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京都・奈良の旅〜鹿から学ぶ健康法〜

「卒業旅行どこ行きたい?」
小学校卒業を控えた長女に聞いてみた。
すると「京都と奈良に行く!」という
「いやいや、12歳。」「そこはUSJとかディズニーだろ。」と思ったが、歴史好きな娘らしい回答に嬉しさを覚えた。その反面、もう無邪気なだけの子どもとは違うのだという寂しさも覚えた。

とはいえ、久々の普通の旅行に胸が躍る。
近年の我が家の旅行は、キャンプか鹿児島への帰省が主だった。娘以上に、私の方がワクワクしていたかもしれない。

出発日の朝。天候に恵まれた良い日だった。
福岡の桜の開花宣言はまだだったが、標本木以外の日当たりの良いところでは、開花が始まる頃だ。家族5人で歩いて駅まで行く道のりにも、桜がちらほら顔を出していた。「帰る頃には5部咲きくらいにはなっているかな?」と思いつつ、その道のりを楽しんだ。全員の荷物が入った重たいスーツケースを一手に引き受けてはいたが、気分は軽かった。

駅弁買って予定通りの新幹線に乗り、いざ京都・奈良へ。

京都・奈良旅行の醍醐味といえば。
「そう!歴史散策」
初日は、京都太秦映画村
2日目は、奈良公園散策、春日大社、東大寺大仏殿
3日目は、鹿との別れを惜しみつつ、京都金閣寺へ
と思い出に残りそうな場所を散策した。

宿泊した宿は、「マウンテン ホーム ロッジ インディアパーク」という奈良公園内にあるロッジだった。素泊まりのみだが宿泊費も安く、子どもが多い家族の旅行には最適な宿だったのでおすすめしたい。
設備はホテルと変わらない上に、ダイニングキッチン、調味料、食器、調理器具、大きめの冷蔵庫、電子レンジ、湯沸かし器、無料洗濯機(洗剤付)が揃っていた。

奈良公園内という最高のロケーションで、鹿と自然と世界遺産に囲まれたテーマパーク内に宿泊したような気がする。朝は、どの観光客よりも早く公園を独り占めできた。昼間、疲れたら部屋で一休みして、また出かけることができた。一休みの間は、鹿と観光客を眺めながらくつろぐこともできる。夜は観光客が帰宅の途に就く中、そのまま滞在できるという優越感があった。

例えるなら
ディズニーホテルに宿泊したようなものだ。
扉を開ければそこはもう、「バンビ」でいっぱいの世界が広がっている。「バンビ」だけではない。よ~く探せば「マウス」もいたはずだ。奈良市には、有名な「ダック」もいるらしい。残念ながら、今回は出会えなかった。

妄想:部屋からの眺め。

朝、扉の先に日が当たるようになると、続々と鹿たちが集まり、我々をお出迎えしてくれていた。
「さあ鹿さんたち、今行くよ~。」
鹿たちに餌をあげて癒される気満々の私。
そんな、安易なワクワク感は、10秒で覆された。

扉を開けて、束になっている鹿せんべいを持って、いざ鹿たちの前へ。
その瞬間だった。
ゾクっとする寒気を感じたかと思うと、鹿せんべいを持つ私に視線が集まった。鹿たちの目つきが変わったのだ。たぶん。
そこには、さっきまで想像していたバンビ的な鹿とはまるで違う生き物の群れがいた。
あわてて鹿せんべいの束をほどいている私を、鹿たちは待ってはくれなかった。
「ひぃ~やぁ~!」

鹿たちは、次から次へと私の洋服に噛みついては引っ張り、噛みついては引っ張り。私は、無抵抗にペットから噛みつかれ、弄ばれるロープになったかの様に、鹿のおもちゃになっていた。

しかも、朝一の奈良公園。餌をあげているのは私のみ。集中砲火だ。一緒にいたはずの子どもたちは、早々に部屋に避難している。

急いで鹿せんべいの束をほどき、鹿に与えたが間に合わない。入れ替わりに別の鹿に引っ張られるだけだった。

「これはもう、投げるしかない。」
そう思った私は、名フリスビー選手のような繊細なタッチで、鹿せんべいを鹿に見せては投げ、見せては投げを繰り返した。

すると、ようやく鹿たちを引きはがすことに成功。すぐに、私も部屋に避難した。

部屋にもどった私は、鹿につけられたよだれまみれの服を脱ぎつつ、よやく奈良公園の鹿が野生の鹿であることを認識した。

鹿たちも朝はお腹がすいているのだろう。当たり前の行動だった。それでも、身を噛まれることはなかったので、奈良公園の鹿たちは穏やかなのだ。

夕方。
一通り観光してロッジに戻ると、玄関前には朝と同じであろう鹿たちが、ちゃんと待っていた。今度は、はじめから鹿せんべいを与えられる大勢を整え、せんべいを鹿に与えた。

ところが、朝と様子がちがう。
朝はあんなに食いついてきたのに、今は見向きもしない。

なるほど、これは学ぶべきところだ。
鹿たちは、ちゃんと必要な分を食べたらもう余分に食べたりしないのだ。どうりで、肥満の鹿を見かけなかったわけだ。

こんな鹿とは、どういう生き物なのだろうか。

二ホンジカ
偶蹄目(ウシ目) シカ科 シカ属
牛の仲間で、4つ胃を持つ反芻(ハンスウ)動物
反芻とは、一度食べたものを吐き戻して嚙みなおす行動のこと。
これによって消化率を高めて、低質な植物からも十分栄養を得ることができる。2~4時間ごとに食べては休んで反芻を繰り返し、昼夜問わず活動する。

「農林水産省:シカの生態と被害対策」などより

たしかに、牛や鹿はもぐもぐしている印象がある。
その、もぐもぐタイムは1回30分~60分という。

カーリングのもぐもぐタイムは5分というので、鹿のほうが余裕を持ってもぐもぐできる。
「カーリング女子の彼女たちは、笑顔の裏で早食いを強いられていたのだろうか。」と思うと心が痛い。
「いや、反芻しないのだから5分で充分か。」
どうでもいいが、ともかく鹿のもぐもぐタイムは長いということが分かった。

この、もぐもぐ反芻中の30~60分にハマると、鹿せんべいを与えても鹿は食べてもらえない。

それは素晴らしいことだ。よく嚙んで反芻している間は、いくら好きな食べ物を鼻先につけられても食べないということだ。

❝二杯目の天丼はうまく食えぬ❞ことを、鹿は知っているのかもしれない。二杯目の天丼はとても食い尽くせないし、うまくもない。二杯食べたからといって、幸福感は2倍にはならないということらしい(本多静六「私の財産告白」より)。

実際に天丼を2杯も食べたら、お金を2倍払った挙句に肥満へ1歩前進するだけだ。どちらかというと、人生にとってマイナスにしかならないだろう。

では、我々にとってプラスとなる学びは何か。
それは、「よく噛む」ということだ。

よく噛むといえば
母から「よく噛んでたべなさい」と言われたものだ。昔から言われている言葉なので、きっと大事なことではあるのだろう。

「なぜ、良く噛むほうが良いのだろうか?」

ラットの実験がある。
ラットを、硬餌の給餌群と柔餌の給餌群に分けて行った実験だ。

その結果、硬餌の給餌群よりも柔餌の給餌群の方が、1回の食事量は増え。1回の食事持続時間も延長する結論を得た(Fujise et al.1993)。これは、硬い餌をよく噛んで食べた結果、食事摂取量は減少したということだ。

鹿の餌は、シバ、ササ、木の葉、ドングリなど硬そうな植物が多い。反芻してよく噛むことが、餌の過剰摂取を抑えることに繋がるのかもしれない。

では、「よく噛んで食べるとはどういうことだろうか?」

我々は経験的にも、しっかり噛むと満腹感が増してくることを知っている。

なぜ満腹感が増すのかというと、
食べ物を口に入れ噛み砕くとき、噛むために働く顎の筋肉から脳内の咀嚼(ソシャク)中枢に神経興奮が伝わって、「神経ヒスタミン」という物質が分泌される。この神経ヒスタミンが脳内の満腹中枢を興奮させ、満腹になるよりも早く「おなかいっぱいです」という信号が送られる。

これが、よく噛むことによる満腹感の仕組みだ。

じつは「よく噛む」という行為には、さらに2つの素敵な効果がある。

➀よく噛むと、内臓脂肪がよく燃焼する。
ここにも先ほどの神経ヒスタミンが関わっている。噛むことで分泌された神経ヒスタミンは、満腹中枢を介して交感神経の中枢を刺激する。これが脂肪を燃焼するよう働きかけてくれる。内臓脂肪は皮下脂肪に比べて交感神経による脂肪分解が強いため、噛むことが内臓脂肪の燃焼が促進するといえるのだ。

生活習慣病に強く関わっているのは内臓脂肪だ。
生活習慣病になって、生活が不自由になり、医療費がかさむよりは、よく噛むことで内臓脂肪を燃焼し、生活習慣病の予防につながるのであれば安いものである。

②よく噛んでゆっくり食べると、食後のエネルギ―消費量が増加する。
食事誘発性体熱産生という現象がある。 食後に起こる栄養素の消化・吸収によって生じる代謝に伴うエネルギー消費のことで、基礎代謝量の10%程度を占める。
2015年に東京工業大学の研究チームは、被検者を急いで食べる群とゆっくり食べる群にわけ、摂食後3時間までの酸素摂取量を計測し、食事誘発性体熱産生量を算出した。その結果、食後3時間のエネルギー消費量は、急いで食べた群が15kcalだったのに対し、ゆっくり食べた時には30kcalと有意に高い値を示した。

つまり、急いで食べるよりも、よく噛んでゆっくり食べる方が、食後のエネルギー消費量が増加するということだ。

これは、もしかして!
よく噛んでゆっくり食べさえすれば、「アイスは冷たいからゼロキロカロリー」となりうるのかもしれない。摂取したエネルギーを食事誘発性体熱産生で消費してしまえば可能だ。
「冷たいものを食べると、エネルギー消費量が増加する」と言われていることも踏まえると、より現実味を帯びてくる。

例えば、森永アイスの「ピノ」は1個31kcalだ。
これをよく噛んで、食べ終わっても噛み続けるくらいよく噛んで、ゆっくり食べると、食後3時間で30kcalを消費できる。
しかし、溶けるアイスを噛み続けるという行為を実現させるために、相当な努力と忍耐が必要であることは、想像に難くない。

1個約31kcal      ピノ/森永乳業ホームページより
https://www.pinoice.com/lineup/

やはりアイスは普通にいただこう。30kcalなら運動で取り戻せる。

ここまで、「よく噛む」ということをお伝えしてきたが、どれくらい噛めばよいのだろうか。

今のところの答えは「噛みんぐ30(カミングサンマル)」だ。
厚生労働省は「噛みんぐ30」を提唱して、一口30回噛む習慣を推奨している。このダジャレを、真面目に考えてくださった厚生労働省職員のみなさんには頭が下がる。

今回参考にした研究グループも、一口30回の咀嚼を推奨しているが、これが実に難しい。私も試してみたが、30回前に飲み込んでしまう。なので、ひとまずよく噛むことを心掛けるところから始めると良いだろう。

30回数えるのが苦痛なら、ボウル法という方法もある。
夕食前にサラダボウル1杯の野菜や海藻などの食物繊維に富んだ噛みごたえのあるものを10分間じっくり噛み、その後夕食をしっかり噛んで食べる方法だ。食材の美味しさをかみしめながら満腹感がまして、腹八分で満足感が得られるという。

こんな素敵家族の絵を想像しながら、サラダを食べよう

これなら続けられるかもしれない。

参考になったら幸いだ。

噛むことにプラスして運動もすると、1年後にはカモシカのような美脚になっているかも。

さて、鹿に学びを得つつ奈良を後にし、京都駅についた我々家族の前に、旅行の終わりを告げる新幹線が到着した。帰りの車内で私はというと、旅の思い出を反芻しつつ赤福のお餅一箱を一気にたいらげていた。

明日から頑張ろう。

<参考>
○坂田ら:咀嚼で駆動される中枢制御のエネルギー代謝調節.日本咀嚼学会雑誌.1巻2号.2002

○長時間咀嚼すると食後のエネルギー消費が増える(東京工業大学ホームページより)

○本多静六「私の財産告白」
 鹿に関係なく名著だ!

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