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【家づくり×エッセイ】 大好きな学習机の思い出は錯覚だった

小学生になった時、私は学習机を両親からプレゼントされました。デパートに行って買ってもらった時は本当に嬉しかったことを覚えています。学校から帰ると宿題をしたり、本を読んだり、私は机に向かう時間が長い子供でした。

そうです、私はプレゼントしてもらった学習机が大好きだったのです。

私は4人兄弟の上から2番目。すぐ下は2歳離れた弟がいて、私が小学1年生の時に生まれた末の弟がいます。ちょうど学習机をプレゼントしてもらってほどなく末の弟が生まれました。

当時の実家はとても古く、リビングダイニングというようなおしゃれな洋間はなく、居間兼食事をする和室が1室あるような家でした。学校から帰るとその居間では弟二人が遊んでいます。年の離れた末の弟はかわいいけれど、男の子二人がじゃれあったり、末の弟が泣いたりと家の中はかなりの賑やかだったと思います。
まあ、賑やかと言えば聞こえはいいですが、簡単に言ってしまえば騒がしかったのです。

私はそんな状態の居間から離れるように、買ってもらった学習机で宿題をしたり本を読んだりしていました。弟たちと全然遊ばないということではないのですが、そんな騒がしい環境よりも自分の学習机に向かえる環境を好んでいたのです。

一方、弟が小学生になると、まったく学習机の前に座ろうとしません。宿題をちゃんとやっていなかったというのもあるけれど、仮に宿題をやるしても、みんなが騒いでいる中で平気で宿題をこなすのです。

中学生になっても私と弟の違いははっきりしていました。私は大好きな机に向かわないと集中できなくて、弟はどこでも平気でノートを広げます。

弟の学習机の上はいつも散らかっていて、教科書やノートの山。
弟にとってみれば、机に向かう意味なんてなかったのかもしれません。彼はどこでも、集中できたから。

ある時、大学受験を控えた兄の部屋を覗くと、兄はラジオを聴きながら勉強していました。よく、音がないと寂しいと言って音楽やラジオを聴きながら勉強したりする人いますよね。まさにそのタイプなのです。

私はその様子を見た時、本当に不思議で仕方がありませんでした。
なんで、そんな音があるところで勉強ができるのだろうかと。

「ラジオを聞きながら勉強ってできるの?」
「できるよ。聞こえていたり聞こえてなかったりしているんだよ。全部聞いているわけではないから」
兄は平然と答えます。
もっと大人になったら、そのうち聖徳太子のように色々と聞こえていても聞き分けることができ、音が気にならなくなるものなのかと思いました。

現在、私の仕事場の隣には公園があります。日中は保育園の子供たちが遊ぶこともあるし、午後からは小学校が終わった子供たちが夕方まで元気に遊んでいます。
風の気持ちのいい季節、窓を開けて仕事をしているのですが、私は外の音が気になって窓を閉めることがあります。子供たちの声が耳に入って集中できないからです。

私は気がつきました。大人になったら誰でも音が気にならなくなるということではなく、私はずっと気になるんだと。

そう、実は人にはそれぞれに特性があります。音を気にしないで物事に集中できる人とそうではない人がいるということです。

兄や弟は音が気にならない人、私は音が気になる人。そんな違いがあるのです。

皆さんは、音があっても集中できるタイプですか?
それとも、静かな方がいいタイプですか?


もちろん、どんなことをするのかによって音がない方がいい場合と、あっても大丈夫な場合があると思います。
でも、この音をシャットアウトできるかどうかというのは、その人個人の特性だと言われています。

考えてみると、小学校高学年になった時、子供部屋を与えてもらいました。その部屋に面しているお家から、たまにものすごい大きなテレビの音が聞こえてきます。
その時、私は大好きな学習机を離れて静かな場所へ移動しました。

そうか、私は学習机が気に入っていたのではなく、ただ静かな場所が好きだったということなんだ。
たしかに、高校生になった時その学習机は末の弟のものになり、私の勉強机は、父がどこかから持ってきた事務机に代わりました。
でも、それでも全然問題なかった。

買ってもらった学習机が嬉しくてそれがよかったわけではなく、私はただただ、静かな場所じゃないと集中できなかったからなんだと、今ならはっきりわかります。


音に対してのその人の特性を知ることはとても大切なことだと思います。

例えば、お子さんに目の行き届くところで勉強してもらいたいからと、リビングにスペースをつくることを考えたりしていませんか?
でも、お子さんが音が気になる特性を持っていたら、リビングだと勉強に集中できない可能性があります。
もしくは、勉強している時は、じっと家族みんなで息を殺して過ごすしかありません……。考えるだけでも、窮屈です。

家族みんながハッピーでいられるためには、それぞれの特性にあった家づくりを考える必要がありますね。

大人になるまで気がつかなった私の特性。
そして、私は大人になるまで大いなる錯覚をしていました。私は買ってもらった学習机が好きで机に向かっていたのではありません。
ただ、学習机が置いてあるそこが静かな場所だった。それだけ。

子供の頃の思い出は、私が自分の特性に気が付くきっかけをくれました。
大いなる錯覚も、いい思い出になりました。

ちなみに、環境心理学という分野では、外的刺激を遮蔽(スクリーン)できる人をスクリーナーといい、反対に遮蔽できない人をノンスクリーナーと言います。程度の差こそあれ、人はどちらかの特性を持つものです。スクリナーが優れているとか、ノンスクリナーが劣っているとかそういう話ではありません。あくまでも、その人の持つ特性だということをご理解ください。


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