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なんだこれ!と怒っちゃうくらい美味しいもの。

美味しいものは
時に野蛮な気持ちにさせる。
食べた瞬間、
なんだこれは!
と怒り出したいような気持ちになる類いの
美味しさのことだ。
ある種の美味しさに出会うと、
何しろ感情を爆発的に外に向かって
吐き出したくなる。

狼の遠吠えのように

おいしいーーーーッ!

と雄叫びをあげたい。
怒りにも似た発露をした後で、
アッハッハ、と笑っている自分に気づく。
どうかしてるよ、まったく。
どうかしちゃうくらいに
美味しいということなのだから仕方がない。
そして最後には
食材と作ってくれた人とこの時間に対して
敬虔な思いを抱き、しみじみとする。
ひとつのおいしさが
咆哮させ、笑顔にさせ、思いを深くさせる。
たくさんの感情を呼び覚まして
心と体をぐるぐる掻き回すもの。
それがおいしさのエフェクトだ。


もちろん奥ゆかしさが折り重なった
品の良い美味しさも知っている。
そういうものを食べた時は、
思わず口元を押さえて
言葉もともに飲み込んでしまおうとする。
ひとくちひとくちの咀嚼に言葉も混ぜて、
自分の中にしまってゆく。
体にこのおいしさを記憶させるには、
いい方法かもしれないと思う。




当たり前のようにものを食べているけれど、
なぜ私たちは
自分の外側にあるものを取り込んで
生きるようにできているのだろう。
動物にしろ植物にしろ、
他者を食べることで生き永らえている。
他者ありきで始まり、
他者あっての命となっている。
蟻も熊もあなたも私も
他の何かを食べている。
時々
このことをものすごく不思議に感じる。



世界一幸せな動物と言われるクオッカワラビーが
今日も葉を食べている。
小さな両手でしっかりと肉厚な葉を持って、
シャクシャクと機嫌よく食べている。
もちろん怒ったりしないで
穏やかに無心に草を喰むのだ。
世界一幸せな動物が
にっこりしながら
不思議がることなく葉を食べている様を、
私はスマホの画面越しに眺め、
食べることの面白さについて思っている。


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ヘッダーの写真は
「炙った甘夏の輪切りが
豪快につけつゆに入った蕎麦」です。

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