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たてよこのあれこれ #02

とにかく天気が悪い。
お店を営業していて丸一日晴れたことはほとんどなく、1日のうちどこかしらで雨や雪が降る。
東京と新潟を往復しているので、東京にいるときは「この素晴らしい快晴は日本海側(山脈)のおかげなんだよな〜」と思い、逆に新潟にいるときは「こちら側のおかげで今ごろ東京は気持ち良い天気なんだろうな」と思うようになった。


以前、お店近くの小学校(店主の母校でもある)で授業をする機会があった。4年生に向けて、雁木通りのこれからについてお話しするという内容だった。その数日前には雁木通りの歴史に詳しい方が授業をし、後日僕が未来についてお話しするという一連の流れだったようだ。

そこで授業を聞いてくれていた児童が、頻繁にお店に来てくれるようになった。彼ら彼女らは毎日、登下校でお店の前を通る。登校の時間帯は僕は余裕で寝ているのだが、下校の時間はお店の営業中で店内にいることが多い。
児童たちは僕を見つけると、扉の向こうから手を振ってくれる。道路を挟んで反対側から「たてよこだーー」と叫ぶこともある。
扉を開けて「おかえり」と声をかけると「あとで宿題を持って遊びに来まーす」と返ってくるのがいつものことだ。

普段は少しお話ししたり、宿題に取り組んでいるのを見守ったり、お菓子を交換したりしているのだが、先日は僕がお店の看板を作っていたこともあり、最後の塗装の部分を手伝ってもらった。看板となる板にお店のロゴを切り抜いた紙を貼り付け、その上からスプレーで塗装する。

シューーっとスプレーを吹きつけ、紙を剥がすと綺麗にお店のロゴが浮かび上がってくる、、、はずだった。「わーーきれいーーー」となる光景を想像していたが、実際は少しロゴが細かかったこともあってぼやけてしまった。その場では「あーーこれやり直しかな」と話をして解散したのだが、ボーーっと眺めていると、何だかこれはこれでいい気がしてきた。
黒い板に銀色のスプレー、少しかすれてぼやけているが全く読み取れないというわけでもない塗装具合、あふれでる未完成感。
まだ駆け出しで何だかはっきりしないお店の状態にピッタリだった。

とある日、「働けるようになったらたてよこ書店でアルバイトするんだ」
1人の小学生がそう言った。
「私も!」
もう1人も言葉を重ねた。
仮に冗談だとしても、「働く」ということがリアルに考えられていないからだとしてもすごく嬉しい言葉だった。
彼女たちは学校で使っている筆箱やクリアファイルなどにお店のステッカーを貼って、たくさんの友達に宣伝してくれている。もう君たちは内定だよ。むしろ僕がちゃんと雇えるように頑張ろう。そう思った。

授業を聞いてくれていた女の子とそのお母さんがお店に来てくれたこともあった。節分ということで落花生をいただいた。彼女は恥ずかしがっていた様子だったが、お礼にショップカードとステッカーを渡すと、笑顔で「ありがとう」と言った。

お店をやっていて嬉しいのは誰かの記憶に残っていることだ。敢えて目立たせるように置いた本や自分のチョイスで仕入れた新刊書籍が売れたときもブックカバーが売れたときも、もちろん嬉しいが、お店のことがどこか記憶に残っていて、ふらっと寄ってくれたり、差し入れを持ってきてくれたり、「ずっと来たいと思ってたんです」/「また来ちゃいました」と言ってくれたり。
誰かの記憶の片隅に何となく残っていて、ふとした瞬間に「あ、行こう」と思えて、いろんな人の日常を彩るひとつの要素になれることほど嬉しいことはないんじゃないかなと思っている。

お客さんの中で”たてよこ書店に行く”ということが日常の一部になったらいいなと願って、今日もお店を整える。

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