山本テオ

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山本テオ

絵を描いたり、言葉を書いたり、旅したりしています。 teoyamamoto.com 旅文通マガジン『私たちの私の旅の私たち』をはじめました。

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  • 私たちの私の旅の私たち

    • 13本

    香咲弥須子+山本テオ、ふたりの旅文通。マンハッタンからそれぞれの地球へ。

最近の記事

旅文通12 - ブダペストのクリスマス・マーケットは夜行列車のあとに -

そろそろニューヨークへお戻りですね、やすこさん。今回も空港を出てタクシーの窓の先に、近づいてくるマンハッタンの遠景を眺めましたか。いつもsomething=何か胸に感じさせるものがある姿ですが、この季節となると騒がしさがタクシーからも聞こえたのではないでしょうか。だってね、12月はね、ニューヨーク市の人口846万人に加えて650万人ともいわれるツーリストが、小さな島の上でかなり元気にはしゃいでいるわけです。 そうして騒いでいる私たちですが、日本や諸外国と同様に、ここでも連

    • 旅文通10 – ニューヨークのピンク、ある?ない?アッパーイーストありません –

      旅から戻ると。 余韻を楽しむ間もないまま日常へと、まるでマンハッタン上空から細切れの野菜が煮えるスープの大鍋へ落下するようで、なんだか恨めしい。熱々の野菜スープに溺れながら、なんとか手足をバタつかせて泳ぐ。たとえ鍋の縁で頭をぶつけようが、スパイスが目に沁みようが、あたりまえのこととしてあるべき暮らしに戻ってゆく。 この夏の旅から戻った直後は不思議な感覚を味わった。帰った翌日の朝にあれ?と、気づいた。 それがどういうものだったかというと、初めて味わうある種の体感であり、気持ち

      • 旅文通8 - 旅情はどこに、ヴェネツィアに? -

        旅人よ、いずこへ。 ただいま! 北半球にはたいへんな夏が来ていますね。 異常な気温上昇の中、マスクを捨てた渡航者で大混乱する空港とエアーラインの遅延や欠航、空を見上げると山火事の煙の被害、もっと遠くの上空では戦争による飛行空域制限などと、人類にとって〝さり気ない旅”はもう雲の彼方に消えてしまったのでしょうか。 前回のやすこさんの旅文通は、海岸線を走る中距離バスの中で読みました。その日もやっぱり、さり気なくはない旅の朝でした。 初めての場所への移動だったので、目的地が近

        • 旅文通6 - 旅と旅を足すと、旅のネックレスになる

          わかる、やすこさん。ここに帰ってくるために旅に出るというその感覚、それを感じる時間、わかりますとも。 長いフライトを終えて、イエローキャブの列に並ぶ。ジョン・F・ケネディ空港から、全ての日程を終えてくたびれた自分がくたびれた座席にもたれて半時間ほど経ったとき、フロントガラスの向こうにマンハッタンが見えてくる。まるで長さ違いの鉛筆を束ねたような高層ビルが並ぶ遠景に、目新しさはなくとも何故か、心が反応します。 よくも悪くも特別な場所。汚れてどうしようもなくダメな街ではあっても、雑

        旅文通12 - ブダペストのクリスマス・マーケットは夜行列車のあとに -

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        • 私たちの私の旅の私たち
          13本

        記事

          旅文通4 - リスボンの買い物はみっつ -

          やすこさんのリスボン滞在は半日だったというのに、アルファマ地区の坂を登ったり降りたりにはじまって、そうとうパワフルでしたね。急な坂道と一緒に暮らす現地の人々のアキレス腱はさぞや強そう。 名物のパステル・デ・ナタPastel de Nata(エッグタルト)はちょっと残念だったようで残念。私がおすすめしたかったパステル・デ・ナタの老舗を、是非次回の訪問リストに加えてください。そこへはやすこさんの根城アルファマの高台を降り、タージョ川沿いに西へ。トラムに乗って、途中に大航海時代を

          旅文通4 - リスボンの買い物はみっつ -

          旅文通2 - リスボン

          さて、私のリスボンに至るお話。 ある年、空腹というものを経験した。 ひと月ほど入院している間、数十年に渡ってくり返してきた物を食べるという習慣が禁じられ、アメひとつさえ何やらという成分が入っているゆえ云々と、主治医から許可が出ることはなかった。未曾有の空腹感を経験するうち、しだいに食べ物は空想の中で、どこか遠いが確実に存在する夢の世界に浮かぶ色とりどりの雲になって、夜な夜な虚しく魅力を増した。 その後、退院し、回復し、ごぼうのように痩せた身体が新鮮な大根になった頃、ようやく

          旅文通2 - リスボン

          旅文通1 - リスボンの前に

          やすこさん、こんにちは。 旅文通をこうしてスタートできる日が来ました。この文通の行く道がどのように愉快な放浪となるのか、とても楽しみです。 旅人が帰宅したとき、訪れた場所で見たもの、感じたこと、美味しい感激や喜びの瞬間、垣間見た人々の生活や過去と未来など、たくさんのお土産を持ち帰ってくれます。なので旅帰りの人がいたら、できるだけ時を置かず、焼きあがったパンのように熱い湯気が上がっているうちに土産話を聞きたくなります。 やすこさんから聞く旅の話は、その旅に同行したわけではない

          旅文通1 - リスボンの前に

          noteまじメ日記(3)−画面から舞茸/煙草少女–

          某日、夕方。家族が関わっている生放送のニュース番組を観ていたら、ブルックリンに菌類好きが集結したという、野趣あふれる盛大なキノコ祭が紹介されていた。スタジオには催しに登場した菌類マニアご自慢の舞茸が用意されており、アンカーが楽しげに披露する。それは日頃、アジア系食料品店で見かける薄茶色のフリルスカートのように弱々しい舞茸とは違い、いぶし銀の帽子をつけた隆々と逞しい白色のボディだった。舞茸といっても色々あるんだな、とTV画面を観ながらマッシュルーム界の格差を思う。 数時間後、プ

          noteまじメ日記(3)−画面から舞茸/煙草少女–

          noteまじメ日記(2)−白髪おかっぱ不二子/中間選挙−

          某日。今日は何やら作業をしているようで、アパートメントの階段からドリルの轟音が聞こえていた。ここは3階。どうも壁に穴を開けているようなので、配管の破損修理だろうか。マンハッタンの建物は戦前のインフラ設備に手を入れながらだましだまし使っているところが多いゆえに、よくあることだ。 午後、いつしかドリル音はやんでいた。出かけようとドアの鍵を閉めていると、階下から何かをこするような音がしている。階段の手摺り越しに下を覗くと、白髪でおかっぱ頭の老婆がひとり、左官をしていた。壁面の穴をふ

          noteまじメ日記(2)−白髪おかっぱ不二子/中間選挙−

          ヘルシンキ空港で猛ダッシュをしたくはなかった

          列車、飛行機、船。長距離移動での乗り継ぎは、充分な時間的余裕を持って楽々にこなしたいのは当然だけれど、そうはいかないこともある。その日は搭乗機はスカンジナビア半島にさしかかる前から座席前のモニターに遅延が告知され、変更後の到着予定時間、乗り継ぎ時間とゲートが記されていた。なんということ。ヘルシンキに到着後に次のコペンハーゲンへ発つまで1時間45分あるはずの乗り継ぎ時間が、無残にも15分になっている。じゅじゅじゅうごふん?!と心で叫びながら私の瞳孔はすでに開いていたかもしれない

          ヘルシンキ空港で猛ダッシュをしたくはなかった

          noteまじメ日記(1)−卵とインフレと鶏−

          今週、円ドル為替は1ドル150円となり、長年買い求めてきた1パック12個入り12ドルの卵は、日本円に換算してみると1800円になった。これって金の卵?いいえ白い卵。普通のeggといえども、そもそもどこかの州の鶏たちが日夜ひとつひとつ産み出していることを思えば、それはおびただしい数の尊い行いであり、少々高額になろうとも口卑しい人類が文句を言えるものではない。 なのに、またやってしまった。夕方の台所は西日がぎんぎんに背中にあたる。冷蔵庫から卵のパックを出して、頭に思い描いている料

          noteまじメ日記(1)−卵とインフレと鶏−

          ところで、初めましてnote!

          noteというこのプラットフォームに集まるみなさん、初めまして。新入りの私です。 ここがどんなに素晴らしい場所なのか、私はまだよく分かっていないと思うけれど、実は最近、これまでよりもっともっと率直に書いてみたい気持ちがあって、もう何も隠したいことも言いたくないこともないような気がしていて、なのでじっと心に耳をすませて、そのまんま気楽にリラックスしてここに来てみました。 ニューヨーク市で暮らすということは、他のどの街でもそうであるように、日々何かしらの緊張や不安が多かれ少なか

          ところで、初めましてnote!

          ヴェネツィアの朝は掃除を

          旅の朝に目覚めて窓辺から外を眺めるとき、ようやくここまで「来たな、」という確信と、まだ始まらない今日への期待がハートで湧き上がる。窓の外に見えるものは実際に行ってみないとわからないし、予約ができるものではないけれど、できれば朝靄の動く海や、小鳥の鳴き声がする中庭や、通勤途中の誰かが急ぐ通りなど、何かしら好ましく「ああ、ここには毎朝これがあるんだな」と納得させてくれる景色があると、心が喜ぶ。 その年のヴェネツィアはいつもの訪問よりずっと長く、夏から秋にかけて過ごした。ホテル

          ヴェネツィアの朝は掃除を