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恋はすべてスマホの中へ

昭和の恋は窓硝子を叩く音。
木に登って彼女の二階の部屋の窓硝子をコツコツ叩いた奴もいたが、
小さな石を二階の部屋の窓へめがけて投げた奴もいる。
これができるのは、彼氏彼女が木造家屋の二階の部屋に住んでいる場合だ。
テレビドラマでもこういうシーンはあった。
気軽に家に電話を掛けられない、
何が何でも彼女に会いたい、
そんなとき、自転車に乗って彼は彼女の部屋の下まで突っ走る。

当時、電話は固定電話しかない。
ましてや子機は無い。
電話が居間にある場合は最悪で、親が目の前をちょろちょろする。
電話をかけて父ちゃん、母ちゃんが出ると何となく気まずいので、
八時にかけるから絶対出てねと約束しても、
思わぬタイミングで父親が電話に出てしまうときもある。
昭和の恋にはこうしてどうしても親が介在することが多く、
親が立ちはだかることもある。
自分だけの秘密を持ちたい年頃に秘密を持ちにくい苛立ちと
干渉して欲しくない苛立ちがない交ぜとなったもやもやは、
多感な思春期の十代が鬱々とするには十分だった。
だからみんな、早く大人になって家を出たいなぁと思っていた。

私が部屋の扉を閉めたり、襖を閉めたりして彼氏に手紙を書いた行為や
友だちが彼女の二階の部屋の窓へ小石をぶつけた行動は、
今ではスマホの中にすべて入ってしまった。
誰に気兼ねすることもなく、いつでもどこでも好きな人へ連絡できる。
私はそれを羨ましいよりも不思議な思いで見ている。
そこには頑固オヤジも口うるさい母さんもいない。


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