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梅の実|掌編小説(#シロクマ文芸部)

 梅の花を見ると、亡くなった祖母を思い出す。

 名前が「梅」だったんだが、それだけではない。

 祖母の家は、岐阜県の山奥にある。子供の頃、秘境のような場所にある祖母の家が大好きだったが、あまりに田舎過ぎて、野犬やイノシシ、猿などが悪さをすると、たびたび問題になっていた。実際、僕も小学校の帰り道、野生の猿に執拗に追い回されたことがある。

 そしてある日、僕は野犬に襲われ、左腕に大怪我を負ってしまった。病院から帰ると、祖母の家には大勢の人が集まっていて、なぜか近くのお寺の住職さんまでいた。

 ――知らない人ばかりだ……一体何事だろう。

 そう思いながら、ふすまの隙間からそっと中の様子を伺うと、祖母はみんなの前で何か話していた。よく聞き取れなかったが、その時の祖母は見たこともないくらい怖い顔をしていて、とても強い口調だったのを覚えている。

 みんなが帰ったあと、祖母は僕に「もう大丈夫だからね。みんなにはよーく言って聞かせたから。もう悪さはしないだろうよ」と言った。意味が分からず、僕は「うん」と頷くだけだったが、祖母がいつもの優しい表情に戻っていたので、とにかく安心した。

 その日から、なぜか外で野生動物を見かけることはなくなった。

 僕は祖母のおかげだと、大して不思議に思わなかったが、実はそれよりも不思議なことがある。

 祖母が亡くなったあと、いつどんなタイミングで祖母の墓参りに行っても、まるでついさっきまで誰かが掃除していたかのように綺麗で、ご丁寧にお供え物までしてあるのだ。

 住職にそのことを話すと、「梅さんは『みんな』の人気者でしたからねぇ」と言う。それと、祖母のお墓の周りで、よく野生動物を見かけるらしい。

 ――さすが、おばあちゃんらしいなぁ。

 墓前に手を合わせると、周りでササッと何かの動く気配がする。

 大きな声で「みんな、ありがとうね」と言うと、コトンと梅の実が肩に落ち、僕の手の平に収まった。

(了)


小牧幸助さんの「シロクマ文芸部」に参加しています。

私の祖母もそうでしたが、おばあちゃんって、絶対に何か不思議な力を持ってますよね。


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