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「旅する土鍋2018」マルケ編 ①列車の中のサンドイッチ

七人の女サムライ

イタリアの包丁はなんとも切れない。
「ねえ、さわこ~」とキッチンに入ったら、料理人さわこ氏が2本の包丁をカキーンカキーンといい音を立てて擦り叩いていた。
その姿に、オヌシ!と言ってしまったほど彼女はサムライだった。

B&Bラ・シェンテッラのオーナーであるロベルト フェレッティ氏が昨年から企画してくださっている「旅する土鍋」のマルケ版。去年のイベントに続き、今年は参加者がもっと増えるということで、ツワモノを呼ぶことに決めた。

冒頭の写真が、六人の女侍であることが残念(カメラマン鴇沢あすか氏は撮影者)だが、われらはマルケ州のイベントで力を合わせた七人のサムライ。


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今回のツワモノは、友人である料理研究家ほりえさわこ氏。料理家3代目の彼女。毎日しごとで料理をし、毎日大家族のごはんをつくり、大勢でごはんを食べる。103歳になるおじいちゃまは「食事のおかげだ」とおっしゃっていた。何より気前がいい彼女は、まさしくサムライ料理人。

ロベルト氏と企画を立ててくださったオリーブオイルサムライ、撮影を名乗り出てくださったサムライカメラマン、その他のサムライたちも、企画に合わせて渡伊してくださった。(サムライの功績と旅する土鍋イベントについては別途)

列車の中のサンドイッチとサムライ

イベントは大成功に終わり、わたしたちは、ちょっとだけサムライ魂を自信と勇気にかえてそれぞれが持ち帰った。

イタリアに残るわたしは、さわこサムライを送りがてら、海岸線に沿って走る列車に一緒に乗った。イタリアらしくない三角形の、やる気のないクリームチーズときゅうりのサンドウィッチを持って。

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朝の田舎町のバールで、カプチーノを入れながらムスメらしき女の子が「きょうはマンマの誕生日なのよ」と、客に話し終わらないうちに、店内のみんなが「アウグーリ(おめでとう)!」とクラッカーを鳴らすように叫んだ。ご多分にもれずわたしも声をはりあげていた。みんな声が大きいから、話聞いているのよね。

そんな大騒ぎを聞いて、奥の冷蔵庫からサンドイッチを持って、ひとむかし前のヘアスタイルと古めかしいメークの、その娘の母親と思わしき女性が照れながら、これまた古めかしいガラス玉の暖簾をじゃらじゃらとくぐって出てきた。


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列車の中で、やる気のなさそうな三角のサンドウィッチのラップをむきながら「これさ、あのマンマの手づくりサンドイッチなんだよね」と話しながら、カプッとひとくち。

海をなぞる乾いた風がセンチメンタルに追い打ちをかけ、ふにゃふにゃに湿ったサンドイッチで泣きそうになった。哀しいのではない。むしろ幸せな味だった。

「こういうことなんだよね、料理って」と、サムライ同士はうなずきあって、さようならをした。

ヘッダー写真:ASUKA TOKIZAWA
その他写真:tamamiazuma.com

▶︎「旅する土鍋」(2018現在)は6年目。郷土料理とその背景を教えてもらい土鍋に盛り込むという取材から、お礼に日本の家庭料理を土鍋でつくるという文化トレーディングのようなことをしている。▶︎ただおいしいものをいただきに土鍋を抱えていくという一方的な体制では、その場かぎりに終わる。互いが刀を抜きあい、輝かしあって、土鍋からうわぉ!と生まれるものがなければ。アートから生まれるおいしいとは?料理とは?答えのないアートの旅をつづけていきたい。

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