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同僚の死 -自死遺族じゃなくてもグリーフケアが必要-

 こんにちは、そろです。この記事では、同僚の死とグリーフケアについて書きます。

  私がうつ病となった最後の一押しが、同僚の自死でした。同僚は私が入社してから教育係をしてくれた方で、兄弟のように慕っていました。警察から亡くなったことを聞いた際の衝撃はいまでも忘れられません。

 私と同じように会社で同僚が亡くなり適切なケアがされていない方や、かけがえのない存在を失った方にこの記事が届くことを願っています。


会社で自死が起きるとどうなるか

独りで悲しみと向き合う

 私の会社では、同僚の自死について上層部と一部の社員にしか情報が伝わらず、また、どの社員が情報を知っているかは伏せられていました。そのため、ほとんど独りで悲しみと向き合う必要がありました。

死を悼むタイミングが無い

 私の会社では自死した同僚の保護者と会社が対立したため、同僚の葬儀への参加はもちろん、お線香をあげることすらできませんでした。

ケアの対象となる人

 悲しみを抱えるのは親族だけではありません。故人との関係性の深さに関わらず、ケアされるべき人は存在します。私の会社では、故人と直接的な関わりがほとんど無かった上層部の人間もショックを受けていました。

グリーフ(悲嘆)とは

愛する家族や親しい人を喪失した後、体験する複雑な情緒的状態を「グリーフ(悲嘆)」と呼ぶ

『グリーフケア入門 悲嘆のさなかにある人を支える』ⅰより

悲嘆は様々な喪失体験から生じ、それは人(家族や友人)に限らず、その人にとって大切なものすべてに及ぶ。

『グリーフケア入門 悲嘆のさなかにある人を支える』6頁より

 喪失によっておこる情緒的状態、反応をグリーフと呼びます。自死によって引き起こされるグリーフには「罪悪感と自責の念」「葛藤と怒り」「孤立感と無力感」「不安と恐れ」「歪んだ思考」などがあります(正木 啓子, 2015,「グリーフケアの必要性とその提供方法 : 自死遺族 のグリーフケアの現状と課題」より)。

 同僚を亡くした際に、私も上記のグリーフを強く感じました。

 同僚は職場でハラスメントにあっており、私は同僚が亡くなる以前より相談を受けたり、愚痴を聞いたり、慰めたりしていたのです。それにもかかわらず、同僚は自死を選んでしまった。

 同僚が自死する数日前、同僚から「今から会えないか」と言われました。私は連日の残業続きで疲弊しており「今日はすぐに帰りたいから」と断りました。あれは最後の挨拶だったのか、それとも誰かに会えれば自死をしないという賭けをしていたのか……。もし会うことが出来れば同僚は死なずに済んだのではないかと、会わない選択をしたことを今でもずっと悔やんでいます。

 同僚の最後のSOSに応えられなかった罪悪感と自責の念。助けられなかった自分自身への怒りと死を選んだ同僚への怒り。言葉を尽くしても同僚を救えなかった無力感。元々うつの初期症状が出ていた私の症状は一気に加速し、会社に行けなくなってしまいました。

グリーフ(悲嘆)を引き起こす喪失

 喪失にあたるのは、大切な人の喪失だけではありません。『グリーフケア入門 悲嘆のさなかにある人を支える』には、次の7つの事柄が喪失に当たると書かれています。

  1. 大切な人の喪失:死別、離別(離婚、失恋、失踪、裏切りなど)

  2. 所有物の喪失:財産、仕事、ペット、思い出など

  3. 環境の喪失:転居、転勤、転校など

  4. 役割の喪失:子供の自立(親役割の喪失)、退職(会社での役割の喪失)など

  5. 自尊心の喪失:名誉、名声、プライド、プライバシーが保たれないことなど

  6. 身体の喪失:病気、怪我、子宮・乳房・頭髪などの喪失、老化現象など

  7. 社会生活の安心・安全の喪失

公認されないグリーフと複雑性悲嘆

「公認されない悲嘆」とは、その人が悲嘆のさなかにあることを周囲に認められないような悲嘆をさす。①関係が認められていない(不倫相手、同性愛者、婚約者、友人など)、②喪失を受け止めてもらえない(流産、死産、中絶など)、③悲嘆者が認められていない(遺族が知的障害者、発達障害者、精神疾患者、故人が高齢の遺族、幼い子どもなど)、④死に方がしかるべきではない(自死、加害者、死刑者など)、⑤悲嘆の仕方が異なる(異文化など)がある(Doka,2002)。

『グリーフケア入門 悲嘆のさなかにある人を支える』18頁より

 今回、私のグリーフは「公認されないグリーフ」にあたると感じています。

 会社の同僚であることで、遺族とは対立構造になってしまうため「①関係が認められていない」うえに、同僚が「④死に方がしかるべきではない」場合にあてはまるのではないかと解釈しています。(自死がしかるべきではないなんて言われ方をするのは悲しいですが、一般的にはしかるべきではないのでしょうね)

 公認されない悲嘆は「複雑性悲嘆」になりやすいと言われています。「複雑性悲嘆」とは、通常の悲嘆反応よりも症状が複雑になり、長期化・慢性化する悲嘆です。グリーフケアの本に書かれていた複雑性悲嘆の例は次の3つです。

  1. うつ病に陥っていると思われる場合

  2. 自殺願望が強くなっていたり、自傷他害の恐れがある場合

  3. アルコール依存などの問題が生じている場合

グリーフケアとは

 上記の喪失によっておこるグリーフ(悲嘆)と向き合う助けとなる支援のことをグリーフケアと呼びます。内容としては、自身の胸の内をプロに傾聴してもらい喪失の受け止めを行います。その後、喪失の意味を探求し気づきを得て、新たなアイデンティティの確立や人間関係の再構築を行います。

 短く言うと「喪失に触れて壊れてしまった価値観を再構築する」ということです。

 グリーフケアには一対一のカウンセリング方式のほか、複数名で行うグループワークをあります。

セルフグリーフケア

 私は当時、グリーフケアの存在を知らず治療を受けることはありませんでした。いま振り返ると自身でグリーフケアを行っていたように思います。グリーフケアを受けることが難しい環境にいらっしゃる方に向けて、私が自身を癒すために行っていたグリーフケアを3つ紹介します。当然のことながら非公認ですので、参考程度に読んでいただけますと幸いです。

自分の状態や気持ちを書き出す

 自分の状態を客観的に見つめる作業を行います。書き出した内容はそのまま受け止め、よいとも悪いとも判断しません。

当時私が書き出した内容は以下の通りでした。

<身体的症状>
・頭痛
・不眠
・呼吸の苦しさ
・落涙

<気持ち>
・信じられない気持ち
・(同僚のこれまでの現状から自死が)十分にありえるという気持ち
・混乱
・自責の念
・悲しい
・詐欺ではないかと疑う
・罪悪感(同僚が亡くなっていたのに何故知らなかったのか、何故自分はその間ヘラヘラ笑って生きていたのか。同僚から相談も受けていたのになぜ助けてあげられなかったのか)
・最後に会えなかったことの後ろめたさ(亡くなる直前に会いたいと言われたのに残業を理由に会わなかった)
・適切に弔う機会を失ってしまったことの辛さ(人が亡くなった時の適切なプロセスを失ってしまったので、心の中で手順を踏んで葬送するしかない。ご遺族には会えないし線香もあげられない)人が亡くなった後の法要というのはやはり生きている人のためのものだという気付き
・死は救済でもなんでもないのかもしれない
・本人はこれ以上何も感じることがないのだからいいかもしれないが、周りがめちゃくちゃ傷つく。職場のことで死ぬくらいなら辞めよう

 感情のラベリングがうまくいかない場合、自死遺族向けのホームページに載っている自死遺族に起こりうる反応・変化を調べることでラベリングが進む場合があります。自身に起こっている反応は当然のものであると安心もできるのでお勧めです。

 書き出した後は、身体的症状を解決するための手段を取ります。私の場合、心療内科の予約が取れるまで時間がかかったため、かかりつけの内科で睡眠薬を貰いまずは寝ることに集中しました。身体の回復が進むと心の回復も非常にゆっくりではありますが進んでいきます。

 グリーフケアの観点から言えば、「本人はこれ以上何も感じることがないのだからいいかもしれないが、周りがめちゃくちゃ傷つく。職場のことで死ぬくらいなら辞めよう」というのが、同僚の自死を通した自分の中での気づきであり、喪失体験から得られた価値観の再構成となったと認識しています。

自分なりの喪の儀式を行う

 私の場合、同僚を適切に弔う機会を失ったことが回復を妨げる大きな要因の一つとなっていました。そのため、しばらくは同僚のために自宅でお線香をあげていました。死の現実を受け入れることの助けとなったと感じています。

守秘義務のあるカウンセラーに話す

 守秘義務のあるカウンセラーと面談し、自死に触れた想いなどを伝えました。グリーフケア専門のカウンセラーではありませんでしたが、第三者に話をすることで、誰にも言えないという気持ちが少し楽になりました。話すだけの気力が無い場合は、無理にカウンセラーに話す必要はありません。また、対面が難しい場合は「自死遺族相談ダイヤル」などの電話相談や「メールによる自死遺族のわかちあいと相談」などのメール相談をするのも一手かもしれません。

おわりに

 この記事に興味を持ってくださったあなたは、いま、とても深い悲しみの淵にいらっしゃるのでしょうか。心配しています。本記事によって、心身が少しでも楽になることを願っています。ここまで読んでいただきありがとうございました。


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