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(2) 国連を、 仲間にしてみる・・・。

「初動対応は我々に任せて、国連は事後処理に尽力してくれればいい。安保理も問題無く機能し始めると思うよ」彼は爽やかな顔をして、笑った・・。
英仏米中による拒否権行使の場面が増え、安保理が機能せずに役割を果たさなくなると、制度の変革が求められるようになる。
そんな折の事務総長選出となり、「彼」が後押ししてくれる態度を示してくれたからこそ、期待に応えたい、彼の後任と呼ばれるようになりたいと強く願う様になった。         
各組織や制度の弱い箇所を外部勢力が補完する事で、国連が停滞していた状況が改善し始めた。
今回、安保理が正常に機能して、キプロス島への国連軍派遣が決定した。北部のトルコ系住民居住地区の保護活動展開中の中南米軍の一部を国連軍に編入して、バングラデシュ、ネパールの2個師団を新たに派遣し、ギリシャ系住民居住区との境界線に展開して双方の衝突を阻止する事になった。      
国連調査団や部隊の派遣が決まるまで、どうしても協議と審議の時間が必要となる。軍事力のある側と劣る側で紛争が発生すると、軍事力が勝さる側が圧倒して大勢が決した後になって、ようやく国連が稼働し始める事もあり得る。前々任の事務総長の頃は、自衛隊のAI兵器が国連軍の先遣役を担った。AI兵器の破壊力の認知が浸透した事により、前々任が事態を憂慮する声明を発しただけで紛争勃発に至らずに済んだのも、1度や2度では無い。彼の存在自体が抑止力として機能していたと言っても過言では無い。AI兵器の生みの親でもあり、AI戦のマイスターでもあったのだから。
その後、ベネズエラ軍が中核となり、中南米軍を組織してゆくと、お役御免となった自衛隊の機能を縮小して日本の専守防衛に特化させると、国連軍構成員から退いた。
彼が国連を去るのを待ち構えていた常任理事国各国は、国連を設立したオリジナルメンバーの手元に組織が戻ったとして、嘗ての戦勝国の意向が強くなり従前の過去モデルに後退する。
あろうことか、最近では常任理事国が関与する紛争や軍事活動ばかりが目立つようになっている。

ハキム事務総長は椅子に全身を委ねながら、天井を見上げる。彼もこの部屋で、思索し続けていたのだろうなと微笑み、紅茶と菓子を愉しんでいた。コーヒー産地出身者でありながら、紅茶を嗜むようになったのも、英国留学で覚えた習慣が基となっていた。 

第2次フォークランド紛争、エジプトのスーダン侵攻、ソロモン諸島、ニューカレドニア、そして今回の仏領ポリネシアとカナダ3州の独立騒動、そしてキプロス紛争が再燃の兆しを見せるようになると、その全てに米英仏、中国が関与し、事態の鎮圧と沈静化に中南米軍が一役買った恰好となった。世界の様々な地域で部隊を派遣しているので、先行対応して状況の悪化と事態の収束を行なえる唯一無二の軍と言える。昨今は常任理事国が紛争に関与しているケースばかりなので、安保理で時間を掛けて審議し、議論を重ねる必要があるが、中南米軍の介在により、結論が出るまで状況が悪化する事が無くなる。                      アフリカ連合、中南米諸国、日本連合、旧英国連邦の大半から推薦・信任されて、事務総長に就任したが、今回のキプロス派兵で初めて手腕を評価された。新事務総長の元で安保理が機能し始めたので、難民支援や民族問題等の国連の全ての役割が円滑に動くようになってきた、と評されるようになった。
 新事務総長であるアスラン・ハキム氏はナイジェリア出身で、産業相を努めていた際にベネズエラ第一次政権時のモリ大統領、カナモリ首相と中南米諸国からの支援を受けて、ナイジェリア国内の新エネルギー政策を推進し、中央アフリカで頭角を現すようになる。その手腕を買われて各国からの推薦を受けて、事務総長に選出された。
ハキム氏を最初に推挙した、英国の傀儡体制になるのではないか?と当初は囁かれたが、昨今ではモリ元事務総長と連絡を取りあっている節が各所で散見されるようになり、英国との線は誤認だったか、英国が狙ったのか、何れかだろうと言われている。
ハキムの就任前に、国連職員がベネズエラ政府に大量に引き抜かれた経緯があったのと、北米から中南米への避難民を難民認定するしないで揉めた経緯もあって中南米諸国、ベネズエラは国連を見限ったのではないかとも目されていた。
組織が十分に機能しなくなったと国連職員から悲痛の声が上がっていた頃にハキムが事務総長に就任すると、ベネズエラ、コロンビア、キューバ、ナイジェリア、北朝鮮、インドの国際政治、国際関係等の専門学部を履修した大学出身者を大量に採用し、即戦力となる人材を補充すると組織が次第に機能を取り戻していった。
混乱した事態が収束した後で、各国の大学で国際関係学、国際政治の専門学部を設立した中南米諸国や日本連合で10年を費やして優秀な学生、研究者を育て上げたからだと称賛されるようになる。その一方で欧米の著名な大学を卒業した人材を反故にしたとの批判を浴びたものの、欧米各国の意を汲む職員が減少した事がプラスに作用していった。                今では「ハキム新事務総長はモリ元事務総長と裏で結託しているのではないか?」と公然と話されるようになっていたが、事実なのでハキムは一向に構わなかった。安保理が正常に機能し、国際間の安全保障問題に国連が振り回されずに済めば、安全保障以外の諸事項の問題にも対応できると証明できたのだから、それだけで十分だった。  

「歴代最高の事務総長」と言われた、かの人物の関与が抑止力に繋がれば、安保理で拒否権行使の局面を迎える確率が減り、自分の就任期間でゼロ更新が始まるかもしれない、とハキムは割り切って捉えていた。
 国連軍派遣が決定すると、派遣を要請する国々との間との調整が必要になる。そのインターバルを埋めるべく、紛争の可能性をキャッチした段階で中南米軍が即時対応に当たる・・。モリと、部下のボクシッチ夫妻、それに国連勤務経験者のベネズエラ閣僚の面々は国連を潰そうとか、改革すべきとは考えていなかった。中南米軍が初期段階から動いて、紛争の勃発を食止めている間に安保理でじっくりと対応策を協議すればいい・・ただ、それだけのことだった。        

今後、紛争勃発の事態を迎える場面は減少するだろう。分断された社会が世界中で構成されているので、紛争をしかけたい急進派や右派、既得権を主張するオールドタイプの保守層の主張や反抗意欲の熱気は続くにせよ、その都度決起する意欲を削がれて、何れは共産国のように弱体化してゆくだろうと、右派が共産国と同一視される、極めて挑発的な評論が目立つようになる。    紛争を求める側に「拒否権を持つ常任理事国」が居たとしても、現地では既に争いの芽は完全に摘まれて、且つ、中南米諸国の手により証拠の数々が暴かれているので、国際世論は一方に偏ったものとなる。
この星の世界における定理は、投票権を持つ市民の意向が全てとなる。市民の総意によって選ばれた首長や政府が、民主主義をどう扱うかで各国のスタイルが変化する。2つの大戦を経て、民意が尊重される世界となったにも関わらず、国連常任理事国の殆どが嘗ては植民地を持ち、そして今も統治するなどして旧植民地との関係を保っている。自国では民主主義を説き、方や統治している国では既得権益を守ろうとし、自国民向けとは異なる対応を取る。 
つまり、常任理事国はダブルスタンダードを常に取り続ける。嘗てのアメリカが、国内向けと日本や韓国等の属国に於ける民主主義の概念が、名前は同じでも中身は全く異なるものだった事実を思い起こせば良いだろう。
戦勝国だったり、植民地を持っていた国々が国内外で異なる概念で「民主主義」を使い分けるので、地球上での構造変化は起きずに貧困問題は解決せず、争いが生じたままとなる。     
地球上の格差是正や貧困問題に対応すべき組織は国連であり、馴れ合い集団のG7やG20では無い。G7は自国の権益を維持する前提で、世界を捉える。G20は言わばガス抜きの集合体だ。G7の敗戦国日独伊と立場が同じ、情けで加わった13の国に対して先進国の仲間入りの可能性があるニンジンをぶら下げて、まやかしの競争を煽るだけの集合体に過ぎない。G7とおまけ13の国の間には、難攻不落の越える事の出来ない障壁が立ち塞がり、13の国が先進国の仲間入りをする可能性は極めてゼロとなる。
「G7の体制を維持する為のG20とその他の世界」の図式を支える手段が、G7各国のダブルスタンダード遂行であり、情けに見せかけた現状維持策がG7による「途上国への紐付き援助」となる。 
G7の唯一の失敗が、「頑張れば先進国の仲間入りが出来る」とニンジン役を担わせた日独伊を、G7に加えた事だ。独伊はNATO軍とEUで縛り、日本はアメリカの属国として位置づけてコントロール下に置いて、世界の構造を固定化する事に邁進した。ソ連が崩壊してアメリカが主導する世界構造の固定化が完成しつつある中で中国が台頭し、G7が全力で中国を阻止する動きを始めた事により、G7の本性が透けて見える様になる。    欧米のダブルスタンダードを毛嫌いする、かの人物が極東の島国で立ち上がる決意を固めた頃と重なる。
10年前、国連事務総長だった彼が何を考えていたのかは定かではないが、国連を退いてから与えられた中国の顧問と、ベネズエラの大統領という2つのポジションをなぜ受け入れたのか、現ベネズエラ大統領が摂った「選択」に何かしらの「理由」があるのだろう。
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ハキム事務総長はモリと議論を重ねた日々を思い返しつつ、日本で開催されているG7外相会議での昨日の討議画像を自室で再生する。 
日本外相の秘書ロボットが6外相の発言者を撮影し、AIが英訳統一した元画像を、日本政府が発言内容を抜粋して会議全体の半分の時間に編集したものを、1.3倍速で再生してゆく。同じ画像を中南米諸国の各大統領、台湾、北朝鮮の首脳陣もシェアしているのだと知ると、彼らがG7,G20をパスする理由が分かる。意見の合わない者同士が一堂に会する意味が確かによく分からない。各外相の発言内容はコードデータ化されて「議事録」として瞬時に纏められており、会議の結果を知ってから、発言時の外相の顔の表情や間を確認だけ、すればいい。実に効率的だと感心する。死に体となった米英仏加の外相と、正道を掲げ続ける日独伊の新三国同盟とでも形容される様な会議となっていた。
各国の外相がロボットが撮影している事も知らずに、好き勝手な話をしているのも面白い。誰が愚物で、誰が賢者かもある程度分かってしまう。
英米仏加の外相を、日本のモリ・サトコ外相が見事なまでにあしらう様は、カナモリ氏に実によく似ていると感心し、日本の外相を記憶に留める。

開催国なので仕切り役を担っているというのもあるだろうが、要所要所での見事な切り返しや、的確な指摘の数々を随所で行い、ダブルスタンダードが大前提になっている欧米の外相を知らず知らずのうちに追い込みながら会議を進行させ、G7外相としての決定事項を纏め上げた。   
56歳で7人の中では最年少だと言うが、40にも満たない様な美しさだ。モリの縁者でもあるこの女性は、より上のポストを担うに違いないと事務総長は確信する。 

日本と中南米諸国無くして 国連の未来は無い。
然るにモリの後継者を見極め、将来への国際展望を共有する必要がある。モリの遺志を継ぐ人材で有れば良いが、異なる目標を掲げる人物が台頭し、組織を掌握すると異なる方向へ転がりかねない・・ハキムは半ば、そう確信していた。                 ーーーー 
事務総長が日本の外相を錯覚してしまう理由が実は巧妙に隠されていた。里子外相のタブレットに、外務省のスタッフや元首相2人が「ああ言え、こう言え」と次々と投稿していた。各国の外相が何人か連れてきているのに対して、里子は一人で登別温泉にやってきて会議に臨んで居た。
外野がピーチクパーチク騒いでも持論を発言する里子に、外野が慌てる場面もあったが結果オーライでこの日が終わる。

G7の会場自体は、北海道・北東北州の知事が全て段どってくれており、政府は会議に関する経費全額を州政府に支払うだけとなっている。また、日本の政府専用シャトルを各国に飛ばして、各国の外相を1時間以内に新千歳空港までお連れした。外相6人とスタッフ一同に宇宙空間を初体験させて、会議前から主導権を握る事に里子は成功していた。G7では日本だけの送迎サービスを施しながら、「欧米からですと極東まで10時間以上掛けて出向いて頂く距離です。お忙しい皆様のご負荷を軽減するのもホスト国の役割です」と上品に笑いながら握手を交わし、
「このタブレットに各ホテルの温泉情報が入ってますから参考になさって下さい。この街のホテルは入浴のみのご利用も可能です。登別温泉は泉質の異なる温泉が楽しめますので、様々な温泉を愉しんで頂ければと考えております。このペンギンマークのSuicaアプリに皆さんの滞在費も課金済です。温泉街をタブレットを持ち歩いてご利用下さい」といって、1千万円ほど課金したAIタブレットを渡していた。ここまで、優遇しておけば、日本での開催は暫く無くなると見込んでいた。各国にはとても真似出来ないからだ。     

会議を終えると、温泉入浴後の宴席に与党・社会党、総務部の通訳・翻訳部隊が「宴会部隊」として里子外相の応援に加わる。チーフパーサーだった里子に指導された、元教え子フライトアテンダント出身者達が仲居姿となり、女将姿に扮した里子と「即席おもてなしチーム」となって、座敷に座った浴衣姿の外相達に食事を提供してゆく。
機内サービスを料亭モードにアレンジしただけなのだが、会場となった老舗旅館の女将が「感心する程のサービスを、外相たちが提供するので驚きました。チームごと採用したい位です」と地元メディアの取材でコメントしていた。

ここまで日本の外相が主役となって見せつけると、以降の外相会議を開催する各国にはプレッシャーとなる。「先進国の」外相たるもの、外交交渉だけでなく社交性も必要でしょう?と里子の顔に書いてあるかの如き、振る舞いだった。  
杜家の夜の余興で「女将&仲居プレイ」が暫くの間続くのだが、そんな話が公けの場に漏れるはずもない。

G7外相会議の直前に、平壌、台北、そして東京の3カ国を中南米諸国の数か国の大統領達が歴訪し、総額30兆円の投資を表明したので、G7外相会議の内容自体がかなり霞んだものになってしまうのは前段から想定されてはいた。
しかし、日本の外相が持ち前の能力を発揮して、ホスト国のくせに主役であるかのように目立ってしまうのも、実は首相官邸の狙い通りだった。

会議の合間のオフショットでは米英仏加の男性外相達の鼻の下を伸びきった映像や写真ばかりが目立ち、日独伊の女性外相の各種温泉の入浴シーン・・顔だけだが・・が拡散する。 G7の会合らしい馴れ合いシーンは客室乗務員経験者の得意な世界だ。嫌な素振りを微塵も見せないスッチースマイルは 虚飾に塗れた国際政治でも完璧に通用する。

「台湾、北朝鮮への投資は分かるんだけど、中南米諸国が日本に投資するって、どんな内容になるのかしら?」ドイツの外相の入浴時のさりげない問いに対する里子の返答に、メディア各社が反応してゆく。

「日本資本に転じたベネズエラ企業が何社かあります。製薬やケミカル、そして自動車、航空産業の分野では目新しい製品も出しておらず、成長が緩やかなものになっている企業が散見されます。これらの企業に資本を入れて、成長を促すようにテコ入れするつもりなのかもしれません」  
入浴中の発言とは言え、瞬く間に各国に伝えられ、買収対象候補、資本投入候補のリストアップが進み、想定される企業の株価が引き上げてゆく。        それだけで、財務省を始めとする各省庁の財務担当チームが多額の利益を獲得してゆく。 正に日本と中南米諸国のヤリたい放題だった。   
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日本の特定銘柄株が高騰すると、日本の各省庁と社会党の財務部隊が、高騰した株を売却して利ザヤを稼ぐ。当然ながら、北朝鮮の臨時政府もベネズエラ財務省を始めとする省庁、そしてベネズエラ国営銀行等も、上昇した株を売却し利益の確保する。         
宇宙開発や新型ロボット等の工業製品を発表する度に上昇する株を売却して、利ざやを稼ぎ、その原資を定期預金に貯蓄し、利益で新たな株を購入してゆく。政府や公的機関が投資で失敗するのを極力回避する為に、堅実な投資を心掛けるよう徹底していた。

外相会議の費用も全て、株の売却益が元になっている。言わば、外務省が稼いだカネだ。財務省が分配する予算に極力依存せずに、自前で稼いだ金を使っていれば、分配された年度予算の残額は来年度予算に繰越とはならず、外務省が投資運用が可能な費用となる。    
日本の年度予算総額が平成期の頃よりも下がっている理由が、各省庁や与党が財テクを行っているからだ。各省庁に投資に明るい人材が居ると、官僚達も個人資産を投資に投じるようになってゆく。好景気と高金利に湧く日本の状況がプラスに作用して、投資と貯蓄で自己資産を増やす方向に向けられると、株式市場も活性化を帯びてゆく。国が投資を推奨するのは、失敗しても構わない金額の枠内ですべきとしているので、賭けに近い投資にはならない。            

日本の証券会社は明治期からギャンブル的な株購入を勧めてきたので、日本国内では株購入がギャンブル扱いされてきた。ニワカ成金が一夜にして路頭に迷う惨状と、ニワカ成金には成れない庶民が溜飲を下げる構図が国内の至る所で散見された。            
プルシアンブルー銀行やパシフィック銀行、ベネズエラのレッドスター銀行が主要金融機関となると、好調な金融市場の牽引役でもあるので、手堅い株や投資信託商品ばかりを定期預金と共に紹介するようになる。一般市民が投資で失敗しない商品を提供しながら、年率5〜7%で金融資産を確実に増やし、5年で1.5倍 10年で2倍と成果を体験させると、後は学習効果と自己責任で、更に資産を増やしてゆくようになる。        
社会党政権の日本政府は、アメリカと中国の失敗を傍で見続けていたので、半官半民のプルシアンブルー社の製造部門で戦略商品を開発させて、日本の製造業の成長を促した。                    アメリカがIT大国として成功しなながら、製造を海外に委ねてサービス業と金融で国内株価を引き上げた。
グローバル戦略が好走し、世界が安定している時はいいのだが、あらゆる産品を輸入に頼ると世界的なインフレ局面を迎えると、輸入品の価格が高騰する。
一方の中国は製造大国になりながらも汎用品が大半を占めるので、物資は潤沢だが技術の国際競争力は低下してゆく。また、共産党が主導する計画経済政策下で金融機関が国際基準に至たずに歪んだ成長をしていた。マンション販売などを生業とする不動産業者に癒着して、不動産バブルで資金を得る、脆弱な機関だった。
平成期までの日本は、このアメリカと中国の悪い面、「製造業の凋落」と「先端技術の無さと弱い金融機関」を併せ持っていた為に、事実上のマイナス成長を30年間も続けていた。
社会党政権になってからは、半官半民の企業と金融機関を立ち上げて、政策とリンクさせて市場を牽引する事で成長路線に転じてゆく。つまり、従来からある企業や金融商品には、投資しないようにガイドし、誘導していた。市民を投資で失敗させる訳には行かない。マイナス成長路線を続ける低迷した経済環境下で、企業業績の芳しく無い低迷株式市場と、国債乱発で借金大国を生み出し、トドメの債券安の状況で国民に投資を勧める首相が居たが、今の日本の現状から見れば、国のリーダーがオオカミ少年か、ホラ吹き男爵の類でしか無かった。笑うに笑えない、日本は、極めてお粗末な国家だったのだ。
ーーー                     中南米諸国連合は更に狡猾だった。連合内での原料、食料、工業製品等の物資の輸入、相互供給はあっても、アフリカ連合と日本連合以外からの輸入品は皆無だった。
輸出超過の状況が続くのも、中南米諸国の製品を各国が求めるからで、輸出入のバランスは取れずとも、世界中が許容していた。       
火星と月面で採掘される資源を、国内の資源価格で算定して、採掘量に応じた金額を世界銀行にプールし続けている。実際の採掘量とプールしている総額の相違を誰も指摘出来ないという実態はここでは触れずに先に進む。

中南米諸国名義を勝手に作って、世界銀行に一方的に貯蓄している費用は、中南米の各国が支払う国連の委託金や、中南米諸国が各国に投資する費用の財源として使われるようになった。今回の東アジア向けの投資、30兆円もこの口座から提供される。北米からの1200万を超える避難民支援の費用も、ここから捻出される。言わば体外的な費用の財源として使われている。中南米各国に投資指南役を請け負う、レッドスター銀行が支店を構えて、日本企業、台湾企業、ベネズエラをはじめとする中南米企業株等の金融商品と高金利の定期預金を紹介して各国の予算財源として貢献しているが、中南米諸国として別個の独立した財源を持った格好となっている。国連の委託金のように返す必要のないものは帰って来ないが、投資を行った成果が利益として生じると、それは各企業の利益となる。連合が投資した金で、企業が利益を得るので、利益を蒙る企業は国の資本の入った企業が望ましい、となる。  
また、国連事務総長が交代したので、国家で政権交代が起きたのと同じ状態となる。北米からの1200万を超える避難民は「難民」だったとウィーンの難民高等弁務官事務所が当初の裁定を覆し、国連から難民認定した費用をごっそりと受取る。また、キプロス島へ軍を派兵した後で国連軍に転じたので、これも派遣費用全額を国連が負担してくれる。カナダのアルバータやケベックの3州へ派遣した部隊も国連軍に転じると、費用が全額返却される。    
難民認定費用は、主に難民受け入れを担当した国の国庫に分配されるが、軍事費は中南米軍に返却される。つまり、支出元と返却先の金庫が別になるので、受け取る側には全額が純益としてカウントされる。各国の財務省が予算編成する際には非常に助かる指標として記録される。      

国連の組織の一つである難民高等弁務官事務所が難民認定の裁定を下したので、アメリカとカナダの株式市場が暴落する。1200万人もの「難民」を生み出した国家として国のランクが下がり、投資に値しない国家であると確定したからだ。    
メキシコとの国境を閉ざした状態での難民認定となるのに加えて、カナダ3州の国連軍認定がほぼ確定し、カナダの分離の可能性が高まったとして、アメリカとカナダをIMFの監視下に置くべきだと言う意見が大勢を占めるようになる。正に政権交代のような衝撃だ。    

登別温泉でのG7外相会議に参加している米国国務長官とカナダの外相は、日本の外相に土下座して首相との東京での面談を要請する。
「日本政府が扱う範疇ではないですよね?」と里子外相が真顔で言うのだが、それでも食い下がってくるので、仕方なく会議終了後に都内へ連れてゆく事になった。
北海道とは言え 日本に居るのだから、政府も拒むわけにもいかない。 
渋々面会を了解した阪本首相は、事前に両国の外相訪問団と両国の大使に対して通達する。        両国はあくまでもG7外相会議に出席するために開催国である我が国にやって来られた。首相である私に面談を求められたのは、両外相の表敬訪問の為であって、それ以上でもそれ以下でもない、と。

(つづく)

 


2022年メキシコ国境(1)


その2


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