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絵本あれこれ

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ショーン・タン『内なる町から来た話』

ショーン・タン『内なる町から来た話』

ショーン・タンはオーストラリア在住の絵本作家、とひとまず説明することはできますが、彼の作品に接したことのある人ならば、子どもたちはもちろん、大人の読者も唸らせる作家であることに同意していただけるでしょう。
実際、規模の大きい書店では彼の作品はエドワード・ゴーリーやトーベン・クールマン等と並んで「大人の絵本」コーナーに置かれていることが多いのです。

彼の代表作としてあげられるのは、なんといっても『

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五味太郎・小野明『絵本をよんでみる』

五味太郎・小野明『絵本をよんでみる』

「ぼくを絵本好きにしたのは、間違いなくぼく自身の絵本である。」と語る絵本作家、五味太郎さんが「ぼくを絵本好きにしたであろう自作以外の絵本」を13冊選び、編集者の小野明さんを相手に縦横無尽に語った本です。

絵本が題材なのですが、一読してその読みの深さに感嘆しました。ここに示されているのは、「絵本だから子ども向け」や「絵本を読んで心を癒そう」といったありがちな視点(もちろんそれらも絵本のもつ重要な側

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マーガレット・ワイズ・ブラウン作、レナード・ワイスガード絵、内田也哉子訳『たいせつなこと』

マーガレット・ワイズ・ブラウン作、レナード・ワイスガード絵、内田也哉子訳『たいせつなこと』

マーガレット・ワイズ・ブラウンの本からは、優しくてまっすぐな声が聴こえてきます。有名な『おやすみなさい おつきさま』はもちろん、『ぼくにげちゃうよ』、『きんのたまごの本』etc・・・。いずれも単純で心地よいリズムがあり、押しつけがましさがありません。そんな彼女の紡ぎだす言葉は、絵と一体になって、どんなにシンプルな物語であっても、読者に確かな充足感と幸福感を残すのです。

『たいせつなこと』について

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【お盆の時期に、絵本で「死」を考える】

【お盆の時期に、絵本で「死」を考える】

『このあとどうしちゃおう』ヨシタケシンスケ
2016年4月25日初版 ブロンズ新社

『かないくん』谷川俊太郎作・松本大洋絵
2014年1月24日初版 東京糸井重里事務所

祖父の死を題材にした絵本2冊。絵柄も雰囲気もまるで異なっていますが、どちらも読後に考えさせられる魅力を持っています。

『このあとどうしちゃおう』はおじいちゃんが残した「じぶんが しょうらい しんだら どうなりたいか どうして

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チェン・ジャンホン『ウェン王子とトラ』

チェン・ジャンホン『ウェン王子とトラ』

今年もよろしくお願いいたします。

寅年なのでトラにちなんだ本でいきましょう。
中国の天津に生まれ、北京の中央美術学院を卒業したのちパリに移住した、チェン・ジャンホンによる傑作絵本です。

なんといっても中国の水墨画の技法を生かした、迫力と様式美を兼ね備えた絵がふんだんに味わえるのがこの本の最大の魅力でしょう。格調の高さを感じさせながらも人や動物の息づかいが伝わるようなリアリティがあり、なおかつ通

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赤瀬川原平『四角形の歴史』

赤瀬川原平『四角形の歴史』

赤瀬川原平が2005年から2006年にかけて刊行した、〈こどもの哲学 大人の絵本〉シリーズの中の一冊です。

赤瀬川原平は多彩な活動を行なってきたので、人によってそのイメージは大きく異なると思います。千円札裁判やハイレッドセンター等の活動による前衛芸術家、尾辻克彦名義で書かれ、芥川賞を受賞した「父が消えた」等による小説家、「超芸術トマソン」や路上観察学会としての活動、『新解さんの謎』や『老人力』な

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アンソニー・ブラウン『すきです ゴリラ』

アンソニー・ブラウン『すきです ゴリラ』

アンソニー・ブラウンはイギリスを代表する絵本作家です。2000年には「児童文学への永続的な寄与」に対する表彰として贈られる国際的な賞で「小さなノーベル賞」とも呼ばれる国際アンデルセン賞を受賞するなど、国際的に高い評価を得ています。

彼の絵本の特徴としては、稠密でありながら温かさを感じさせる画風や、イギリス人らしいユーモアなどがありますが、なんといってもゴリラに対する愛情の深さでしょう。とにかくゴ

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ペーター・ヴァン・デン・エンデ『旅する小舟』

ペーター・ヴァン・デン・エンデ『旅する小舟』

夜の大海原を進んで行く一艘の小舟。一枚の紙を折って造られた、頼りなく見える舟です。夜空には一面の星が煌めき、海の中には無数の魚の群れが眼を光らせて船底の近くに群がっています。小舟を包む無数の光はこれからの旅路の希望と不安を表しているように思えます。この表紙にまず惹き込まれました。そして表紙を開くと、そこにはこちらの想像を超える途方もない世界が拡がっていたのです。

ペーター・ヴァン・デン・エンデは

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別冊太陽『絵本で学ぶSDGs』

別冊太陽『絵本で学ぶSDGs』

別冊太陽ならではの優れたSDGs入門書。17のテーマを均等に扱い、それぞれのテーマに即した絵本を大きなカラー図版で紹介しています。
SDGsの理念自体には斎藤幸平さんが指摘しているような問題点もありますが、家族でSDGsについて話し合うときなどに、格好の導き手になるガイドブックです。

河合隼雄 松居直 柳田邦男『絵本の力』

河合隼雄 松居直 柳田邦男『絵本の力』

福音館書店編集部で月刊『こどものとも」を創刊するなど、数多くの絵本を手がけ、日本の絵本の発展に大きな功績を残した松居直が11月2日に亡くなりました。今回は彼の追悼の意を込めて、本書を取り上げたいと思います。

本書は小樽市の「絵本・児童文学研究センター」が2000年に主催したシンポジウムを基にしてつくられたもので、河合、松居、柳田それぞれの講演と座談会が収録されています。

「絵本の中の音と歌」を

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もりあがる!タイダーン本の世界

もりあがる!タイダーン本の世界

今、波に乗っている絵本作家、ヨシタケシンスケさんの対談集『もりあがれ!タイダーン』を楽しく読了しました。本のつくりも凝っていて、持っているだけで嬉しくなる本です。

昔から対談本が好きなのですが、この機会に私が愛読している対談本をいくつかピックアップします。

『思想のドラマトゥルギー』林達夫・久野収
私にとってのキング・オブ・対談本。知に対する好奇心を老いても持ち続ける林と、彼に敬意を払いながら

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エドワード・ゴーリー『ギャシュリークラムのちびっ子たち』

エドワード・ゴーリー『ギャシュリークラムのちびっ子たち』

先日、ゴーリーの絵本の新訳がでるというニュースに接して再読。

世に“大人が読んでも面白い絵本”は数あれど、“大人のための絵本”は多くありません。その数少ない“大人のための絵本”を書き続けたのが、エドワード・ゴーリーでした。

ゴーリーの作品は柴田元幸さんの翻訳によって日本に紹介されているのですが、本書は最初に翻訳された3冊の中のひとつ。ゴーリーらしさが端的に表れていて、ファンの中でも特に人気の高

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エラ・フランシス・サンダース『翻訳できない世界のことば』

エラ・フランシス・サンダース『翻訳できない世界のことば』

ここでいう「翻訳できない」とは、他の国の言葉では、そのニュアンスをうまく表現できないことを意味します。

聖書によれば、天まで届かんとするバベルの塔を人間が建設し始めたことを見た神が、このような不遜なことを始めたのは人々が同じ言葉を話しているからだと考え、人々を散り散りにして、それぞれが通じない違う言葉を話すようにしたそうですが、ともあれ世界には多様な言語があり、その言語の言葉でしか表現できない多

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