動物たちは会話をしている。
今回は、ミツバチの会話についての話。
かつて、カール・フリッシュという学者が、ミツバチが「会話」をしていることを明らかにした。
フリッシュ氏は、少年時代、学校をサボってまで動物たちと過ごしていた。日々、自然と動物を眺めて何時間も過ごしたという。
後に彼はこう語った。「通り過ぎる人たちには見えないが、忍耐強く観察すれば、奇跡の世界を見ることができる」
彼は、長い時間をかけて、何千匹ものミツバチを追跡し分析した。まわりから到底不可能と言われたが、やり遂げた。
西洋ミツバチは、腹部を左右にふりながら8の字を描くように(ワグル・ダンス)飛ぶ。
このワグル・ダンスを含むミツバチの行動を分析。腹部や羽から発生する振動の細かな違いも。
フリッシュ氏は、ミツバチがそれらを駆使して、驚くほど正確な情報を伝達しあっていたことを見出した。
たとえば。羽を鳴らしながら進み、羽を鳴らさずに戻る。このふるまいで、蜜源の方向と蜜源までの距離を伝えあっていた。
フリッシュ氏が、それまでの常識をくつがえす話を公表した時、多くの学者がそれを否定した。昆虫の小さな脳で、複雑なコミュニケーションなど不可能だと。
ある学者は、においで見つけているだけだと主張。それに対しフリッシュ氏は、湖や山を越えるなど、とても遠い場所まで仲間を案内したミツバチの実例を示した。元々、他のミツバチもそこを知っていたんだろうなどの指摘には、「実験のために私が用意した餌場なのだが」と返した。
無類の動物好きと類まれなる忍耐強さで集めた証拠で、あらゆる反論を完封。1973年にノーベル賞を受賞。
この時に賞の委員会が出した推薦文は、昆虫の能力を認めようとしない人類の「恥知らずな虚栄心」についての一文で、締めくくられた。
1900年頃には、環世界(Umwelt)の考え方なども提唱されていたのだから、特に受け入れがたい話でもなかったと思うのだが。
行動とは、脳で思考した結果としてのみするものだろうか。
環世界:生物が、それぞれ独自の時間・空間として知覚し、主体的に構築した世界のこと。提唱者は、それぞれが意思をもって知覚世界を構築するのではなく、自然設計に組みこまれているものであることを強調した。
コクマルガラスは、バッタが動き出すと食いつく。
気づいた/意識が向いたというよりも、もっと。動き出した瞬間が、コクマルガラスにとって、そこにバッタが出現した瞬間なのだ。静止しているバッタは、いないも同然なのだ。※コウモリと違い、鳥は目が見えるのに。
映画『トゥルーマン・ショー』。
こういうセリフがある。「なぜトゥルーマンはここまで気づかないのか」「我々はみな、自分の目の前に提示された世界をそのまま受け入れている」
クジラなどがエコロケーション(反響定位)を使うように=生まれつき使えるように、ミツバチにはミツバチの「言語」があるというだけのこと。ミツバチの言語とは、空間的で振動的なものなのだ。
ミツバチは視力のよい生物だ。たとえば、モネとピカソの絵を見分けることができるし、人間の顔も区別することができる。
これは私にも体験談がある。スズメバチだが。
彼女は、私と、私と背格好の似た違う女性とを見分け、私だけをつけ狙ったことがある。ヤるつもりだったんだろう。
どうしても巣作りをしてほしくない場所に巣作りをする女王様を、私は滅したくはなかった。毎日作りかけの巣を破壊することで、どうにか候補地を変えてもらおうとした。他の人たちは本体への武力行使を提案し、折衷案派は私だけだったのに (涙)。
会話ができたらなと思った。言語が違うので無理だった。
これもフリッシュ氏の実験。
蜜を得るための行動を見せて教えると(紐をひっぱるなど)、ミツバチは学習した。つまり、それだけしっかりと見えている。
巣によって、踊り方に癖があることも発見した。どうやら、ハチ族には「方言」まであるようだ。
ちなみに氏は、当初、このことは隠していた。少なくない数の人たちに、基本の見解さえ拒絶されたため。方言があるなどと言ったら、自分は、もはやキチガイ扱いをされると思ったそう。
たしかに、キチガイではないが、方言を肉眼で確認した彼のハチヲタ度はすごい。
科学技術の進歩により、振動を信号として細かく解読できるようになった。今では、ミツバチ・ロボットも作製されている。振動のパターンを模倣するロボットだ。
ロボミツバチ初号機では、こんなことが起こった。リアルミツバチがロボミツバチを攻撃した。噛んだり巣から引きずり出したり。
ロボミツバチ7号機ではじめて、変化があった。ロボミツバチは排除されず、リアルミツバチに普通に意識を向けられた。
まだ研究中のことだが、ポイントは、「挨拶」なのではないかといわれている。会話をする前に、会話自体とはまた別の信号を発する必要があるのではないかと。
7号機のつくりが、偶然このシグナル(振動)を発したため、ミツバチたちが意識を向けたという仮説。
なかなか有力な仮説に思える。挨拶かどうかはわからないが。仲間だと知覚するのに、何かしらのトリガーがあるような気はする。前述した、環世界の補足説明を思い出してほしい。
伝達が成功すれば、完成するのは、いわばバイオ・デジタル翻訳だ。
人類は、実は、古くからミツバチとコミュニケーションをとってきた。
ブルローラーは、人類最古の楽器の1つ。90ヘルツ~150ヘルツの、大きなハム・ノイズを奏でる。プロペラ音のような音がして、まるで、ハチの群れの中にいるようだという。
アフリカには、このブルローラーを使って、ハチの群れを誘導してきた部族がいる。巣をつくってほしくない場所からどかしたり。(私に必要なのはこれだったようだ)
また、3000年前から、ヒンドゥー教の書物には、「蜂蜜の教義」が書かれている。地球は、全ての生物のためのハチミツであり、全ての生物はこの地球のためのハチミツであるーー。
こういう話で、多くの人が懸念を抱くのが、生物の軍事利用、動物がスパイ活動などに利用されることだ。ロボミツバチも、誰かにバッチリ目をつけられていそうだ。嫌な話だ。
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おまけ
ハチが違う方法で会話しているのをふまえて、この動画の、開始36分あたりからを聞いてみてほしい。理解が深まる気がする。