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『さかしま』からみる書斎論:インテリアは自己表現手段に

 フランスの小説家ジョリス=カルル・ユイスマンスの作品『さかしま(原題:A Rebours)』の主人公デ・ゼッサントの書斎の特徴から、その品々によって、いかなる意思表示を自他へ行い得るかを検討する。

河出文庫・澁澤龍彦(訳)20刷

「久しく名のみきいていたデカダンスの聖書『さかしま』の難解を以て鳴る原文を、明晰暢達な日本語、しかも古風な威厳と憂愁をそなえた日本語にみごとに移しえた訳者の澁澤龍彦氏の功績を称えたい」(三島由紀夫)。
<生産>を至上の価値とする社会に敢然と反旗を翻し、自らの「部屋」に小宇宙を築き上げた主人公デ・ゼッサント。澁澤龍彦が最も愛した翻訳が今甦る! 

カバー裏・紹介文より

 本作は1884年に刊行されていることから、既に19世紀末の近代社会であり、作中の時代設定もこの頃である。
 主人公が(没落)貴族であることからも、財産整理によって、質素だが比較的豊かな生活であり、実際、職には就いていない。そのため、以下紹介する書斎(自宅)に居ることが大半といった「隠遁生活」を営んでいるのである。

 西洋社会における隠遁生活は修道院や、貴族によって養われた思想家によるものなどがあり、日本における隠者文学の先例と類似している。今日の「隠居生活」や「アーリーリタイア」などとは異なり、思想的・信条的目的に基づいて、世俗から離れる行為であり、逮捕を免れるために逃亡する生活ともまた一線を画す。
 彼は一族の古城を売り、新たに郊外に購入され、意匠に凝って作られたものであるため、完全なる趣味表現の手法の一つとして捉えることが可能である。

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