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季節限定商品〈ル デリス〉…パステルカラーの人気者。トヨ型?そのこだわりについても。


シェフの進藤です。
本日ご紹介するのは、季節限定商品〈ル デリス〉。
春らしい〈パステルカラーな色合い〉と、プラス、女子人気の高い〈ベリー×ホワイトチョコ〉を美味しくマリアージュしたプチガトー。なので、毎春大人気のケーキです。先日、再登場を果たしましたが、今年もよく売れています。ありがとうございます! いつも通り季節限定商品ですので、次のケーキに席を譲る為に、6月頃には終売予定。気になる方はお早めのご購入を!
では以下は、その〈ル デリス〉の詳しい説明になります。

のっけから少し話が逸れてしまいますが、ムース商品を開発する際には毎回、一番最初に型のチョイスという大問題があり、昨今では様々なシリコン型(半円、スクエア、円柱、円錐、ピラミッドetc…)が各社から販売されているので、型選びがより難しくなっている印象。レシピ開発者は、他のケーキと並べた時の見栄え、作業性、お気に入り、新発売の型等、その時点での判断で型を1つ選ばなければなりません。悩ましい…。とはいえ、私は色んな型を使ってかれこれ20年以上お菓子を作っているので、既にお気に入りの型が幾つかあり、その内の1つが下の写真、本日の〈ル デリス〉の仕込みに使う《トヨ型》です。

“雨樋(あまどい)”の形をしている型で、昔から場所によっては雨樋をトヨと呼んでいるようで、製菓業界ではたぶん日本全国《トヨ型》で通じると思います。なぜお気に入りなのか? 答えは簡単、ムースを柔らかく作る事が出来るから。私は全てのケーキを、出来る限り柔らかく作りたいんです。それが美味しいケーキの1つの要素なので。ですが、テイクアウトされるケーキ故の〈持ち運びしても崩れない〉保形性と、美味しさを追求するが故の〈柔らかいテクスチャー〉の重要性という、相反する2つによる板挟み。レシピを作る際は、その両立・調整に毎回頭を悩ませているんです。ですが、ケーキの美味しさを最優先とするならば〈口の中に入れた途端にとろける〉方が絶対に美味しいのは明白。ゼラチン等でブリブリに固められていて〈口の中で溶けずにマゴマゴする〉なんていうのは、私には許せない。結局その板挟みの中、長年アレコレと考えた末に、建築の構造にヒントを得て導き出した自分なりの答えがあります。

一番ベストは〈ドーム型〉。商品を半球状に作れる型です。かなり柔らかいレシピでも、重力を全方向に逃がす事ができるので変形しにくく、保形の面では一番の優れ物かと。以前に友人に勧められて《ラ スプランドゥール》というパティスリーの、ドーム型で作ったムースケーキを食べた時、激しい衝撃を受けました。持ち帰った時にはまだしっかりと半球状を留めていますが、フォークを入れたとたんに切れ目から離水が始まり、半球の形がみるみる内にひしゃげてしまいました。〈柔らかく作りたい意志〉がこちらにも強烈に伝わりました。本当に素晴らしい創作。同じパティシエとして、悔しいですが感動したのを覚えています。ですが、ドーム状だとプレゼンテーションの幅が狭いのが、私としては気に入らなくて。上からグラサージュをかけ、トップかサイドに何か飾るだけ。〈できれば、わざわざ綺麗に作った断面を見せたい!〉と私は思ってしまうので…。

2番目は、型の良し悪しからは少し外れてしまいますが、製菓の比較的新しいテクニックの1つとして、〈ムースの周り全面にチョコレートをまとわせ、冷蔵で固まったそのチョコの強度によって中のムースを柔らかく保つ〉という手法があるんです。初めてフランスでそれを見た時は〈画期的!〉とビックリしました。ですがそれでは、周りにかかった多すぎるチョコによって、味のバランスが大きく崩れてしまうので、私はNGに。

そして辿り着いた私なりの解答が、前述の〈トヨ型〉です。一番重力のかかる頂上から、なだらかに降りていく半球の形状が、かかる重力を緩和して柔らかいレシピでもどうにか変形を抑えてくれます。この型の素晴らしいのは、保形と共に、綺麗に作った断面が見せられる事! 元々シンプルスタイルが好みなので、断面の色・形を見せる事が出来れば、余分な飾りを足す必要が無いと考えます。海外を経験し、やはり日本人の〈美〉は〈削ぎ落とす、引き算の美〉だと再認識したので。上面が円形なので、グラサージュを流すだけで容易にかけられる点も気に入っています。

そのお気に入りの型で作った〈ル デリス〉。パリでの修業中に教わった沢山のテクニックを詰め込んだ、ベリー×ホワイトチョコがベースのケーキになります。構成は上から、ピカピカ艶々ミルクのグラサージュ・柔らかい苺のムース・自家配合のミックスベリーのジュレ・ホワイトチョコムース・ピスタチオのスポンジ・ホワイトチョコのフーユチン(サクサククッキー)です。底にサクサクがあると美味しいんですよね~。一時期は、全てのケーキに入れたい衝動を抑えるのが大変で(笑)。
ちなみに、私がパリで学んだフランス菓子の極意の中に〈強い甘みは強い酸味で中和する〉というのがあり、それを応用して、濃厚なホワイトチョコの甘みをミックスベリー(ストロベリー・ラズベリー・カシス)の酸味と爽やかさで中和しています。そして、その〈ミックスベリー〉には市販のピューレ商品があるのですが、私が思うに、3種のフルーツの味に偏りがある気がして嫌で、自分自身での自家配合にこだわっています。また、ピスタチオのスポンジケーキには、別のケーキ〈リュクス〉を作った時に開発した、こだわりのピスタチオペーストを使用。フワフワと漂うビターアーモンド香がたまりません。

このケーキも甘味・酸味・食感・味のバランスに注意しながら試作を重ね、いつも通り〈日本人の味覚〉に合わせて調整を繰り返した物なので、ケーキ通の方にはもちろん、フランス菓子初心者の方にも美味しく召し上がって頂けると思います。自分で言うのもなんですが、かなり美味しい(笑)。名前の意味は、フランス語で〈とっても美味しい物〉なので間違いないかと(笑)。
ちなみにですが、このケーキも含め、当店のケーキはほぼ全て〈違いの分かる大人向き〉。

では、いつも通り論より証拠。本日も、ご来店をお待ちしております。
※あ、1つ注意がある事を忘れていました。上記の様に、当店のケーキは全て〈ギリギリの柔らかさ〉を追及している都合上(それが美味しさの秘密の1つなんです)、長時間の持ち歩きには耐えられません。〈到着し、開封したら倒れていた〉という悲劇を生まない為に、当店のケーキについては〈持ち歩き2時間までの方への販売〉とさせて頂いております。わざわざ遠くまで宣伝してあげるのに…と憤慨されるお客様もおられますが、心配には及びません。『近くに〈進藤〉があってよかったね』と言われる事で十分ですので。


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