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ホームズに興味を持ったなら原作を読もう。入門書なんて買うな。代わりに教えるから。


前日譚 綾波宗水の回想

はじめに
以下、筆者の独断と偏見が多々あります。

ある日、書店でのよく見る棚のコースをまわっていると、「100分de名著」の今月号として、シャーロック・ホームズの特集がなされていた。テレビを観ないので、こうして本屋へ来ていなければ気づかなかっただろう。
 
 ホームジアン(シャーロッキアン/ホームズマニア)を自認している僕は、比較的安価なその雑誌を、あやうく購入するところだった。
 パラパラと目次や大まかな内容を覗いてみると、何と言うことだ、あまりにも初歩的だよワトソン君

 もちろん、あの番組の良いところは、いきなり読むにはハードルが高かったりする古典的な作品の魅力や作者の考えを、専門家と共に学べる点だ。なので、自然と初心者向けであるのは致し方ない。

 だが、僕は初心者ではない。これだけは、ホームジアンの中でいかに知識量やグッズの量などが少なく、相対的に初心者よりであったとしても、熱量と基礎知識は備えている。

 事実、書店にはホームズの入門書がそれなりにおいてある。ホームジアンとして著名な方が書いたものも少なくないが、内容は当然ながら、どれも似通っている。
 逆に言えば、専門書・研究書・考察の類が絶版であったり、入手困難だったりするだろう。マニアの間ではホームズ研究を「ホームジアーナ」と呼称するが、これももしかすると、活気が無いのかもしれない。

 結局、タイトルの通り。シャーロック・ホームズという存在に関心を持ったならば、ロバート・ダウニー・ジュニア主演映画でもなく、国内外の現代版ホームズ系ドラマでもなく、宮崎駿の犬アニメでもない、コナン・ドイルの原作に触れるのが一番だ。

 なぜならば、原作が面白くなければ、名探偵像として、世界で一番有名にもならず、彼の影響を受けたミステリも誕生せず、工藤新一君が探偵に憧れることも無いだろうから。

①どの出版社で買う?

 小学生などが図書館で借りるなら、青い鳥文庫が読みやすく、イラストもあって良いだろう。
 ここで借りる、としておいたのは、今後、自宅の本棚に半永久的に並べるとなると、人によっては幼く感じ、手放しかねないから。それは勿体ないので、以下、文庫で買う際のオススメ出版レーベルを紹介する。

  1. 新潮文庫
    圧倒的定番。延原訳がメジャーな日本語訳として通じている。しかし、購入するとなると、一冊、『シャーロック・ホームズの叡智』という短編集が増える。これはそれぞれの短編集に収録されなかった話の寄せ集めであり、他社には無い書籍。したがって、新潮文庫でそろえると、合計10巻。

  2. 創元推理文庫
    青い鳥文庫にはイラストが挿絵として存在しているが、当レーベルでは、当時の挿絵があるのが魅力。ホームズシリーズは当時、雑誌連載であったが、その時代の挿絵が、舞台や映画、マンガにおけるホームズ像を形作った。

  3. 角川文庫
    紙質が独特でめくりやすいのが角川文庫の良さだと僕は思っている。それに一番安い。TSUTAYAのような書店であっても、だいたいどの店舗だろうと売ってる(イヤミ)。

②原作が出版された順番

 さて、ホームズ物語はいったい、全部でどれだけの話があるのでしょうか。先ほどはさらっと「短編集」という言葉も用いましたが、実は長編・短編合わせて60編もあります。

 そして、作中に名前だけが出ているが、お話としては書かれていない「語られていない事件」を、現代の作家たちは、創意工夫を施して、「パスティーシュ」(まぁ、真剣なパロディの一種だと思って差し支えない)を書いてもいる。
 なので書店で“シャーロック・ホームズの”という枕詞のついた本を見つけたとしても、それが原作(「原典」「正典」)とは限らないので、以下のタイトル名簿と見比べてみるといいでしょう。あるいは読む順番も。
 原作の作者は、サー・アーサー・コナン・ドイル
 ナイトの称号を持っている、元眼科医。

  1. 『緋色の研究』(長編。『緋色の習作』という邦題も)

  2. 『四つの署名』(長編。『四つのサイン』)

  3. 『シャーロック・ホームズの冒険』(短編集)

  4. 『シャーロック・ホームズの思い出』
    (短編集。『シャーロック・ホームズの回想』)

  5. 『バスカヴィル家の犬』(長編

  6. 『シャーロック・ホームズの帰還』
    (短編集。『シャーロック・ホームズの復活』)

  7. 『恐怖の谷』(長編

  8. 『シャーロック・ホームズ 最後の挨拶』
    (短編集。本作だけ「の」が付かない)

  9. 『シャーロック・ホームズの事件簿』(短編集)

(※10『シャーロック・ホームズの叡智』新潮文庫)
 したがって、長編4作、短編集5作です。

ホームズとは何者か

 「流石にそれは知ってるから、(名)探偵でしょ?」
 はい、50点。

 シャーロック・ホームズ。それは(最初の)「私立諮問コンサルタント探偵」。
 まず、舞台は19世紀末のロンドン。
 この時代、「素人探偵」は存在している。江戸川乱歩などを読んでいても分かるように、探偵は必ずしも職業を示さず、捜査などをする時の動詞的な意味合いもあったり。
 つまり職業探偵が刑事、素人探偵が民間人くらいのイメージでいいだろう。

 しかし、ホームズはそういった探偵(警察)たちが手に負えない事件の相談を乗り、解決させる、というより上級なものであるため、単なる探偵ではない。

 身長は6フィート(約183センチ)で、誕生日はマニアの研究により1月6日という説があります。
 ドラマ「古畑任三郎」でもこれは言及されており、古畑自身も、同じ誕生日という設定。

 彼の特徴は、『緋色の研究』で、元軍医で、ホームズと同居し、相棒となる(助手ではない)ジョン・ワトソンが以下のように記している。
 なお、物語のほとんどはワトソンが記録し発表した形となっている。

1.文学の知識:なし。
2.哲学の知識:なし。
3.天文学の知識:なし。地球が太陽のまわりを公転していることを知らない。
4.政治学の知識:わずか。
5.植物学の知識:多様。ベラドンナや阿片、毒薬に特に詳しい。園芸の知識はない。
6.地質学の知識:限られているが実用的。ワトソンのズボンについた土の撥ね返りを見て、色と粘度からロンドンのどこで付いたか言いあてた。
7.化学の知識:造詣深い。
8.解剖学の知識:正確であるが体系的ではない。
9.通俗文学の知識:計り知れない。今世紀(19世紀)に起こったほとんどの凶悪事件の詳細を知る。
10.ヴァイオリンの演奏が、かなり上手い。
11.日本武術、フェンシング、ボクシングができる。拳銃や、ステッキ、乗馬鞭など武器を駆使して悪党を制圧する。
12.イギリスの刑事法に実用的な知識を持つ。

 まず、彼の弁護として、後に天文学の知識も披露しているなど、100パーセント、この時のワトソンの観察が正しかったわけではないが、設定としては、概ね、全て一貫していると言えるだろう。

 ここからも分かるように、科学者であり研究者的だが、武闘性もある。だが、女性には無関心であるのも後の作品では変わらないが、紳士的。
 しかし、(当時は合法の)コカインを摂取していたりなど、観る人によって、冷血や変人でもあれば、論理的で芸術も好む英国紳士であったりする。

 ホームズ物語の凄いところは、これがめちゃくちゃな設定などではなく、読み手に対する幅として機能しており、多くの人が愛読し、考察する楽しさまでもがあるのだ。

 だからこそ、現代のホームズをモチーフにした映画・ドラマでも、事件を推理ゲームのように楽しむサイコパスであったり、もしくは、冷静だが犯罪を許さない熱さも持つ(相棒の「杉下右京」など)バージョンもあるのだ。

 ホームズは必ずしも完全無欠のスーパーヒーローではありません。
 片付けに無頓着なところもあったり、何日も人と話さないことも。

 それに、実はホームズにはモデルが存在していたのです。
 それが、ドイルの恩師であるジョセフ・ベル博士。患者の外見から病名だけでなく、職業や住所、家族構成までを鋭い観察眼で言い当てたとか。
 コナン・ドイルも医師にして作家という、ワトソンの原型のような存在。

 世界で最初の推理作家といわれるエドガー・アラン・ポーの名探偵「デュパン」や、近年ではアンリー・コーヴァンの『マクシミリアン・エレールの冒険』がホームズ像のイメージモデルにもなったとされてもいます。
 
 実体験と名探偵像の黎明期を上手く見出し、創作したことで、ドイル自身が嫌になる(小説内で殺そうとする)ほどに、ホームズは世界的に有名になり、100年以上たった今でも、僕らのミステリ作品に強い影響を与え続けている。
 
 もうお分かりだろう。
 ホームズとは、入門書ではもったいないくらいに良作な古典ミステリの数々。ぜひとも、原作に触れてみよう。

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