バルベース

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最近の記事

 怠け者

 恐らく多くの人間が思い当たる節があると思うが、何か努力している時、又はそのような他人を見かけた時、「何を無駄なことをしているのやら。どうせ死んじまうんだし、死んだら死んだで何も残りやしないんだから」と考えたりはしないだろうか。私はある、大いにある。しかもより悪いことに、こうした考え方であらゆる社会的事業を眺める始末である。  チェーホフの中編に『ともしび』という作品がある。この作品に出てくる中年の鉄道技師はまさに上のような思想(果たしてこれを思想と呼んでいいかは分からない

    • ソヴィエトの革命文学を読もう(提案)

       まずはじめに、ここで言うところの「ソヴィエトの革命文学」とは社会主義革命及びそれに続く動乱期(市民戦時代)を扱った文学を指す。いわゆる「社会主義リアリズム」の初期の作品群である。「社会主義リアリズム」がなんであるかを説明するのは非常に難しいが、ざっくり言えば「社会主義的イデオロギーを至上のものとし、あるがままの生活を描きながらあるべき生活への展望を描く」文学と言えるだろう(本当に簡単かつ不十分な説明ではあるが)。イデオロギーが問題となるということは、作品のイデオロギーに対す

      • スレプツォフ『困難な時代』についての雑記

         19世紀の60年代はロシア文学にとっても意義深い年代である。この時代にいわゆる雑階級の作家たちが続々とデビューを果たしたのだ。ここに述べるスレプツォフ(Василий Алексеевич Слепцов)も、そうしたグループに属する作家の一人である。正確に言えば彼は貴族の生まれではあるが、貴族は貴族でも没落寸前であった(そういう意味ではネクラーソフに近い)。それ故に気分的には雑階級人に近いものがあった。    岩波文庫から邦訳が出た、この『困難な時代』はスレプツォフの代表

        •  パンフェロフ『貧農組合』の邦訳について

           一体現在の日本にパンフョーロフ(Фёдор Иванович Панфёров)を知っている人間がどれくらいいるのかというようなことを問題にする気は無い。だって、例えば、「宮本百合子の文章に出てきたこのパンフョーロフとかいう人の作品はどこでなら読めるのかしら?」とか思う人間がいても不思議では無いではないか。私だってそうである。だから意気揚々と「パンフョーロフ 邦訳」とか「パンフョーロフ ブルスキー」とか検索してみて、結果それらしいものが全く出てこないことに落胆することになる

          グレープ・ウスペンスキーの邦訳作品について

           「人民の中へ」。この合言葉のもとに多くの若者たちが農村へと、革命的宣伝のために赴いた。1874年の夏はこの運動の頂点を指しており、「狂った夏」とも呼ばれている。いわゆるナロードニキ運動である。この運動において文学が果たした役割は大きく、運動と文学は互いに影響を及ぼし合った。ナロードニキたちは文学作品を宣伝材料の一つとして農村で朗読し、文学の方では農村の現況が描かれるようになったのである。60年代に「雑階級人たちがやってきた」。彼ら雑階級出身の小説家(ポミャロフスキー、スレプ

          グレープ・ウスペンスキーの邦訳作品について

          架空のロシア小説の冒頭部分

           地主パーヴェル・ステパーノヴィチ・イシューチンは実に爽やかな気分で目がさめた。彼が気持ちよく柔らかい欠伸をしているところへ、従僕のワシーリーが顔を洗う為の洗面器具を手にして入ってきた。  「どうだいワシーリー、何か変わったことはあったかい?」  パーヴェルはワシーリーからの「何も変わったことはごぜえやせん。万事がうまくいっとります」という返事を受け取ると彼を下がらせ、寝起きの一種の瞑想状態へと沈んでいった。「自足」。これぞ今の彼を表している言葉だった。  「そうだ。今の俺に

          架空のロシア小説の冒頭部分

          『UMC VOCAL INSTRUCTORS CLUB BAND 』 まとめ

          ・『UMC VOCAL INSTRUCTORS CLUB BAND』ってそもそも何? その名の通り、ボーカルスクールとして一世を風靡(多分)した「UMCボーカルアカデミー」のインストラクターたちが歌うアルバムのことである。親会社のUMCプロモーションはアルバム制作にかなり力を入れていたようで、ボーカル教室の生徒が歌うアルバム(生徒たちの卒業制作みたいな意味合いもあるのだろう)を結構な枚数出していたりもしている。その中にはメジャーデビュー前の村田彰子が歌っている貴重なやつも。

          『UMC VOCAL INSTRUCTORS CLUB BAND 』 まとめ

          ゴンチャロフ『断崖』についての雑記

          ロシアの小説家・ゴンチャロフの最後にして最大の長編『断崖』を読み終わった。これでゴンチャロフの小説は全て目を通したことになる(『平凡物語』『オブローモフ』『断崖』)。この作品、とにかく長い!ひたすらノロノロと進むのである。ゴンチャロフの作品に共通することは、筋というものがおおよそ存在しないということである。だから、粗筋なんかに目を通しても大して意味は無い。ゴンチャロフの才能は(ベリンスキーやドブロリューボフが指摘するように)形象の創造という点で大いに発揮される。彼は典型的人物

          ゴンチャロフ『断崖』についての雑記

          ピーセムスキー『老の罪』(世界文学社)

          ロシア文学に興味を持ち色々と読み進めていく人間がいつかは出会うであろう名前に「ピーセムスキー」がある。彼については、例えばクロポトキンの『ロシア文学における理想と現実』においては民衆作家の一人として取り上げられているし、ドブロリューボフやサルトゥイコフ=シチェドリン、チェーホフの著作にもその名前が出てくる。彼のことを知った人間の何人かはこう思うかもしれない。 「果たして彼の著作の邦訳は存在するのか?」 実際に古本サイトなどで検索してみると、たった一件だけヒットするのである

          ピーセムスキー『老の罪』(世界文学社)

          90年代シティポップ 個人的ベスト20

          今夏に公開された「lightmellowbu presents 90年代シティポップ 名曲ランキング best50」は、各人がベスト20を持ち寄り、それを集計して決められました。というわけでここでは私が選んだベスト20を特に前置きも無しに発表したいと思います。いつかやろうと思っていたらこんなタイミングになってしまいました。陳謝!  20位 稲垣潤一「LÁBIOS」(1997) (作詞:康珍化 作曲:山口未央子 編曲:ゴンザレス鈴木・トシ松本) 稲垣潤一の90年代最高傑作は

          90年代シティポップ 個人的ベスト20