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新連載 『 15ちゃい 』 第4話

第4話 応募の電話



「もしもし、はいはい・・・」

母の声が聞こえる。


「おーい!なおきぃ!お友達から電話ー!」

受話器を受け取った。



「おー真田か。バイト見つかってん。
その話がしたいねんけど今、そと出れる?」



「出れるで。どこに行ったらいい?」



「今、お前の家の横の公園におる。すぐお前んちに行くわ。」



「おー。俺もすぐ下に降りるわ。」



私は家を出た。
重い重い金属の家の扉を閉めた。
公団の団地の2階が現在地である。


階段で下まで降りて、公園側に歩いた。
中田がちょうど道路を渡ろうとしていた。



私は「おーい」と手を振って
小走りに道路を渡った。



ふたりで公園を歩きながら話し始めた。
中田がいくつに折ったか分からない紙をポケットから出して広げた。


「これ見て!ちょうど、この前会ったステージの所の2階にスーパーがあるやん?そこが募集してるねん。どうかな?ここがいいと思うねんけど。」



「どれどれ?スーパーってダイエーやん!花形やん!
俺似合わんのとちゃうかな。」



私は腰が引けた。



「え?なんやねん花形って!いけるいける!似合ってるって!」



「そう?」



「大丈夫やって。あと、そこバイトでも入るのに試験があるらしい。
もし俺が落っこちて真田だけが受かっても一人でバイト行かんといてくれな!」



「OK!もちろんやんか!」



歩きながら話していたので
もう公園の端まで来てしまっていた。


ちょうど公園の入り口だ。
緑色の公衆電話があるのが目に入った。
たぶん中田も目に入ったのだろう。
わたしたちは目を合わせてうなづいた。


「よし・・・さっそく電話してみるか・・」


私は唾を飲み込んだ。


募集のチラシを手に持っている中田が
電話をする役目であることは、
話さなくても決定した。


「よし、いくか・・・」


中田が電話ボックスの中に入った。
私は電話ボックスのドアを開けたままにして
見守った。


緊張が伝わる。


中田が10円玉を入れた。
番号を押す手が震えている。


最後のナンバーを押し切った。


黙ったまま、どこを見るでもない二人。


受話器からプルルルーという音が
耳を当ててない私にも聞こえた。


「ガチャ、はい!ありがとうございます!ダイエー〇〇店、担当の五十嵐でございます!」


その瞬間、中田はこちらを見た。
つまり私の顔だ。
私はただ、うなづいた。


中田は正面を向き直して話し始めた。
さすがはもうすぐ16歳なだけある。


「あのー、アルバイトの募集の紙を見たんですけど、アルバイトって募集してますか?」


(なんてこった!
募集したいから募集の紙を出したのにって言われるぞ、これは!)

私は心の中で突っ込んだ。


元気な女の人の声が緑色の受話器から漏れて聞こえた。


「はい、してますよ!年はおいくつですかー?」


また中田がこちらを見た。
つまり私の目だ。
わたしはまた、うなづいた。


「15です。あ、えっと友達と一緒にアルバイトしたいんですけど・・・」


「15歳?高校生ですか?」


「あ、はい!高1です!」


「はーい。ではお名前と住所と電話番号を教えてください。」


「はい!えーっと僕は、なかた・・・」


もしかすると、このままいけば私も電話で話さなくちゃいけないかも知れないことを察知した。


「んんんっ!」


喉に詰まった何かを取るために咳払いして声を出す準備をした。


「はい。はい・・・さ、真田!電話!替わってくれって!」


やっぱり来た。出番だ。
受話器を受け取って耳に当てた。



「もしもし・・・」
元気は限りなくゼロに等しい声しか出なかった。


「お友達ですか?えーっと中田くんと一緒にアルバイトしたいんですね?」


「あ、はい、そうです。」


「お名前と住所と電話番号を教えてもらえますか?_」


「あ、はい。名前は真田直樹です。住所は・・・」


私は電話機をまっすぐ見ている。
振り返って中田の顔を見る余裕なんて全く無かった。
中田が追加の十円玉を入れている。


「では、面接をしたいと思います。都合の良い日にちを教えてください。」


私は首が取れるかもしれないくらいの勢いで後ろを向いた。


中田が
「あした!あした!」と言っている。


「えーっと、明日行けます。」


「明日ですねー。えーっと何時くらいに来れますか?」


また振り返った。


「学校終わってすぐの・・・えーっと・・・5時!5時や5時!」


「ご、5時に。学校終わってから行きます。」


「17時ですねー。では持って来てもらうものがあります。いいですか?」


「はい、たぶん。」
私は素直にまだ内容を聞いていないからと言う意味で『たぶん』を加えた。


「まず写真付きの履歴書。それと同じ写真を2枚。筆記用具。それと・・・」


『いいですか?』の意味が今わかった。
メモしたいけど何も持っていない。
今3つ言ったな?


「印鑑。銀行口座がわかる通帳。学生証。以上の物を持って来てお越しください。私は担当の五十嵐と申します。」


ダメだ。
覚えきれない。
中田に替わればよかった。


「それでは明日の17時にお待ちしてます。」


電話が切れた。


中田と私は汗だくだった。
公園を歩く人たちの顔のなんと爽やかなことか。
池で泳いでいる鴨になりたかった。


「なんて?最後のほう、なんて言うてた?」


「も、もちもの。」


「持ち物?なんか持って行かなあかんのか?そうか!そうやろな!」


そう言って中田はとびっきりクシャクシャと言う名のチラシを破れないように開いて、募集要項を見直した。


私は覗いた。


良かった!
さっき女の人が言っていたような持ち物の事がちゃんと書いてある!


「りれき書って、なんや?」

中田が聞いてきた。


「知らん。『りれき』って言うくらいやから、なんかこう、今までの、その・・・こう言うのなんて言うんやったっけ?えーっと・・・・」



「生い立ち?」


「それ!」


「文房具屋行こう。いくらするんかな?高いかな?」


「知らんけど、雑誌に付録で付いてたような気がする。」


「くわしいやん真田。」


「求人雑誌は見たことあるねん。」


「行こう行こう!文房具屋!」


「おー。」


私たち二人は、まるで亀の甲羅を背負ったみたいに歩き出した。
そして駅の文房具屋さんに向かった。


〜つづく〜

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