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苦みも工夫で幸せに

「香港レモンティー」をご存じだろうか?濃く苦み走った紅茶にレモンを投入し、ありったけの砂糖を溶け込ませた飲み物だ。癖になる不思議な味を楽しんでいると、苦みも工夫次第で幸せになると感じずにはいられなかった。というわけで今回は「苦みも工夫で幸せに」。

 苦みを幸せに変えてしまったものはなんだろう?香港レモンティーと同じく飲料で考えてみるに、他にも二つ思い浮かぶ。

 一つ目はベトナムコーヒー。濃く苦い黒いコーヒーに、それこそ気が狂った量の白い練乳を加えることで、甘いコクと苦みは見事に溶け合いカフェイン中毒へと至らずにはいられない。

 二つ目はビアフロート。濃く苦い黒いビールに、白いアイスクリームをぷかぷか浮かべるシュールさだ。ホップの苦みとバニラの香りとミルクの甘みが絶妙にマッチし、アルコール中毒へと誘われる。

 といった風に、飲料の世界では日常茶飯事だけれども、人生においても濃く苦く黒い状況も、工夫一つで魅惑に変わる。

 例えば自分はかつて、高松のとあるコワーキングスペースにて、鋭利なカッターで小指を見事に切ってしまったことがある。切った瞬間、(心臓よりも高い位置に指を上げないと!)と思い出し天高く指を掲げたところ、血が会場中に飛び散って凄惨な光景に。

 偶然にも看護プロの御方が居合わせたので応急処置をしていただき、病院に運ばれ縫うことになったのだけれども、痛み止めが全く効かず夜通し眠れなかった。後日、縫い方が甘くてやり直したというオチもある。

 ただ、これは思わぬ効果も生んだ。既に二年が経過した今も、あの場に居合わせた皆様が自分のことを覚え続けてくれている。つい先日、当時の関係者に別件でメッセージを送ったところこんなお返事が届いた。

 昨日、母が指を切ったんです。その時に「会場で指から血しぶき飛ばした人がいてね〜」と、 中本さんのことを母に話した次の日、中本さんから連絡をいただいて驚きました!と。

 当時はただ辛く悲しく痛いだけの怪我。そこに時間が組み合わさることで、相手の記憶から中々消えない存在へと進化を果たせた。

 辛いことも、悲しいことも、単体で見れば確かに落ち込まざるを得ない。けれども濃く苦い紅茶やコーヒーやビールのように、工夫次第で幸せの種にもなる。人生の無情さに負けそうな時には、闇に飲み込まれそうな時には、どうぞ香港レモンティーを。

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