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趣味のデータ分析024_近くて遠い国①_経済距離と人的距離

一部データと計算法について全面的に差し替え、それに合わせグラフ等も修正。ただし、本文の内容についてはほぼ影響なし。

今回はほぼ一発ネタなので、これまでのネタとのつながりはないし、そんな広げるつもりもない。日本と世界の各国が「どれくらい離れているか」について、指標化しようという試み。

経済距離と人的距離

距離と言ってももちろん物理的距離ではなく、ここでは経済距離と人的距離を定義する。
経済距離は、i国とj国が、経済的にどれくらい緊密な関係にあるか、人的距離は、i国とj国が、人的ネットワークとしてどれくらい緊密な関係にあるかを示す指標とする。もちろん定義の仕方はたくさんあるが、入手しやすくわかりやすいデータとして、経済距離はお互いの財・サービスの貿易額、人的距離はお互いの出入国者数で定義しよう。数式的には下記で定義する。

$$
経済距離_{ij} = \left(\dfrac{(輸出額_{ij} + 輸入額_{ij})}{GDP_i}\right)^{-1} \\

人的距離_{ij} = \left(\dfrac{(出国者数_{ij} + 入国者数_{ij})}{総人口_i}\right)^{-1} 
$$

見ての通りだが、簡単に説明しておく。
経済距離は分子に輸出入額で、分母にi国のGDPを取って基準化っぽくしている。これは、分子の$${輸出額_{ij} + 輸入額_{ij}}$$は$${経済距離_{ij}}$$と$${経済距離_{ji}}$$で同じになってしまうのだが、i国とj国間に経済規模の差がある場合、つまりi国はj国との輸出入に依存しているが、j国的には別に依存していない…ということを、分母でGDPで基準化?することで表現した。
また、$${輸出額_{ij}}$$は、i国からj国への輸出、$${輸入額_{ij}}$$はi国からj国への輸入を指す。よって、$${輸出額_{ij}=輸入額_{ji}}$$である。
最後に、逆数を取っているのは、そのままの定義だと距離が大きくなってしまって、「距離が近い」という感じが表現できないからである。深い意味はない。
人的距離も同様である。

データについては、輸出入データは日銀の国際収支統計から、日本への入国者数は法務省の出入国管理統計、日本からの出国者数はJNTOから取得した。GDPと総人口は、IMFのWEOから取得している。また、コロナ前後で大きく世界観が違うので、今回はコロナ前の数字を使っている。詳細は補足にて。

日本、ややキョロ充説

というわけで、早速グラフにしてみよう。横軸が経済距離、縦軸が人的距離である。基準は日本、つまりi国が日本である。

図1:GDP上位10カ国(日本除く)の、日本から見た経済距離と人的距離
(出所:国際収支統計、出入国管理統計、JNTO、IMF)

とりあえずデータが取得できた国について、GDP順に10カ国を並べてみた。なお、水準感自体はかなり差があるので、両軸ともに対数軸にしている。
一番近いのは中国、韓国、米国の3つ。さもありなん、というところ。ついで欧州とカナダ、そしてインド、ブラジルという感じ。欧州は結構団子だが、その中ではドイツが一番近いか?まあ経済規模も大きいし、敗戦国同士通じるところがあるんだろうか。思った以上にきれいに出て、個人的には満足。

では次に、相手国を日本にして見てみよう(j国を日本にする)。図1と重ねて表示する。

図2:GDP上位10カ国(日本除く)の、相互に見た経済距離と人的距離
(出所:国際収支統計、出入国管理統計、JNTO、IMF)

青が日本基準、オレンジが相手国基準である。まずわかりきったことをいうと、青とオレンジの差は、分母を日本と相手のどっちに取るかでしかないので、端的にはGDP or 総人口が日本より大きい(小さい)と、それだけで青よりオレンジのほうが遠い(近い)位置に出る。それ以上の意味はあまりなく、青とオレンジを直接比較するのは結構ミスリーディングなのだが、ちょっと解釈してみよう。

まず近い国が結構減る。韓国はめっちゃ近いけど、米国と中国は離れていってしまい、欧州とカナダ、特にドイツとカナダが近くなった。また、青ではブラジルが一番遠かったが、オレンジではインドのほうが遠くなっている。
叙情的に表現してみると、(歴史問題等がどうあろうと)日本と韓国は間違いなく「両思い」である。一方で米中については、割と日本の「片思い」感が強い。日本から見たらベストフレンズのひとつなのだが、相手からすると「友達グループのひとり」くらいの感じだろうか。若干キョロ充感ある。実際には、多分中国とアメリカから見れば、経済/人的距離が100とかはお互いを除けばほぼおらず、せいぜい10くらいだと思うので、「日本が特に遠ざかってしまった」というわけではないとは思う。

さて、では次にアジアグループで見てみよう。インド含むアジア各国と日本の距離について、青とオレンジの両方一気に示す。

図3:主要アジア各国の、相互に見た経済距離と人的距離
(出所:国際収支統計、出入国管理統計、JNTO、IMF)

オレンジ近っ。台湾、シンガポールは韓国より内側に入ってきた。まあ端的に、人口規模とGDPが日本よりだいぶ小さいというだけではあるのだが。でも青の位置も、図1よりちょっと近めに出ている感じ。
(台湾韓国シンガポールを除いた)東南アジア各国から見たら、タイ>マレーシア>ベトナム>フィリピン>インドネシアの順に日本を近く感じてくれているようだ。

最後に、図1と図3の青を重ねてみよう(重複した国があるので、プラスちょっとGDPが多い国を増やして、計20カ国)。

図4:GDP上位国と主要アジア各国の、日本から見た経済距離と人的距離
(出所:国際収支統計、出入国管理統計、JNTO、IMF)

引き続き割ときれいな相関(ちなみに回帰したら決定係数は0.31だった)。仲良しグループに台湾が入ってきた。その他の東南アジア諸国やオーストラリアも、欧州勢と同じくらいの距離感に入ってくる。経済規模としては欧州のほうが当然大きく、その意味では欧州とかのほうが経済/人的距離は近くてもあり得ると思うのだが、やはり物理的距離が近いということは大事だなとちょっと思う。
そして、かつてはBRICsと呼ばれた中国、ロシア、ブラジル、インドだが、中国以外の遠いこと遠いこと…こいつら、アメリカとか他の国を基準にしたらもっと近くに来るのか?あえて言えばBRICsのB・R・Iを日本はあまり取り込めなかった、ということかもしれないが、正直B・R・Iがそこまで成功している感じはしないので、致し方無しかもしれぬ。

まとめ

というわけで今回はジャストアイデアで、経済的距離と人的距離を定義して分布させてみた。完全なる思いつきだったが、思った以上にきれいに出たので、個人的には満足。
米中韓が日本から見て近いのはわかっていたけど、欧州より東南アジアが近いというのが(恣意的な指標だけど)定量的にわかったことも嬉しい。そして明らかになるBRI(C)sの遠さよ。。。。

一発ネタにしようかと思ったけど、人的距離がちょっと深掘りできそうだったので、あともう一回くらいこのネタでやってみよう。

補足・データの作り方等

先述の通り、日本への入国者数は法務省の出入国管理統計、日本からの出国者数はJNTOをデータソースとしている。JNTOを使っているのは、出入国管理統計でも「出国している日本人の数」は分かるのだが、彼らが「どこの国に行ったのか」は分からないからだ。これが分かるのがJNTOの統計である。これは相手国側の入国統計等から日本人のデータを抽出して作成した力作なのだが、国ごとに集計の定義等が大きく異なっているので、本来は横比較は良くないデータである点には注意が必要。

国際収支統計は、四半期ごとの地域別でデータを取った。収支のデータは貿易、サービスだけでなく、一時所得、二次所得のデータもあるが、今回は「貿易収支」「サービス」の輸出/輸入及び受取/支払をすべて合算した数字を、経済距離の分子に使っている。一時所得等は対外資産の影響も大きいし、直接的な関係はやはりフローで見るべきでは、という判断。
ちなみにこのデータ、四半期で頻度は高いが、国の数や過去遡及の制限が一番強い。財務省の貿易統計のほうがその辺の制約がなくてよいのだが、サービス収支が取れないというのはやはり厳しい。

IMFからのGDPは、名目ベースで取得している。実質化は変化率ならともかく、国際横比較はちょっと怖い。分子に入る国際収支統計は当然名目ベースだしね。
また、国際収支統計は円ベースだが、GDPはドルベースで取得しており、為替変換が必要になる。この為替変換は、国際収支統計の円を、日銀の外国為替市況の年次データのうち、「平均レートの17:00時点」のものを使用した。このへんは正解がないので、割と適当に取得した。ついでにごくマニアックな話をすると、GDPは現地通貨ベースかPPPベースでも取れたので、揃えるという意味ではPPPベースで変換するという可能性もあるが、流石にPPPで変換した単位の「ドル」とはなんぞや問題が発生するので、今回は避けた。ただ最終的にはこの「PPPドル」は単位として消滅するので、PPPドルで変換する、という可能性もあったかもしれない。

最後に、特に人的交流がコロナ後大幅に歪んだので、GDPや人口を含む各統計で、コロナ前の2017年~2019年の平均値を取って、データを作っている。2020年以降も経済距離は割と普通に作成できるのだが、やはり人的距離はほぼゼロになってしまったりするし、相手国の入国管理でもかなり変わってしまうので、当面人的距離のデータを作るのは無理な感じ。そもそもJNTOがデータを作っていない問題があるが。

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