見出し画像

入院中の失禁。疫学と臨床転帰との関連

📖 文献情報 と 抄録和訳

入院中および入院後の失禁:有病率、発生率および臨床転帰との関連に関する前向き研究

📕Campbell, Jill, et al. "Incontinence during and following hospitalisation: a prospective study of prevalence, incidence and association with clinical outcomes." Age and Ageing 52.9 (2023): afad181. https://doi.org/10.1093/ageing/afad181
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Connected Papers
※ Connected Papersとは? >>> note.

🔑 Key points
🔹失禁は入院中の高齢者に非常によくみられ、病院周辺期間を通じて複雑に変化する可能性がある。
🔹院内失禁は、内科および外科の高齢入院患者の10.4~16.1%にみられる。
🔹入院した高齢者のほぼ半数が、入院前、入院中、入院後早期に失禁を経験している。
🔹高齢者をケアする医療専門家は、ケアの移行期を通して失禁のニーズを認識し、対応する必要がある。

[背景・目的] 失禁は入院中の高齢者によくみられるが、入院中または入院後の新たな発生率を報告した研究はほとんどない。
●目的:高齢入院患者における失禁の有病率および発生率、ならびに臨床転帰との関連を明らかにすること。

[方法] デザイン:オーストラリアの公立病院4施設の内科および外科病棟に入院中の65歳以上の連続同意入院患者から前向きに収集したデータの二次分析。参加者は、訓練を受けた研究助手による包括的評価の一環として、入院2週間前、退院時、退院後30日に尿失禁および便失禁を自己申告した。転帰は入院期間、施設退院、30日再入院、6ヵ月死亡率とした。

✅ 失禁の調査方法
・入院前の尿失禁は、「過去2週間に、尿意をもよおしたことがありますか」
・退院時および30日後に「現在、尿意をもよおしたことがありますか」と質問することで評価
・回答は「はい」または「いいえ」でコード化した
・入院前の便失禁は、「過去2週間に、便が漏れたり、事故があったり、便意がないときに便のコントロールができなくなったりしたことがありますか」
・退院時および30日後に「現在、便が漏れたり、事故があったり、便意がないときに便のコントロールができなくなったりしたことがありますか」と尋ねることで評価した。
・回答は「はい」または「いいえ」でコード化した

[結果]
■ 疫学①:全失禁、尿失禁、便失禁
・解析対象は970人(平均年齢76.7歳、女性48.9%)であった。
・尿失禁および/または便失禁の自己報告は、入院2週間前に310/970人(32.0%、[95%信頼区間(CI)29.0-35.0])、退院時に201/834人(24.1%[95%CI 21.2-27.2])、退院30日後に193/776人(24.9%[95%CI 21.9-28.1])であった。

■ 疫学②:全失禁の軌跡
・失禁パターンは、病院周囲の期間内で動的であった。病院前に失禁のなかった参加者のうち、74/567例(13.1%[95%CI 10.4-16.1])が退院時に失禁を報告し、85/537例(15.8%[95%CI 12.8-19.2])が30日後の追跡調査時に失禁を報告した。

■ 臨床転帰との関連
・入院期間中央値は、調整後解析でも病院前失禁のある参加者でより長く(7日対6日、P = 0.02)、病院前失禁は調整前解析では死亡率と有意に関連していたが、調整後解析では死亡率とは関連していなかった。

[結論] 高齢の入院患者では、入院前、入院中、入院後の失禁が一般的である。失禁パターンをよりよく理解することは、この合併症を減少させるための介入目標に役立つであろう。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「結構、失禁がありますよ。」

この看護師からの宣告は、グサっとくる。
なぜなら、ADLの1-2項目である排泄は、重要度の比重として、天秤を傾けるほどには重い項目だからだ。
とくに、自宅復帰という転帰において重要になることが多い。

「せめて、トイレに一人で行けるようになれば・・・」
自宅復帰に必要と思うことを家族に聞くと、多くの家族がこう答える。
そして、この発言を因数分解してみると、以下のようになる。

トイレに一人で行ける=動作能力としてのトイレ動作の獲得 + 排泄管理

とても円滑に動けている人が、実は失禁があった、ということはしばしばある。
そうなると、トイレに一人で行ける、という条項は達せられず、「それじゃ自宅はちょっと」となってしまう。
だが、入院中の高齢者は、どのくらい失禁があって、どのくらい改善が見込めるのか、ということは印象しか持っておらず、しっかりとした根拠がない状態だった。
今回の抄読論文は、まさにその部分の知識をサポートしてくれる論文だった。

だが、この論文において懸念事項がある。
①内科・外科入院患者が対象者であること
②失禁の評価が自己報告であること

とくに後者は重大な懸念事項であるように思われてならない。
なぜなら、患者さんに「失禁とかってあります?」と聞くと「ないよ…」と答える場合でも、看護師に聞くと「失禁ありますよ」ということが少なくないからだ。
ここは、認知機能が云々というより、排泄というデリケートな部分に失敗があることを他人に自己報告すること自体が、かなりバイアスをかけるものなんじゃないかと思われてならない。
そうなると、この論文全体のデータに疑問符がつくことになる。
しかし、なぜ自己報告に甘んじたのだろうか?
方法には「病院での有効な簡易スクリーニングツールがなかったから」とあったが、BIやFIMがあるではないか、と思う。

この疑問符は、日本の医療機関、回復期リハ入院患者、FIM (or BI)によって評価されるべきだろう。
新たなClinical Questionが、1つできた。

⬇︎ 関連 note✨

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○
#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び

この記事が参加している募集

最近の学び