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【こころ #26】障害のある方に一目会えば、理解は深まる

船木 陽介さん


 正直に教えてくれた。大学で福祉学部に進んだが、「そこまで福祉に興味があったわけではなく、それまで障害のある方が身近にいたわけでもなかった」。そんな船木さんを「こんな世界があったんだ」と様変わりさせたのは、大学1年生の夏休み。自閉症や重度心身障害の子供たちと泊まりがけのキャンプに行くボランティアだった。

 「何の知識もなかった」自分が担当として障害者と1対1で3日間を過ごす。「まっさらで、どうやってコミュニケーションを取ればいいかから始まる。服薬さえ当事者のお母さんからお聞きして対応しないといけない」。どうしていいかわからない自分にボランティアの代表が投げかける。「(当事者は)メッセージ出している、それを受け取れないのはこっちの問題。『障害』はこちら側にある。理解しようと努めなければ付き合えない」。ガツンと殴られた気分だった。


 船木さんは、そのまま子どもの福祉に興味を持っていく。ただ、その先には、養育がうまくできない親御さんの心の問題も見えていった。社会福祉士と精神保健福祉士の双方を取得し、「心の問題をやろう」と決めて、社会に飛び出した。

 就職したのは、精神科病院。ご存じだろうか?日本は、世界の精神科病床数の約2割があるとも言われる、精神科病床大国だ。船木さんは15年間の病院勤務を通じて、どうしても入院が治療のベースにあることや、せっかく支援して退院していく当事者も地域で受け止める体制がなく結局「入院した方が安心」で戻ってきてしまう現状を目の当たりにした。「地域だって、受け入れるには覚悟が必要。福祉の現場の中だけで理念を高めてもダメ。そこを超えて一般社会にも理念が届いていかないといけない。」

 やはり制度の問題はありますか?と安易に質問すると、きっぱり否定された。「いや、もちろん制度もあるかもしれませんが、昔から色んな実践があって、制度は作られていくもの。何もないところから実績を積み上げて予算がつく。まずは実践、そのための理念だと思っています」。船木さんが精神科病院から転じた先は、精神障害者を対象にしたグループホームや自立生活援助事業を行うNPO法人。地域で実践する、現在の職場だ。


 そんな船木さんの人生の傍らで、大学時代から耳にしていた活動団体があった。脳や心に起因する疾患及びメンタルヘルスへの理解を深め促進する『シルバーリボンジャパン』。自身が取り組む福祉現場での理念と実践を超えて、社会への理解を広める必要性に共感した。船木さんは現在、仕事の傍ら、ボランティアとして『シルバーリボンジャパン』の事務局長を務めている。「精神疾患やメンタルヘルスに、押しつけがましくなく、関心を持ってほしい。意識が高くなくてもいい、学生だったり若い人だったりが参加してくれるイベントができればいい。自分だってもともとそうじゃなかったから」。


 学生時代を振り返りながら、話された。「教科書を読むよりも、実際に関わることでイメージがわいたんですよね。学生時代に初めて障害のある方に会った時も、その後そういった方々の支援者になったときも、社会への理解を広める『シルバーリボンジャパン』に参画したときも」。

 障害のある方に一目でも会ってくれれば、理解は深まる。その想いは自身が初めて出会ったときから変わらない。だからこそ、それをもっとたくさんの人に経験してほしい、当事者に出会ってほしい。心の病気は誰にでもなりうる。特別なものではなく身近なもの。人と人として当たり前のように出会い、お互いを知り合うことで社会は変わる。船木さんは、きっとそうおっしゃっていた。

 そんな機会の創出を応援するし、何よりこれを読んで当事者に会ってみようと思う方が増えたら望外の喜びである。



▷ シルバーリボンジャパン




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