イケメン。イケオジ。イケジイさん。

執拗にナンパしてくるお爺ちゃん。
7〜80代?わからない。お元気だこと。
「カスハラ」なんて言ったところで、きっとわからないだろうね。
女性が1人で働く仕事場には、しつこく声をかけてくる迷惑な男性がたまにいる。
『◯◯さ〜ん、また惜しかったんだよ〜、ナンバーズ1つ違い。次は当たりそうだな。当たったらどうしようかな?どうしよう?なにしたい?どこに行きたい?◯◯さん、欲しいものある?』同じことを何度も何度も言っている。
(ボケちゃったのかな?)
『ねぇ、◯◯さん、どうしようか?当たったらどうしようね?ね?』
(ね?じゃないの!名前を呼ばないで下さい!当たったら、喜べばいいじゃない。知〜らない。やれやれ。)

ナンパ爺ちゃんにはうんざりな私も、イケメン君(自分好み)のお客さんが来れば機嫌も良くなる。
(あっらぁ〜、キレイなお顔だこと、顔小ちゃーい)さっきまで、目だけ脂ギッシュな、しつこい爺ちゃんを見ていた後だけに、イケメン君が倍増で輝いて見える。
さらに、そのイケメン君が礼儀正しかったりしたらもう!「お母さん、よくぞご立派に育てました!」見ず知らずのイケメン君の、さらに知らないその子のお母さんに感謝の気持ちを伝えたくなる。(笑)

『すみませ〜ん、俺のお金、返してください』顔を上げると、スラリとした長身。(自分好み)素敵な笑顔のイケオジがいた。
うん?どういうこと?すぐに理解できず
『はいっ?』と言うと、
『それね、1万ちょっと当たってるんだよ!久しぶりに当たったの。俺ね、けっこう宝くじにお金入れてるからさ、たまには返して!俺のお金返してくれよ〜』
見た目もよく、こんな話しかけのできる男性は好印象だ。

若い頃は、かなりモテモテだったんじゃないかしら?と、会う度に私が思っている常連のおじいちゃんがいる。
一昔前の二枚目俳優のような、整ったお顔。
清潔感漂うキチっと刈り揃えた短髪の銀髪が素敵なイケジイさん。
しつこい脂ギッシュナンパ爺ちゃんとはまるで違う優しい口調。
いつも品の良い出立ちをしている。
『なんか飲む?あったかいの?冷たいの?遠慮しなくていいんだよ』と、声をかけてくれる。
いやらしさのない世間話。
しかも、話しが面白くて楽しいから、私たち店員のウケもいい。
『前からずっと気になってたんですけど、若い頃、俳優さんとかしてませんでした〜?』
『俺が?まさか〜、お姉さんうまいねぇ。褒めてくれても、今日はこれしか買わないよ〜』とニコニコしている好々爺。
一人暮らしだと言っていた。

ある日の暇な時間帯。
いつものように世間話をしていた。
『ホントに、お世辞じゃなくて、俳優さんとかしてたのかな〜?って思ってたんですよ!』またそんなことを言った私に、イケジイさんはお財布から古い写真を出して見せてくれた。
この人の若い頃って、どれほどのイケメンだったんだろう…イケジイさんが来る度に思っていた私に、予想も出来ないような話しを聞かせてくれたのだ。
私は驚嘆の眼差しで、イケジイさんをしげしげと見つめる。

白黒の写真には、アンティーク調の長椅子。
そこにゆったりと身体を横たえている女性。
カメラに向かって微笑を浮かべている。
ノースリーブのワンピースから出ている、細くて長い手足。
『うーわっ、綺麗!誰?誰?昔の女優さん?女優さんのブロマイドですか〜?』

目の前に居る、若き日の、イケジイさんだった。
今の時代と違って、当時はなかなか認めてもらえなかったらしい。
自分を押し殺して、生まれたときの性で生きることを決めたイケジイさんの人生…
こんな場所で知る人生物語。

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