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(6)真の地方創生とは vol.2 (2023.10改)

東京から「新幹線なすの」で1時間、宇都宮駅に到着する。栃木県庁のある駅の西側へ出ると岡山駅でも感じたが「県庁所在地の駅か?」と悩む。消費者金融と不動産会社、そして家電・カメラ量販店の店舗が目立つのは日本全国どこでも一緒だが、何とかならないものかと考えてしまう。
県庁は駅から少々離れているので先に不動産会社に入り、山下智恵副社長配下の資産チームが選定してくれた2つのビルを見せてもらう。

モリが駅前を見てガッカリした様に、視察チームも思い悩む立地の場合はモリに決めさせようと智恵が言ったらしい。駅前の再開発事業といった大逸れた話ではないのは当然なのだが、
「この駅でミニスーパーを出店する必要があるか?」
「政党だけで、プルシアンブルー社の支店までは要らないのではないか?」といったジャッジをしろと言う話だろう。
スーパーを展開しないのなら、今回は茨城港となるが、「流通用の倉庫は今は不要」となる。

しかし杞憂で済んだ。駅前から繁華街の外れにあるもう一つのビルを見て、これなら大丈夫と確信した。ビルの中を見てもイメージ以上のものだった。
来月から県知事選と市長選があるので宇都宮に相応の拠点が必要になる。
不動産会社の次は栃木県と宇都宮の商工会議所の幹部さん達との会合に参加する。茨城港の穀物倉庫に小麦を搬入次第、供給を始めたいと告げると喜んでいただける。餃子の皮が頭に浮かんだが、色々あるのだろう。

モリは会談後、北茨城漁港の新鮮な魚をドローンで片道40km運び、適合する場所を市内の繁華街を歩きながら探していた。栃木は著名な首相を排出してきた保守王国なので、ブチ壊す意欲を前面に掲げて暴れ回るつもりでいた。

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岡山県内の商工会議所に属する飲食店や製麺所、パン屋さんに安価な小麦が供給されると県内の店舗の商品価格や食品価格が7月の値上げ前以上に下がった。全国型のスーパーやチェーン店は値下げ対応が出来ないので、県民の買い物や飲食の流れが「地元資本の店、企業」に転じた。

モリが狙っていたのは岡山だけでなく、対岸の讃岐うどんも視野に入れていた。
安価な価格で住民たちの重要な食となっているうどん店や製麺所が少なからず反応するに違いないと想像していた。
讃岐うどんの独特の強いコシはオージー産のオーストラリア・スタンダード・ホワイト(ASW)という小麦が生み出しているのを、香川を何度も訪れ、讃岐うどんを愛するモリは知っている。
当然ながら「別枠」で仕入れて、新岡山港の倉庫に搬入済みだった。
岡山県内の小麦の噂は瞬時に広まる。世間と異なる小麦を求める香川の製麺所やうどん店は「ASWが新岡山港の倉庫にあるらしい」との情報を入手して色めき立った。

当然ながら岡山県知事達に立候補する、富山県副知事の農学者、岡山大教授の出番だ。
「7月前の小麦価格でいくらでも提供しますよ」との賜れば、御本人の株も上がるしPRにもなる。半ば讃岐の英雄のような扱いを受けながら、香川のローカルメディアのリモート取材に応じてゆく。ついでの一言もしっかり言及する。

「岡山漁連と香川漁連で連携して、瀬戸内の魚の調査をしたいですね。橋で繋がっている県同士なのですから、小麦だけの関係で終わらせたくはありません」とコメントする。

岡山と香川の双方で海の中を可視化した方が効率が良いのは明らかだった。互いの漁協に属する船舶が効率的に魚を水揚げするようになると、当然、瀬戸内周辺県の漁連も動き出す。

その橋渡し役に知事候補者が名乗りを上げる。岡山漁連が導入を決めた新型の魚群探知機にはそれだけの機能があるからだ。

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宇都宮市内のホテルで一晩投宿したモリは、プルシアンブルー社の先発調査隊がコンタクトしていた地元でスーパーを経営している2社に午前と午後の時間を貰い、面談していた。

富山・金沢・福井各市内のスーパーへの資本参加後の効果を事前に聞いていた経営陣は、諸手を挙げてモリの訪問を受け入れる。大手資本の全国型スーパーに押されて、活路を見い出せないのは全国共通の問題なのだと改めて認識する。

北陸で事業を行っている地場のスーパーはプルシアンブルー社の資本が入る前は相互に取引関係のない6社だった。スーパーに生鮮食品を卸しているそれぞれの業者もバッティングしている会社はない。野菜果物の青果部門、精肉部門、水産部門の業者もそれぞれ異なる。

例えば、金沢のスーパーに納入している生鮮食品納入業者に対して、新たに富山と福井のスーパーに納入したら、御社は商品を幾らで卸してもらえますか?と回答を求める。予めお願いしているのは利益を度外視して価格提示しないでほしいという点だ。必要な利益をしっかりと確保いただいた上で、卸値を提示いただく。

これを各県スーパーの青果部門、精肉部門、水産部門の業者にそれぞれ説いて競っていただく。当然ながら敗れた業者にも次年度にお声掛けし、再度競い合っていただく。中には卸業者同士で合併したり、同業者を買収して会社を強化している。卸業者だけでなく、スーパーも資本を入れ合ったり、共同経営体制を組んだりマチマチだが、大手資本に勝つために僅か数カ月で業態を変えていた。
北陸で出来て北関東のスーパーや卸業者に出来ないはずはない。

「その先鞭役にあなた方が相応しいと私達は考えました」とサミアのサインと社長印が押された契約書を見せる。後は御社がサインと押印頂ければ即時に融資額を振り込むと伝える。

地方で数店舗経営のスーパーの資本は数千万円が定番となっている。そこへ各社に1億円投入し、5千万を資本金へ、3店舗なら3千万を店舗改装へ、残りをパートを含む従業員の本年度分の給与の積み上げ費用とする。企業情報と取引先情報で入手していたデータから経営改善案を作成して提示済だ。

生鮮食品仕入れの改革を即座にするのではなく、先ずは巣籠り需要の急増で生産が追いつかず、品薄となっている日本でも販売している東南アジア製造の清涼飲料水、ジュース等の飲料や菓子類と東南アジアの著名ビールメーカーの商品、100円しない日用雑貨品の数々、日本よりも安い使い捨てマスクや除菌用のアルコールボトルにトイレット&クッキングペイパー等々、富山と都内で売上を伸ばしているミニスーパー「PB Mart」の商品で集客して売上を上げる。体力を身に付けた3ヶ月後あたりから、モリを含めたコンサルティング部隊が卸業者に声掛けしてゆく。
まだ9月になったばかりで、特にビールと清涼飲料水は国内価格よりも安く、客寄せパンダとなるのは間違いなかった。

午前と午後で快く仮契約書にサインをいただき、2週間後からのドローンによる物質搬入が始まる。無人のドローンが複数台で日に何度も往復する姿は、宇都宮市内の流通業に関与する全ての方々にインパクトを齎すだろう。

ひと仕事終えたモリは、21時の新幹線の予約をすると宇都宮餃子とビールで祝杯を上げ、個室のある居酒屋さん巡りを時間ギリギリまで愉しんだという。

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岡山と香川で小麦の調達や、漁協関係者の共同作業が全国ニュースとして扱われるのも岡山知事選を睨んだ金森陣営の動きだと解釈されていたのだろう。岡山県内の商業店舗と香川のうどん店が一斉に値下げに踏み切り、消費者が歓迎する様子を報じていた。
首相代理が率いる辞任者続出の内閣の元には岡山県知事から「岡山には特別に小麦価格を下げて欲しい。このままでは10月の選挙で勝てない」とリモートで陳情され、外務省と農水省からは「小麦の統制価格撤廃を米国に至急回答する必要がある」と煽られていた。

9月で学校が再開したが、何も策を講じていなかったのでコロナに感染する学生、児童が増えていた。大臣が辞任に追い込まれ、副大臣から昇格した新米大臣が全く使い物にならず右往左往し、文科省と厚労省が叩かれている最中に米国絡みの話が重なり、首相代理が暴言を吐く環境が整っていた。狡猾な記者は暴言癖のある首相代理の神経を逆なでさせるような質問をし、相手をブチ切れさせようとしていた。 

その一方でラオスとカンボジアの駐日大使が首相官邸を訪問して、日本の援助協力に謝意を伝えに来た。8月末から自衛隊輸送機がタイ中央部、ベトナム南部、ラオス首都近郊、カンボジア南部へ向かい小松基地と台湾で積んだバギーとソーラーパネルを運び込んでいた。
プルシアンブルー子会社のベトナム法人とタイ法人で2カ国をそれぞれが担当して農村部にバギーを提供して遅い田植えをしているのだが、その活動に対する謝意であり、政府はODA(政府開発援助)として承認しただけで何もしていないのだが「良いニュース」が一つもないので仕方なく表舞台に引き上げるしかなかった。

笑顔で両大使を迎えて、会談してグータッチするだけの映像でしかないのに、強引に5分近く報じていた。「プルシアンブルー社のAIのレベルの高さに驚きました」とラオス大使が英語で述べたのだが「某社の自動化技術の賜物だ」とテロップを付ける有様だった。

いちいち見ていないのだろうが、SNS上では政権への罵詈雑言が飛び交い、官房機密費をバラ撒いて御用メディアをケシかけても、政府をヨイショする材料が乏しくナシの礫となっていた。
誰が言い出したのか諸説あるものの、有識者が金森新党待望論に言及すると瞬く間に広がり世論調査のカテゴリーに金森新党という「回答枠」を入れて、調査を始めるメディアも出て来た。「その他」への支持が膨れ上がっていたのと、コロナ絡みの憂鬱なニュースばかりの中で「良い話題」に富山が関与しているケースが多いというのもある。

当の本人である金森知事に富山県庁で尋ねると、「新党ですって?誰がそんなこと言ってるんですか。今は富山をどうするか、私はそれしか考えていません」と実にそっけなかった。全く関心が無いように振る舞っていた。

政府も人気に便乗しようと全国県知事会議などで富山県知事に近づく。

「輸入小麦の扱いを譲るので、全国一律安価に小麦を提供してくれないだろうか?但し、政府の名で供給する形を取って欲しい」と分かりやすい話をするので、速攻で金森知事は断る。 

「小麦の提供はプルシアンブルー社の事業となるので私には関与する権限はありません。ただ、全国へ供給する分量を安価にすると赤字になるので同社は応じないと思いますよ」と応じる。

そこをなんとかして欲しい。田植え・稲刈りの自動化作業と新型の魚群探知機についても首相をカマしてくれないだろうか?と要求がかなり図々しいので、

「その要求の前に、やるべき事があるんじゃないですか?事件の顛末は、早々に明らかにして下さい。息子の殺害を指示したと認め、謝罪の書面を出していただきたい。入院中でも口述筆記もしくはタイプしてサインをする位はできるでしょう。大統領選への影響を考えてるとしか思えないんですけど!」

そう言って金森知事は副官房長官の映像をブチ切った。
当然、一部始終はしっかり記録に撮っていた。

「どうせ明後日の週刊誌でニッチもサッチもいかなくなるのにね」
金森鮎は思わず笑った。

ーーーー

翌朝3日ぶりに新宿オフィスに出社し、仮契約書を階下の総務部に提出する。この2日間、モリに取ってはタダ働きとなったが、充実感はあった。岡山に続いて新知事誕生の基盤が整ったのだから。

役員用のフリースペースで副社長の山下智恵が手招きしているので近寄ってゆく。

「おはよう、どした? 栃木なら終わらせてきたよ」

「それは大変ご苦労さまでした。あなたにとっては物凄く簡単な仕事なんでしょうねぇ・・」 
智恵の影がいつもより濃い感じがする。

「なんかあったの?」

「穀物メジャーが穀物の日本での販売権を譲渡したいって言ってるんだけど、アナタなんかした?」

「穀物メジャーって、どの国? まさかカー()ギルとか?」

「そう。それと子会社のコンチネンタル()グレインの2本立て。栃木のスーパー2社なんてレベルじゃないわよ。いつからウチは商社になっちゃったのよ?」

「まぁ待て、落ち着くんだ。それでその話、どっから来たんだ?」

「その2社からレターがサミア宛に届いた。
サミアはアナタがなんかしたに違いないって、レターも開封せずに放棄して、私にお鉢が回って来た。で、あなたに報告しないで待ち構えていた。今日の午後の面会に参加するようにね。ヒルトントンで11:30からよ、宜しくね」

「え?」
慌ててレターを読み始める。一体何が起きてるんだと思いながらも、問い合わせ先は一つしか思い浮かばなかった。

アメリカ駐日大使の悪友、CIA極東幹部サミュエル・アンガス殿だ。

(つづく)


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