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隣の小悪魔

君はあの時ペンギンが見たいと言った
それも動物園ではなく野生のをと

「できる?」

それが付き合う条件だった
いるとしたら南極かガラパゴスか
どこぞの大富豪でも簡単には行けない場所
学生の僕には到底無理だった

それは彼女の優しさで
僕をあきらめさせる口実で
傷つけないよう咄嗟に考えた
君なりの振り方だった

そんな、若い頃の記憶が急に蘇って来たのは
家族で水族館に来ていたからで

ペンギンのぬいぐるみをせがむ娘が
そんな淡い過去を思い起させた

報われなかった恋ほど
深く心に刻まれて美化されていて

あの時何か行動を起こしていれば
例えば今目の前にある大量の
ペンギンのぬいぐるみを送っていたらとか
駄目でも抵抗していれば、なんて

きっと何もせず身を引いたのが
一番心残りになっているんだろう

「南極って遠い?」

娘がそう聞いて来た

「いつか彼氏が出来たら連れてってもらいな」

「うん」

大きくうなづいた娘は
成長したら沢山の男の記憶の中に
存在し続ける優しい小悪魔になるんだろう

「私はこれがいいな」

とシロクマのぬいぐるみを持った妻がそう言った

娘とぬいぐるみを見せ合う姿を目の前にして
やっぱりあの時無茶をしなくてよかったと

こんな僕を振ってくれた彼女に
礼を言いたくなった

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