消えていくなら朝1

最後の秘境は宇宙でもなく深海でもない。それは家族…★劇評★【舞台=消えていくなら朝(2018)】

 最後の秘境は宇宙でもなく深海でもない。それは家族だ。最も身近で最も親密な、自分の根元のように感じてはいても、家族それぞれの心のベクトルがたいていは家庭の外に向いているために、最も知られざる世界になりがちなのが家族なのだ。それは親子、きょうだい、夫婦、それぞれの間に存在する。そしてそれは幼いころから徐々に醸成され、大人になって気が付いた時、真っ正面からぶつかった時には深刻な問題となる。なにしろ降り積もって来た年季の入り方が尋常ではないからだ。そんな「すべてを知っているようで、何にも知らない」家族というものを、気鋭の若手劇作家・演出家の蓬莱竜太が自らの体験に惹きつけるという過酷な作業を経て、新国立劇場に舞台「消えていくなら朝」として書き下ろした。容赦ない互いへの攻撃、取り返しのつかない喪失感、しかし次の瞬間には元の生活を続けている不思議な感覚も浮遊していて、家族というもののワンダーランドな混乱ぶりが克明に描かれていくこの作品は、若いころから会話劇の名手として新国立劇場に「まほろば」という名作を残している蓬莱が、感情を乗せる言葉としてのせりふを操る感性をさらに鋭いものにしていることを表す問題作となっており、今後ますます目の離せない作家となりそうな予感を大いに漂わせている。演出は8年間務めた新国立劇場の演劇部門芸術監督として最後の演出作品となる宮田慶子。(舞台写真撮影・谷古宇正彦)
 舞台「消えていくなら朝」は7月12~29日に東京・初台の新国立劇場小劇場[THE PIT]で、8月4日に兵庫県西宮市の兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで、8月8日に愛知県豊橋市の穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホールで、8月12日に福岡県糟屋郡新宮町のそぴあしんぐう大ホールで上演される。

★舞台「消えていくなら朝」公式サイト
http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/16_009662.html

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