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方言研究者・杉山正世が発行していた雑誌『愛媛県周桑郡郷土研究彙報』

 拙noteで度々紹介している加賀紫水雑誌『土の香』は、第4巻第6号で「私たちの兄弟」として同時代に発行されていた類似のテーマを主題としている雑誌を以下のように紹介している。掲載されているのは雑誌名だけだが、参考のため私の方で発行者名と関連記事を追加した。

旅と伝説 萩原正徳
民俗研究 本山桂川
民俗資料類纂 本山桂川
土のいろ 飯尾哲爾
郷土研究彙報 杉山正世
岡山文化資料 桂又三郎
福岡 有吉憲彰
日向郷土志資料 日野巌
方言と土俗 橘正一
片言 加藤武
佐渡郷土趣味研究 青柳秀雄
福岡郷土研究 梅林新市
江戸採訪会会報 松川弘太郎
墓碑史蹟研究 磯ヶ谷紫江

 この中で杉山正世が発行している『郷土研究彙報』が今回紹介したい雑誌である。この雑誌の正式な書名は『愛媛県周桑郡郷土研究彙報』である。この雑誌のことは、以前から興味を持っていたが、所蔵されている図書館が遠方であるため、現物を確認する機会がなかった。先日、日本の古本屋を調べている際に、この雑誌をたまたま発見したので購入することができた。以下に私が購入した第9号の書誌情報と写真を掲載したい。

書名:愛媛県周桑郡郷土研究彙報 第九号
大きさ:約24.6cm×約17cm、和装本、謄写版印刷
印刷:昭和6年3月25日
発行:昭和6年3月31日
編集兼発行人:杉山正世 愛媛県周桑郡壬生川町大字壬生川一八〇ノ一
発行所:郷土研究会
頁数:54頁 ※私が入手したものは合本することを前提に頁数が振られており、107~160頁であった。この時代の個人誌の頁数の振り方についは以下の記事を参照。

宮崎県方言 小川新一 ※昭和6年1月25日に熊本放送局で放送された内容を小川の許可を得て掲載したテキスト。
資料・報告
 本郡出土銅剣六振に就て 渡部盛義
 郡内地名異考(5) 杜廼舎
 愛媛県周桑郡石根村明穂誌(二) 玉井正孝
他地方ノ資料
 埼玉県入間郡宗岡村の方言と習俗 池ノ内好次郎
 貝類の方言 佐藤清明
 佐渡外海府入川地方々言 青柳秀夫
 広島県佐伯郡深江村方言 亀頭みゆき
お笑草 松本長太郎
ジャンケン資料 松本善吉 相原光家? 池ノ内好次郎 鈴木武夫 清水範一 藪重孝 水木直箭 谷嘉代子 小川新一 ※読み取りに自信がない人名に「?」を付けた。
風の呼称(7)―宮崎・山口・広島県之部 小川新一 手塚隆吉 永富三治 佐藤清明
消息
編輯後記

表紙
目次
奥付

 まずはこの雑誌の発行者である杉山について、国会図書館デジコレで閲覧できる国立国語研究所編『国語年鑑1954』(秀英出版、1954年)の「国語関係者名簿」から引用してみたい。杉山は埼玉県の出身であったようである。

杉山正世 すぎやま まさよ 埼玉 明32・4
現住所:愛媛県今治市松本通二丁目
最終学歴:埼玉県師
勤務先:今治工業高
主な著作及論文:愛媛県周桑郡丹原地方言語集 四国方言圏内に於ける愛媛方言の位相 愛媛県の方言に関する研究状況 予幡方言区設定の能否 越智郡地方のアクセント分布概観

 この号に投稿している文章から『愛媛県周桑郡郷土研究彙報』には、雑誌名にある愛媛県周桑郡の報告だけでなく、各地域から報告が集まっていたことが分かる。拙noteでも度々紹介しているように、この時代は地域の小さな雑誌にも各地域の事例が投稿されていたが、『愛媛県周桑郡郷土研究彙報』もこの特徴を共有している。

 投稿者について、驚いたのは今度評伝が発行される予定の佐渡の郷土研究者・青柳秀夫(青柳秀雄)が投稿している点である。上述の「私の兄弟」で紹介しているように、青柳はこの時期『佐渡郷土趣味研究』を発行しており、他の雑誌に投稿しているイメージがあまりなかったので、特に小さな謄写版の雑誌はノーマークであった。このような発見があるので、小さな謄写版の雑誌は侮れない。

 また、小川新一が宮崎県の方言に関する資料を投稿している。小川は日野巌の『日向郷土志資料』や加賀の『土の香』に投稿しているので、名前は聞いたことがあったが、投稿の中心が前者の雑誌と理解していたので意外であった。

 このように様々な発見があったので、『愛媛県周桑郡郷土研究彙報』への関心がますます高くなった。この雑誌は方言研究がメインであったため、日本方言研究会のウェブページで閲覧できる「方言文献総目録」(注1)で確認できると思っていたが、一部しか載っていないようである。

 ところで、私が購入した雑誌は日野の旧蔵資料であったことが以下に載せた写真から分かる。以前紹介した郷土玩具趣味誌『片言』も日野の旧蔵資料であった。また、某所で以前見せて頂いたある謄写版の雑誌も同様に日野の旧蔵であった。これらは偶然であろうか。もしかしたらコレクターの方が何らかの理由で手放したのかもしれない。

日野の蔵書印

(注1)データの紹介によれば、この総目録は、日本方言研究会編『20世紀方言研究の軌跡』(国書刊行会、2005年)のデータを元にして修正されたものであるという。

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