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「辻村ワールドすごろく」のすすめ あなたにとって大切な1冊が、きっとここから見つかります

辻村深月さんの作品は、基本的にはそれぞれの作品内で物語が完結する構成になっていますが、作品によっては読む順番が存在するシリーズのようなものがあります。

それは「辻村ワールドすごろく」という名称で、順番通りに読むことで面白さが何十倍にも増す仕掛けになっているんです。

当記事では、「辻村ワールドすごろく」の全作品を読んだ僕が、その全作品についての紹介と感想、そして魅力について書きました。


辻村ワールドすごろくとは?

辻村深月さんの作品は、登場人物や世界観がつながっていることがあります。その中で講談社(文庫)で刊行された作品に関しては、「辻村ワールドすごろく」と称して、すごろく表が帯などに掲載されています。順番に読むことで、単体の作品を読んだだけではわからなかった真相や登場人物の過去や未来がわかり、面白さが何十倍にも増す仕掛けになっています。

すごろく表には2種類がありますが、最新のすごろく表は以下の通りです。

「辻村ワールドすごろく」


辻村深月ワールドすごろくには読む順番がある?

どの作品も物語自体はそれぞれの作品内で完結しますが、登場人物がそれぞれの作品でリンクしています。
中には作品の重要部分に関わってきたり、スピンオフ作品もあるため、守ってほしい読む順番があります。

守ってほしい読む順番

📖『子どもたちは夜と遊ぶ』→『僕のメジャースプーン』→『名前探しの放課後』の順に読む

この3作に関しては、内容が作品の重要部分に関わってくるため、順番通りに読まないと、登場人物の会話の意味などがわからないままになってしまいます。

スピンオフ作品

本編を読んだ後に手に取ることをおすすめします。

📖『V.T.R』
『スロウハイツの神様』の作中作。
本作の登場人物である人気作家・チヨダ・コーキが17歳の時に描いたデビュー作。

📖『ロードムービー』
『冷たい校舎の時は止まる』のスピンオフ短編集。

📖『光待つ場所へ』
辻村ワールドすごろくの作品、『スロウハイツの神様』『凍りのくじら』 『ぼくのメジャースプーン』『名前探しの放課後』『冷たい校舎の時は止まる』による5編のスピンオフ短編集。

読みたい作品から読もう!

基本的には順番通り読んでいけば間違いありませんが、気になる作品があればそこから読み始めても良いと思います。
たとえば、デビュー作の8.『冷たい校舎の時は止まる』と11.『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』は他の作品の登場人物は出てきません。そこから読み始めて、その後に他の作品を読む楽しみ方もあるでしょう。

※ちなみにですが、登場人物の相関図はあえて情報を入れずに読み進めていったほうが楽しめると思いました。あの作品で出た人物が登場することでの驚きと興奮が違ってくるからです。

辻村ワールドすごろくの全作品紹介と感想

辻村ワールドすごろくにある全作品の紹介と僕が読んだ感想について以下にまとめました。

ここでの掲載順は、すごろく表に掲載されている順番通りになっています。

1.『スロウハイツの神様』

辻村ワールドはここから始まる。
アパート「スロウハイツ」で共同生活を送る、オーナーの赤羽環をはじめとした6人の創作者(の卵)たちの物語。互いに刺激しあっていた6人だが、空室だった201号室に新たな住人がやってきて物語が動き始める。
上巻は、住人たちを掘り下げる場面が多く、冗長的なのは否めません。
しかし、下巻に待っている伏線回収には圧巻の一言。さらに、6人の住人たちのしたたかさ、優しさに感動が止まらなかったです。
これ以上ないくらい、創作への、そして人への愛に満ちている1冊。
読むと、自分にとっての「好き」を優しく肯定された感じがして、現実と向き合う力を与えてくれます。
環をはじめとした住人たちの個性的で強烈なキャラも強く印象に残るはず。


1.5.『V.T.R』

『スロウハイツの神様』の作中作で、その中の登場人物である人気作家チヨダ・コーキのデビュー作。
誰を殺しても罪に問われないマーダー・ライセンスの資格を持つティーが、3年前に別れたアールを追う物語。
作中作といって侮っていたかもしれない。ラストに待っていた真相に驚きでした。本人と同じく、チヨダ・コーキが描く世界にも「愛」を感じさせますね。
そして、解説のこれ以上ない人選!その内容にもすごく響くものがありました。


2.『島はぼくらと』

瀬戸内海に浮かぶ島、冴島(さえじま)に住んでいる高校生、朱里、衣花、源樹、新の4人をはじめ、その島で生きる人たちを描いた物語。フェリーで本土の高校に通う彼ら4人は、進学する場合は卒業と同時に島を出ないといけない。それぞれ別々の進路になる彼らの別れが迫る中、冴島に「幻の脚本」を探しにきたという見知らぬ青年に声をかけられる。
故郷や地方で生きること、生々しい大人の人間関係について考えさせられました。冴島に関わる人達の、そして4人の絆の深さに思わず心が暖かくなります。
中盤にある人物が重要な場面で出てきたこと、どうつながっているのかが分かった時はやっぱり興奮しましたね。
そして、ラストシーンのある登場人物のふとした行動には感動させられドキドキしました。


3.『家族シアター』

家族をテーマにした短編集。
劇的に話が変わる展開や終わり方ではないけど、読んで良かったと自然と思わせてくれる温かさがあり、家族を大切にしたいと改めて思わせてくれます。
中でも「1992年の秋空」はその後が知りたくてたまらなかったという意味で印象に残りました。
……と、読了時には思っていたましたが、実は辻村さんの最新刊『この夏の星を見る』で主人公の姉妹が登場しています。辻村ワールドはこうして生き続けているんですね。


4.『凍りのくじら』

藤子・F・不二雄を深く敬愛する写真家の父の名を継いだ新進フォトグラファー、芦沢理帆子の高校時代の物語。どこにいっても居場所がないと感じていた理帆子は、夏の日の図書館で一人の青年に出会い、物語が動き始める。
ミステリとも青春とも違う、少し不思議な物語だけど、考えさせられる部分や響く言葉の数々に夢中になって読んでいました。そして、ラストのあっと驚く展開には心に光を照らされたような感覚になり、元気をもらいました。
本作の章タイトルはすべて『ドラえもん』のひみつ道具になっていて、辻村さんのドラえもん愛も感じさせる作品でもあります。
本作は、きっとあなたの心にも光を照らしてくれるはず。


5.『子どもたちは夜と遊ぶ』

大学受験間近の高校3年生が行方不明になった。世間が騒ぐ中、D大学工学部の大学院に通う木村浅葱だけはその真相を知っていた。論文コンクールで浅葱、同じ大学院生の狐塚孝太を上回る作品を投稿した幻の学生『i』とは一体何者なのか?そして、次々と起こる殺人事件の真相は?
次々に起こる殺人事件、ボタンのかけ違いで招いた悲劇。「暗」の印象が強く目を背けたくなる箇所が幾度もありますが、読了後は一筋の光のようなものが差したように感じました。辻村ワールドすごろくの作品の中でも一読しただけではわからない謎めいたものがあり、考察を要する作品でもあります。
秋山先生が持つある力の正体は、『ぼくのメジャースプーン』で明らかにされています。


6.『ぼくのメジャースプーン』

小学校で飼われていたうさぎ達が市川雄太という大学生によってほとんどが命を落としてしまう事件が起きた。主人公の「ぼく」の幼馴染であるふみちゃんは、その事件の影響で心を固く閉ざしてしまい、言葉を失ってしまう。ある特別な能力を持っている「ぼく」はふみちゃんを救うため、事件に立ち向かう。
命の重さや犯人との向き合い方、罪と罰、そしてふみちゃんへの想いにぼくが悩み、考え、苦しむ姿。そのぼくに真剣に向き合う秋山先生に感情が揺さぶられました。終盤の予想外の行動、そこで言った秋山先生の言葉には思わずジーンとさせられます。
ちなみに、本作は一昨年舞台化もされました。


7.『名前探しの放課後』

藤見高校に通う主人公の依田いつかは、自分が3ヵ月前にタイムリープしていることに気づく。いつかは「クラスの同級生が自殺した」という記憶だけは残っているが、それが誰なのかは思い出せないでいた。自殺した生徒を救うために、坂崎あすなをはじめ同級生たちと一緒に動いていく。
自分のペースでいいから1つ1つの物事に逃げずに向き合っていこう。たとえ無意味であっても、いや向き合うからこそ意味があるのだと。あすなが苦手な水泳に取り組む姿を見て思いました。本作のいつかをはじめとした同級生たちの距離感、温度感が好きなんですよね。他作品の登場人物や内容も多く出てきて、まさにオールスターのような感じなのも心が沸き立つものがあります。
下巻では、あっと驚くどんでん返しが待っています。胸が締めつけられる場面もあったので、真相がわかった時にはきっと爽快感があることでしょう。
そしてラストシーンは、辻村ワールドすごろくの作品の中でも一番印象的かもしれません。


8.『冷たい校舎の時は止まる』

辻村深月さんのデビュー作にして、第31回メフィスト賞受賞作。
県下一の進学校・私立青南学院高校に通うの8人の高校生が、雪降るある日、いつも通りに登校したはずの学校に閉じ込められてしまう。凍りつく校舎の中、2ヵ月前の学園祭の最中に死んだ同級生のことを思い出していた。
上下巻あわせてなんと約1200ページの長編ですが、まるで心を見透かされたかのような心理描写、いたるところにある伏線をしっかり回収する構成に、気づけば夢中になって読んでいました。
登場人物の弱い部分に焦点が当てられ、どちらかというと爽やかさよりも暗さが目立つ本作。しかし、8人がその暗さに向き合っていく様子に心を熱くさせるものがありました。そして、ある1シーンを読んだ瞬間に物語が一気に繋がっていき、季節を反転させたような爽やかな読了感がありました。
読了後はこれ以上ない余韻に浸り、8人のことが好きになっているはず。


9.『ロードムービー』

『冷たい校舎の時は止まる』のスピンオフ短編集。
学校の教室内の空気が言語化されているような心理描写と表現力。さらに随所にミステリー要素もあり、どの短編も読み応えがあります。
辛い時や苦しい時には、手を差し伸べてくれる人がいる。澱んだ空気を変えたいと勇気を出して一歩踏み出す人もいる。そのような姿を見て、読了後は「大丈夫」と前向きな気持ちになれる1冊です。
冷たい校舎の中を過ごした彼ら彼女らの中でも、「道の先」で登場する、ある人物が成長した姿には胸が高鳴りました。
スピンオフ作品であるため、本作は『冷たい校舎の時は止まる』を先に読んだうえで手に取ることをおすすめします。


10.『光待つ場所へ』

辻村ワールドすごろくの作品による5編のスピンオフ短編集。
ふとした時に孤独を感じる瞬間がある。でもそんな自分が特別のように感じたり、心の奥底では寄り添って欲しいとの思いがあったり。その揺れ動く心情が、じわじわと心の中に入り込んでいくような感じがしました。
彼らが内面に向き合うのを通じて、自らの内面と向き合わざるを得なくなる。しかし、彼らの繋がりを通じて、世界の繋がりが素敵に感じる。何よりも辻村ワールドすごろくで登場していた彼らがより愛おしくなります。
そして、どの話も暖かな光に包まれたような読了感でした。
スピンオフ作品であるため、辻村ワールドすごろくの作品を読了したうえで本作を読むことをおすすめします。


11.『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』

みずほの幼馴染で近所に住んでいるチエミは、母を殺害して失踪してしまった。母との仲が良くて地元に残った娘、厳格な母に距離を置き地元を飛び出した娘。一体チエミはどこに行ったのか?そして対照的な二人が幼い時に交わしたある約束とは?それらの真相を探るべく、みずほはチエミの行方を追った。
嫉妬、比較、プライド、探り合い……。序盤から心の闇を浮き彫りにした心理描写に、ゾクゾクが止まらなかったです。
母と娘の関係。地方社会で生きること。結婚や出産。男性視点からはなかなかイメージしづらい生きづらさに、だからこそ突き刺さりました。
それでも一筋の光が照らされたようなラストに、目頭が熱くなりました。タイトルの意味を知った時、胸が締め付けられるでしょう。
怖いくらいの容赦ない心理描写なので、覚悟をして読んだ方がいいかもしれません。


あなたにとって大切な1冊が、きっとここから見つかります

最後に、辻村ワールドすごろくの魅力について語らせてください。

辻村深月さんは、直木賞や本屋大賞を受賞している日本を代表する作家の一人です。代表作の一つでもある『かがみの孤城』は、2018年に「本屋大賞」を史上最多得票数(651.0点)で受賞し、累計発行部数200万部を突破した大ヒット作になっています。

僕も好きな作家で、辻村さんの作品、特に当記事で紹介した「辻村ワールドすごろく」の作品には大きな影響を受けています。

2年前の僕は、仕事もプライベートも上手くいかなくて気持ちはどん底。景色も灰色のように見えて、漠然とした不安も襲ってきました。

現実逃避をして現実から目を背けたい。

そんな時に手に取ったのが『スロウハイツの神様』でした。
心温まるお話、終盤の伏線回収の感動は今でも忘れられません。
それがきっかけになり、順番通りに読み始めました。

「僕や周りのことを言っている?」と思わせるような、時に優しく時に厳しい心理描写。
各作品に出てくる個性的な登場人物たちが、様々な困難や心の葛藤に立ち向かう姿。
あっと驚く伏線回収に、心温まる読了感。
作品間でのつながりを通じて、人とのつながりを大切にしようと思わせてくれること。

現実逃避をしていたはずが「現実と向き合う勇気」をもらい、逃げずに立ち向かっていけた気がします。また、「他の作品も読みたい」というその気持ちだけでも前向きになれました。

色んな感情が詰まっている素敵な作品たち。
これからも大切にしたいです😌

全作品が印象的ですが、個人的なおすすめは『スロウハイツの神様』『凍りのくじら』『僕のメジャースプーン』『名前探しの放課後』ですね。

「辻村ワールドすごろく」が気になった方は、ぜひ手に取って見てください。

あなたにとって大切な1冊が、きっとここから見つかります。

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