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シン・映画日記『母の聖戦』

YEBISU GARDEN CINEMAにてルーマニア、ベルギー、メキシコ合作のメキシコ映画『母の聖戦』を見てきた。

現代メキシコの地元マフィア絡みの誘拐事件を、娘を誘拐された母親目線で描いた犯罪映画。
コンビニもデカい商業施設・ビルがなく(トルティーヤが美味そうな飲食店とスーパーはある)、街灯すら少ない薄ら暗いメキシコ北西部の田舎町のリアルな日常なんだけど、とにかくヤバいことや不幸の連続でラストまでヒリヒリする!

メキシコ北西部の田舎町に娘ラウラと二人で暮らすシングルマザーのシエロは、ある日、町中で二人組の男性に会い、いきなりラウラを誘拐したことを告げられ、男性達から身代金として20万ペソと車1台を要求される。娘を取り戻したいために別居中の夫グスタボに協力を頼み、お金を工面するが、誘拐犯からはさらなる要求をされ、シエロは町の顔役のキケや警察に捜査を頼もうとするが、誰からも頼みを受け入れてもらえない。

この話、色々闇が深い。まず、町の警察がお役所的、且つまるで話を聞いてくれないポンコツぶりで、娘の捜査と誘拐犯探しを素人のシエロが一人で近所の店や葬儀場を回ったり、張り込んだりして怪しい人を見つけていく。
この捜査スタイルは随所で出てきて、基本的には最後まで変わらず、母の娘に対する執念を見せる。
その執念は韓国映画『母なる証明』のキム・ヘジャが演じた母親に近いが、
冤罪晴らしだった『母なる証明』に対して、『母の聖戦』はメキシコで頻繁に起こる家族の失踪・誘拐事件にスポットを当てている。
シエロ以外にも子供が行方不明・誘拐されたという親が出てくるが、だいたいは諦めムード。
そこの所をシエロは藁にすがる思いで探す。

その藁にすがった先が町に派遣された軍のパトロール隊で、中盤から後半はこのパトロール隊とシエロでの捜査になるが、ラマルケ中尉を中心としたパトロール隊らは軍人とあって、容疑者の逮捕・拘留・尋問が容赦ない。

誘拐事件そのものは現代メキシコ版『天国と地獄』、
母シエロの藁にもすがる執念の捜査はメキシコ版『母なる証明』ときて、
シエロ&メキシコ軍たちと容疑者の攻防は『ゼロ・ダーク・サーティ』並の激しさがあり、
この全てを足して、カラフルながら粗末な建物・戸建てが列んで街灯が少ない田舎町の日常をたっぷりと染み込ませている。

序盤に出る誘拐犯コンビに始まり、
20代前後のギャルをリーダーとした犯罪組織など
ほとんどが拳銃、ライフル、機関銃を持つ。
また、前半は登場したある人物が事件に関わったり、誘拐されたラウラの彼氏もあるトラブルに巻き込まれたりしている。
この映画の原題は「LA CIVIL」(市民)。
被害者も加害者も、さらには事件を捜査しているのも基本的には田舎町に住む人々(=市民)という所に闇の深さがある。
さらに、シエロの家の中の様子やトルティーヤ店、雑貨屋、スーパー、警察、葬儀屋など田舎町の日常を自然光や街灯、室内灯のみを極力使う形で映す。
ここに共同製作がダルデンヌ兄弟だったり、クリスティアン・ムンジウだったりするリアリズムなドキュメンタリー・タッチが受け継がれている。

日本のヤクザ映画や香港・韓国ノワールのようなプロのヤクザ、マフィアではなく、
ブラジル映画『シティ・オブ・ゴッド』や『シティ・オブ・メン』に近い。
町に住む素人の一般人、少年らが銃を持ち、襲い、誘拐等の犯罪を犯す恐怖。
これに対する娘の生を切に願う母親の執念に
町の街灯や自宅の室内の蝋燭の炎のような一光。
これを最後まで見せてくれた。

先日見たインド映画『エンドロールのつづき』もインド・グジャラート州の地元臭が凄かったが、
『母の聖戦』のメキシコ北西部の薄暗く荒涼とした田舎町の土着臭もまた凄まじかった!

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