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谷郁雄の詩のノート18

この木の看板は、よく散歩する高円寺の人通りの少ない一角で見つけました。どうやら、ここにある小さなビルの2階に本屋さんが営業しているみたいです。この日は急いでいたので、本屋さんには寄らずに、路上のかわいらしい看板だけ撮影してその場を去りました。近いうちにお店に入ってどんな本が並んでいるのか、見てみたいと思っています。蟹に関する本のコレクションでもあるのでしょうか? さて、新しい年が始まりました。今年もマイペースで更新していきますので、気軽にお立ち寄りください。目立つ看板もありませんが。(最新詩集「詩を読みたくなる日」絶賛発売中)


「スプーン」

知らない
他人と一緒に
一人で黙して
コーヒーを飲む

心の中の
あふれる思いを
小さなスプーンで
かき混ぜながら

こんなにも
たしかに
今日があるのに
明日には
すべての細部が
曖昧になる

スプーン一杯分の
喜びと
悲しみさえも


「雑種」

いまも
心の中にいて
何かの拍子に
思い出す

子どもの頃
家で
飼っていた
犬たちのこと

お金のない
我が家に
ふさわしく
どの犬も
よそから
もらってきた
雑種ばかり

犬たちは
ぼくらの
食べ残した
日々の残飯を食べて
けなげに生きた
吠えたり
しっぽをふったり
臭い息を吐き出したりして

幸せな一生では
なかったかもしれない
それでもしっぽをふることは
忘れなかった

ぼくもまた
雑種の子どもだった
血統書も
学歴もない
父と母の間に生を受けて

©Ikuo  Tani  2023


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