひとり、そしてまたひとり「じゃあねー!」とそれぞれの家に帰っていく姿を見送るのが時々、寂しかった。また、家

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たとえ、話すことができなくても。

たとえ、話すことができなくても。

小学校3年生、9歳。初めて「手話」を知った。
学校の道徳の時間で手話を教えてくれるNPOの方がいらしたことがきっかけだった。

耳が聞こえない為に、相手が何を言っているのか、わからない。
さらには自分の声がどんな声をしているかがわからない方が世の中にはいらっしゃるんだ、ということを初めて知って衝撃を受けた。

ありがとう、そして、ごめんなさい。

文面上ではわかっても、これをどう発音するのかわから

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去年の自分をPRONTOで見た話

去年の自分をPRONTOで見た話

PRONTOでnoteを書いているとあわただしく若手のバリキャリ風のOLさんが隣の席に座った。
メニューをがさつに閉じて、PCを開き、注文を取りに来た店員さんの顔を見ることなくパスタとコーヒーを注文した。
髪の毛は無造作に一つ結びしていて、マスクのせいもあるのか、お化粧はほとんどとれていた。

パスタが来ると器用にパスタとコーヒーと、パソコンの三角食べならぬ三角対応を繰り広げていた。

仕事の締め

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8年間同じ美容師さん髪を切ってもらう理由について。

8年間同じ美容師さん髪を切ってもらう理由について。

その美容院に初めて訪れたのは17歳のころだった。もう8年も前のことだ。

変わりたい。殻を破ってみたい。

そういう想いで当時高校生だった私はHotpepper から予約を入れた。

髪を切るためだけに電車に乗って、神奈川の田舎から外苑前駅に降りたった時の興奮は、今でも鮮明に覚えている。

今に至るまで、留学で物理的に通えないこともあれば、1回だけ浮気心からほかの美容院に行ってみたこともある。しか

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単調な毎日に「旬」というスパイスを少々。

単調な毎日に「旬」というスパイスを少々。

トルコキキョウ。まるでフリルのような花びらを持つその花は、おとぎ話とかに出てくる妖精さんのスカートのようだ。

週末に開催されるファーマーズマーケットで花屋の姿があった。たくさんの美しい花がところ狭しと並ぶ中で、真っ先に目を引いたのがトルコキキョウだった。そのトルコキキョウはくすんだピンク色をしていた。夏が終わり9月も中旬になった今、鮮やかさや原色の持つ強さよりも、少しくすんだ色やこっくりと深みの

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カラオケに行ったらちょっとエモくなってしまった話

カラオケに行ったらちょっとエモくなってしまった話

水曜日あたりから歌いたい、という衝動に駆られ、ついに土曜日を迎えた。その歌いたいという想いは抑えきれずにあふれ出し、とうとう一人でカラオケに行ってきた。久しぶりのカラオケに、機械の使い方を忘れてしまっていた。

採点の仕方、キーの変更の仕方。。。途中までわからずに男性の歌も原曲で歌う始末。

心の底から思いっきり歌って体にたまってる何かを出そうとしても、私の場合好みが偏っていて歌はだいたいエモい選

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40年続く朝のオムレツレシピ

40年続く朝のオムレツレシピ

やってしまった。。。まあいいか。

朝ふと目を覚ますと、時刻は8時30分。寝坊した。
平日にもかかわらず、気が付けばもう10時間以上寝ていた。本を読みながら寝落ちしたらしい。電気もつけっぱなしだった。後悔と開き直りの気持ちが交互に浮かんでくる。

カーテンを開けて日差しを取り込み、お湯を飲みながらストレッチをしていると、すごくお腹が空いてきた。

限界。

時間がいつもよりも無いくせに、気分に従っ

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父の作る角煮に泣いた話

父の作る角煮に泣いた話

今年で、実家を出てもう4年目になった。5月のゴールデンウィーク中にアマゾンで頼んだ商品が間違えて実家に届いてしまったので、父が用事のついでに自宅の最寄りまで届けに来てくれることになった。

私が実家に帰ればいいものの、当時は仕事の繁忙期と重なってしまって忙しすぎて時間が作れなかった。コロナの影響で在宅勤務であるにも関わらず、自分の生活がなおざりになっていて、冷蔵庫の中身が豆腐一丁とアボカド半分だけ

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世界は誰かの仕事でできている

世界は誰かの仕事でできている

仕事からの帰り道。夜遅いと駅から家までの道のりはそこそこ暗いし静かだなと思っていたが、幸いなことに最近は大型の道路工事のおかげで明るくて人も多いし、非常に安全である。

ある日のこと。夜23時頃だろうか。雨が降る中、家に向かって一人速足で歩いていた。途中で赤信号に引っかかり、色が変わるのをぼーっと待っていたところ、工事現場のおじさんが話しかけてきた。

「遅いねえ。大丈夫?」

彼の人懐っこそうな

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