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(4) 続、流通革命と、 何故か選挙の因果関係 (2023.11改)

木曜の朝、終盤を迎えたトマトとナスの収穫をして、ピーマンと唐辛子をプランターに移植していた。ピーマンと唐辛子、シシトウなども同族だが、彼らは多年草なので越冬さえ上手く行けば来年も、栽培・収穫が期待できる。

「おはようございます」と屈んだ背中越しに聞こえたので振り返ると、翔子の母・由紀子さんだった。髪を下ろすと更に60代とは思えない。翔子の姉、啓子さんの妹で通用するのでは?と、何故か胸がときめいた。

「来年用に取り分けたのですか?」
プランターの植替えを見ておっしゃる。唐辛子とトマトの苗は一般の方は見分けが付かない。移植しているから分かったのかもしれないが。

「ええ、そうです。ちょっと早いですが、早めにやっておかねばならないので」

「あの、先生にご相談なのですが、私も翔子と玲子と暫く一緒に居ても構わないでしょうか?」

「勿論です。僕は10日から月末まで海外でお構い出来ませんが、ゆっくりお過ごし下さい」

「それで啓子とも相談したのですが、由真を東南アジアへ、真麻を北米へ同行できないでしょうか。由真は旧華族の家におりましたので、王族の方々の前でも失礼はないでしょうし、真麻はソロキャンプを趣味というよりもテントを住処の様にしておりまして、先生のお役に立てるのではないかと思ったのです」

「そうですか・・お二人と今夜にでも話してみます」

「2人共、翔子同様に料理も出来ますし、先生の晩酌の相手も出来ます。どうかご検討お願い致します」

「まぁ分かりました。・・あ、これを台所まで持っていって頂いてもいいですか。朝食に使われると思うので」
トマトとナス、ピーマンの入った袋を差し出すと、笑顔で受け取り頭を下げて家に戻っていった。鮎も化け物だと思っていたが、上には上が居ると認めざるを得ないなと由紀子の後ろ姿を暫く見送った。
朝にそんな出来事があると、不思議と尾を引いてしまう。信号停車の度に2ボックスカーの後席にいる母親と娘をヘルメット越しに視野に入れていた。

オフィスに着くと由紀子さんもモリの事務所のあるフロアまで何故か付いてきて、一緒に部屋に入ろうとする。不思議に思いながらも声を掛ける。

「この部屋が僕の事務所です」
「はい、それでは」と言ってスタスタと部屋を歩いて衣装タンスを開けて、「どのスーツになさいますか?」というので理解した。着替えを手伝うつもりで付いて来たのだ・・

「では、ネイビーのスーツでお願いします」というと「かしこまりました」と言って、スーツを衣装ダンスの外に一旦出して、白いシャツとドットプリントのタイ、そして黒革のベルトと靴を選んで並べた。
「旦那様、本日はこちらのお召し物で宜しいでしょうか?」旦那様と言われて面食らったが、何とか返事を返す。その時廊下をダダダと走る音が聞こえて、救世主がノックして部屋に入ってきた。「おかあさん!」と翔子がムッとした顔で母を睨みつけるのだが、由紀子はキョトンとした顔をしている。
「先生、すみません。父には長い間こうしていたので、同じ振舞いをしてしまいました。きつく申し付けておきます。さ、母さん、行くよ」

何となく理解する。
源家は大きな家で、漁師の家でも網元だったのだろう。旦那様と呼んでいたご主人は船には乗らず、想像だが加工品製造・販売などを行い、日頃はスーツを纏っていた。即座にコーディネートしてみせたので、ご主人は洒落者だったのかもしれない。明日の朝もお願いしようと思いながら、着替え始めた。

着替えて一階までエレベーターで降りると、由紀子さんと翔子が母娘でロビーに居た。
どうしたんだろう?と思っていると、
「行ってらっしゃいませ」と由紀子さんが頭を下げて、呆けて見ている翔子の腰をバシッと叩いて、一緒に頭を下げさせた。
笑うしかなかった。ご主人に毎朝やっていたのかもしれない。

「行ってまいります。お見送りは明日からは結構ですが、着替えはお手伝いいただけないでしょうか?」由紀子さんの目を見ながら言うと、嬉しそうに頷いた。娘には「ほら、ご覧なさい」みたいな顔をしていた。

ほっこりした気分で都庁に向かう、そんな一日が始まった。

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弱い野党が生み出したとも言える、有象無象の集団に過ぎない派閥を、与党議員は自由気ままに乱立させた。今まではそれでも機能した。たとえ、どんぐりの背比べであっても、野党が万年野党のポジションに安住し、民衆の支持を得られないままなので与党はやりたい放題だった。

今までの総裁選と、総裁決定後の首相の組閣は寄合い除隊に過ぎない派閥間の数少ない勢力の誇示の場となり、国際基準で見れば極めて低レベルの駆け引きや打算が絶えず行われる。
メディアがそのどうでもいい内幕をさも重要なもののように伝えてきた歴史もある。一応はこの場で一国の主が決まるからなのだろうが、派閥が送り込む大臣、副大臣のレベルは経年劣化し続けており、自滅・自爆して辞職してゆく傾向にある。派閥の長は責任は負わず、任命権者の首相の責任となる。大臣任命前に身体検査を事前にしていないのか?と良く言われるが、与党議員全員をチェックした方が良い。何らかの不正に関わっているのは間違いない。
何れにせよ、弱い野党と、利権に群がる幼稚な与党がこの国の政治を劣化させ、中進国入りまっしぐら、G7最下位成長率の国家を作り上げた。

年内の数件の主要な知事市長選の予測では現職が全て敗れ、既成政党が擁立する候補者ではなく、金森陣営の学者候補者が勝つとどのメディアも伝えている。
特に岡山知事選、栃木知事選は2箇所とも与党地盤でありながら、現職が新人候補に大差で負ける選挙予測となっている。
既存の与野党から見ると天敵のような金森陣営と、一部の与党の派閥がタッグを組む図式は与党には誰が見ても禁じ手だ。選挙地の地方行政を見捨てて、選挙後の与党基盤の弱体化を容認したようなものだ。しかし、全ての派閥が金森知事とモリに協業の打診をした時点で、与党内部の大矛盾となり、与党内で問題や亀裂を抱えてしまう。

総裁選で勝つためには手段を選ばず、各派閥が横並びで場当たり的な対応に出て、結果的に一つの派閥が金森陣営と接点をも持ってしまった。流れは一気に傾き始めていた。

独自色や斬新な発想など皆無で、対米服従の成れの果てが今の日本を作っていると全く気付いていない古参のロートル議員の集合体を「与党の派閥」と言う。
仮に、石場・梅下連合に「投票します」と伝えてー票そのものは喜ばれても、ロートル議員が新政権下で優遇され、役職を得る訳でもない。彼らは派閥の方針に従い、迎合する以外の術を持ちあわせておらず、単独・単騎でも能力を発揮出来るロートル議員は居ない。己の居場所は所属派閥しかないので、彼らが派閥のベース票となる。

昨夜から騒動になっている総裁選であっても、ロートル議員が沈黙し続けるのに対して、多少は世間の情勢を理解して右往左往する日和見主義者たちが今回の総裁選では主役となる。 
石場・梅下陣営が結託すると、総裁選で対立していた各派閥の幹部達が突然弱者間で協力体制の可能性を探り合い始める。与党に於ける派閥は古参議員の寄り所でしかなく、実態は極めて脆いものでしか無かった。
各派閥に跋扈する日和見主義者たちは派閥の方針に従わず、明るい未来を手にした石場・梅下連合に投票しようと密かに決意し、石場派へ自分の票を投じる表明を伝えて、新体制下での己のスタンスを少しでも良いものにしようと画策していた。

総裁候補を送り出した派閥は、届け出た総理総裁候補者の推薦人が、明日の投票で離反しないかと確認に追われていた。
与党総裁選は「誰がどの候補者に投票したのか」分からない。派閥幹部や総裁選候補者には投票終了後に「離脱者数」が分かっても、誰が離脱したのか分からない。少数の離脱者ならば特定も出来るだろうが、「僕も、私も」と集団で赤信号を渡られると車両が通行止めを食らうように、「派閥は全く機能しなかった」と項垂れるしかない。

派閥を越境して増える一方の日和見主義者からの連絡が、石場・梅下陣営を活気付けていた。
その活気が党内にも伝わり、離脱者が一人、また一人と増えてゆく。
異例の総裁選となっているのは取材している担当記者達にも伝わる。
すると、離脱者が多いと囁かれる派閥の幹部達の顔は険しくなり、洩らす言葉には焦りや諦めの言葉が含まれてゆく。

明日の総裁選の結果次第で、与党内の勢力図が大きく変わるだろう。

ーーーー

与党総裁選に影響を与えている人物が早い時間に都庁入りすると知られており、記者たちが正面で取材しようと張っていた。都庁の守衛さんが道を確保してくれたので感謝しながら進んでゆく。

「総裁選について一言ください!」と記者の皆さんが口々に言うので、
「私が関心があるのは、最近の3件の襲撃事件の黒幕が誰なのか?という一点だけです。犯行を指示した真犯人をいつまでも隠蔽し、逃げ続ける与党には何の期待もしていません」 立ち止まってそう言って、一礼してから歩きだした。

「誰が首相になるのか?」世間の関心はそちらに集中している。一方で総裁候補者の一人を除いて、党を退いた前首相、前官房長官、前幹事長を切り捨ててしまう。
モリの関心が事件の真犯人究明にあると聞くと、明日の最後の演説では梅下氏への銃撃事件だけでなく、記者襲撃、モリ襲撃に関しても
「犯行を指示した人物が党内に居たし、今でも居ると噂されている中で、党としても究明してゆく」と演説用の原稿に追加されてゆく。

後に増税メガネと呼ばれる可能性を秘めていた外相が総裁となって、支持率低迷に直面して右往左往する様を、日本人が見る機会もないまま、外相は表舞台から消えていった。

ーーーー

昨日アジア主要都市と栃木宇都宮市と岡山市で、新たなスーパーとネットスーパーが営業を始めていた。
シンガポール・クアラルンプール・バンコク・香港・台北でオープンしたPB Martでは、日本製品が日本の店舗と全く同じ価格で提供され、日本から進出していたスーパーが閑古鳥状態になったという。
最も話題となったのが鮮魚コーナーの寿司だった。回転寿司などで導入されているロボットが寿司を握るのだが、パック売りされた寿司が異常に美味いと評判になる。
寿司職人の握りをAIに学ばせ、ロボットの両手で職人の技を再現できるようにしたからだ。鮮魚コーナーにはチルド、冷凍で運ばれた岡山漁連と茨城漁連、富山漁連の魚が店頭に並び寿司ネタにも使われている。シャリはタイ中央部、ベトナムメコンデルタで収穫されたジャポニカ米「美ら錦」が使われている。
スーパーの寿司と一緒にしてはいけないと口コミで広がってゆく。日本から進出している寿司屋が閑古鳥となってゆく。
ネットスーパーでも寿司の人気は凄かった。「パーティーバレル」という回転寿司のファミリー用の持ち帰りセットと同じものが「宅配寿司」のように買われていった。一戸建てのお宅にはドローンが無人配送するので、巣籠り需要にハマったようだ。

PB Martアジア社、社長の杜​亮磨は、寿司の旨さの理由を台北店に取材に来たメディアに説明してから、
「無人AIが栽培した無料米と、AIロボットが握り、AIナビが装備されている車両かAIドローンが配達しているので人件費が殆ど掛かっておりません。それ故にこの値段でご提供できるのです。プルシアンブルー社では調理可能なロボットと全自動レジを開発していますので、近い将来弁当類もお安く提供でき、費用精算もスムーズになると考えております」と述べた。

亮磨はPB Martを始めて良かったと考えていた。

従来のスーパーチェーン店は店舗間の仕入れ量を基準にして製造会社、卸売会社と仕入れ価格の交渉をする。
PB Martは東南アジア製品を日本の店舗で現地価格で提供し、東南アジアの店舗ではその逆を行う。双方で客数が増えるので販売量が増える。
店舗数で売上増を計らず、ドローンとAI navi搭載車両を使ったネットスーパーによる売上を上げて行く。

交渉の主導権をスーパー側が握る従来型スーパーに対して、集客力のあるPB Martで扱っている商品に参入する為には「質と量」が求められる。従来型が「安価」を追求するあまり商品を購入した消費者が「2度と買わん!」と怒り、ガッカリする事も少なくないが、PB Martはバイヤーが納得した商品しか棚に陳列しない。
バイヤー達が世界主要都市を旅していたCAさん達なので、採用基準が偶々世界標準になっていた。大手スーパーのプライベートブランドの類は、言語道断となる。
質の良いものは価格相応の値付けで販売し、東南アジア製の格安商品も店内には多数あるので消費者の1度あたりの買物は満足したものとなる。

その中に各地で狩猟された鹿肉、イノシシ肉を使った調理品やタイ、ベトナム産の日本米の使われたAI寿司やお弁当が加わる。自然と従来のスーパーには無い店舗となり、「価格と質」を求めて人々が集まってくる。店舗で試した商品はリピートして買われ、ネットスーパーで購入してゆく。店舗数を大幅に削減できるので、同時にコストが掛からない。東南アジアと日本で輸送費用は掛かっても、同じ価格で提供できてしまう。

PB Martに商品を提供する企業は、日本と東南アジア、台湾、香港で売上が伸びる可能性があり、いつの間にか「輸出」した状態となっているかもしれない。
例えば、東南アジア・台湾・香港の店舗の日本のスイーツ売場には岡山の「きびだんご」京都の「阿闍々梨餅」「満々月」日光の「チーズケーキ」が並んでいる。
今後日本の各県のお土産代表菓子が、アジアで大ブレークしているかもしれない。

ーーー

宇都宮・岡山、そして富山・石川・福井のスーパーでも「AI寿司ロボット」が鮮魚コーナーで人気を博していた。

品川区大井ふ頭にあるPB Martのネットスーパー配送センター内にも寿司ロボットを投入して、品川、大田、目黒区内の各家庭にネットスーパー用ドローンによる宅配寿司が届き始めていた。

昼食用にお試しで買った寿司が大森の家に到着し、自宅で授業参加中の玲子と樹里は早速試してみた。「ナニコレ!」と絶賛する。

新宿オフィスと大井ふ頭オフィスの厨房内にもAIロボットが設置され、寿司を握り続けていた。新宿では階下にあるPB Mart新宿店の寿司の販売が好調なので、寿司だけ3階で握って、階下へ並べるようにした。

「カレーライス」「うどん、そば、ラーメン」といった社員食堂の常設メニューに「AI握り寿司」が加わった。
研修というか、パートのように作業している翔子の母と叔母と従妹の2人が昼食に寿司を食べて驚いていた。

「(宮城)気仙沼市の寿司屋よりも美味しい!」と翔子の母が言うと、

「大阪の寿司屋は相手にならない」と翔子の叔母がその後に続いた。宮城、大阪、名古屋にはPB Martは進出していないが、その3地域で居住していた由紀子と啓子の姉妹と啓子の娘の由真と真麻の4人はPB MartとAIのスゴさを実感する。
選挙戦に合わせて展開され、その選挙地域で獣害が駆除され、漁業と農業、林業従事者の利益に繋がるAIソリューションが展開される。
内部に居てそういった諸々が、理解できた。
また、プルシアンブルー社の事実上のオーナーがモリなのだと知ってしまうと、翔子と玲子の母娘がモリに夢中になるのも当然だと理解する。

中小企業診断士、社会労務士として従事している妹の啓子はPB Martを絶賛し始める。
娘2人が就業するには最良の企業だといい。PB Mart社長の里子に、士業である自分と契約させて欲しいと懇願するようになる。
食品会社の開発部門に居た翔子が食品部門を統括する長となっているので、姉の由紀子も鼻高々だった。
啓子の娘の由真と真麻は、叔母の翔子、姪の玲子がモリに陶酔している理由を悟った。
翔子と玲子の母娘だけでは無く、女性社員全員が何らかの淡い感情を抱いていた。

いや、この数日間で姉妹も毒されていたのかもしれない。

(つづく)


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