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花束の代わりにフランスパンを贈ろう

フランスパンをかじりながら街中を闊歩したい
それが私の昔からの夢だ

誰にもわかってはもらえないけど
凄くかっこいいしかわいいと思うんだ

例えば原宿の竹下通りで
渋谷のスクランブル交差点で
クレープやタピオカなんかじゃなくて
一本の長くて太いフランスパンをかじる

それがブームになって、誰もかれも
道行く人が皆フランスパンを抱えている
鞄からはみ出している人もいたりで
それもまたお洒落でトレンドになって

そんな未来に憧れていた
いつか来るんだと思っていた
でもまだそんな気配は微塵も見えない

背中にフランスパンを隠した男性が
待ち合わせた彼女にサプライス
花束の代わりにそっと差し出すその姿
ああ、なんて素敵な光景でしょうよ

あそこに列が出来ているお店は
最近話題のフランスパン屋
人が集まる雑貨屋店では
様々な柄のフランスパン入れが売られていて

そんな街の様子を眺めながら街をお散歩
もちろん私もフランスパンをかじりながら
そんな想像を巡らせる


大学の卒論で私はフランスパン万能説を説いた
どんな物にでも代用が出来るんだと

食事や非常食はもちろんの事
美容や健康、耳栓にマフラー
武器にもなるし楽器にもなる
枕やぬいぐるみ、釣り竿や眼鏡にだってなり得る

そして性別も無く多様性に富んでいるんだ

ただ説得力が足りなかったんだろう
引用する素材が少なすぎたせいかもしれない
誰の共感も得る事は出来なかった

いつかそんな時代が訪れた時
ほら見たことか、と見下してやるんだ


ふと蘇る記憶、強く残る幼き光景
近所の幼馴染の女の子が
自分の身長ほどのあるフランスパンを
家の前でかじりながら座っている場面に出くわした

親が帰って来なくて鍵を持っていなくて
でもなぜフランスパンをかじっていたのかは
それだけ持っていたのかはわからないけど

その時に受けたあの衝撃を忘れない

その瞬間から私は、フランスパンを持つ人に
フェチとも言える感情を持ち始めたんだ

ただそれがもし違う人だったなら
幼馴染の彼女じゃなかったら
印象は全く違っていたかもしれない

夏の夕方、水玉のワンピース
サンダルに麦わら帽子、首から胸元に垂れる汗
その姿は今でもはっきりと脳裏に宿っている

その事を後から聞いても本人は覚えていなかった
フランスパンを持ってた事さえ忘れたらしい
そんなことあったっけ?とあっけらかんに言われた

きっと、たまたま食べていただけなのだろう
買い物帰りにお腹が空いて食べてしまったんだろう
例えそれがポッキーだとしても同じだったんだろう

その一件から私たちはさらに仲良くなって
学生時代も成人した今でもまだ繋がっていて

いつからか、その子の事を
同姓として、幼馴染としては見れなくなっていて
その先へと進みたくなったんだ

気持ちを伝えたら嫌われるかもしれない
もう会う事は出来ないかもしれない

でも、それでもいいと決意をして
今日、今から会う約束をしている

私の人生を、価値観を
根底から変えてねじれさせて
誰にも理解されない性癖を持たせた罰として

花束の代わりにフランスパンを贈るんだ

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