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ハイカラ庶民の進化系ソーライス

今回の記事を読んでいただくにあたり、まずソーライスというものを説明しなければはじまりません。


🧂ソーライス、そうなんです

ご存知でしょうか。

要はごはんにウスターソースをまぶして和えるだけ。そうなんです。

これ以上説明のしようもないほどシンプルなひと品です。そしてB級グルメ中のB級グルメでもあります。

あつあつごはんにソースをどぼどぼ。

よく混ぜます。

全体にからめるだけ。

どうでしょう。これがソーライス。

そもそも醤油ならともかく、ソースをごはんにかけるのってどうなのよ。そんな声も聞こえてきそうです。

🧂関西洋食といえば

ただ、関西人にとってはこの組み合わせ自体はわりと普通。さすがにふだんの食卓で白米にソースをかけることはめったにないかもしれませんが、たとえばカレーライスにウスターソースをかけるのは、おうちカレーにはありがちな光景です。

関西ではソースの中でも、「洋食=ウスターソース」という関係が根強くあって、フライものにはやっぱりウスターという答えはけっこう返ってくるし、お店にもたっぷりのソースをいれたポットや瓶がテーブルに鎮座していたりします。

🧂恐慌が生んだ昭和B級グルメ

そんな関西で生まれたソーライス。その誕生のエピソードはこんなお話。

昭和恐慌の時代、百貨店の食堂で人気メニューだったライスカレーを食べたいけれど、高価すぎる。そこで白米のみをオーダーして、カレーはなくともそこにソースをかけて食べてみた。

今の時代には試してみようと思う人も少ないかもしれませんが、きっとその時代、ウスターソースは憧れの洋食の味だったんじゃないかなと思います。おうちの食卓には常備されてなくて、その味を楽しむには、洋食を食べられるお店にいく必要があったのでしょう。

そして本来のメニューにはない、その食べ方を受け入れた、百貨店側の懐の深さ。庶民のアイディアと、経営者の英断で生まれ愛されたメニューといっていいひと皿です。

あくまでも裏メニューだったため、正式な資料としての記録はなく、しかしその味を愛したお客さんたちが語り継いだことで、その存在が伝えられてきた。という話も見かけましたが、そんな伝説もなんだか似合う気がします。

古きよき昭和の人々のたくましさと、人情深さを感じる、庶民のライスカレーとも呼ぶべき、そんなB級グルメだと思いました。

🧂ソーライスアレンジの前提

というわけで、今回はソーライス。ただそのままではさすがにあれなので、ちょっとだけアレンジして、B級グルメ感は残したまま、現代でも楽しめるメニューにしてみようというお話です。

まず、もう一度あらためて整理します。ソーライスとは何ものなのか。何がそろえばソーライスなのか。

少なくともごはんは必須です。そしてソースももちろん。もともとカレーを模した背景があるとしたら、そのソースはウスターソースであるべきでしょう。とんかつ、中濃系のとろみのあるソースで作るものではないはず。

それからこれは洋食であるはずです。盛り付けるのはお皿で、食べるときはスプーン。時代は昭和のはじめ。となると、洋食に欠かせない調味料バターの出番は加えてもよさそうです。

🧂アップグレードNo.1

というわけでまずアレンジ第1弾。シンプルなアップグレード版を試します。

あつあつごはんにバターを投入。

溶かしながらソースを絡めます。

ソースを混ぜただけの基本型とは違って、バターを混ぜると香り豊かに。そして食べてもまろやかなコクが加わりました。

このバター混ぜバージョン、それだけでそんなに変化あるのかと思われるかもしれませんが、ウスターオンリーと比べるとかなり料理としてのグレードが上がります。

ライスを主食と考えないヨーロッパの国のシェフに教えてあげたら、お肉やお魚料理の付け合わせに採用されそうなくらいには、よそゆきな印象が強まりました。

ただ、まだまだメインに物足りない印象です。このメニューが生まれた時代とは違い、街にはレストランが溢れ、食材はなんでも手に入る世の中にあって、これひと皿で食事を完結させるのは至難の業。

ライスメニューである以上、ライバルはカレーやハヤシライス、オムライスやチャーハンなのです。

🧂進化系最終形態

そこでたどり着いた、進化系ソーライスの第1次最終形態がこちらです。

🍚材料
・ごはん
・牛スジ煮込み
・玉ねぎ
・ウスターソース
・バター
・こしょう

ソーライス発祥のきっかけが、庶民の憧れたライスカレーだとするならば、その材料でアレンジしてみようと思います。関西発祥なので、お肉はもちろんビーフ。でも高価なものでは、庶民の味ではない。

というわけで、今回使うのは牛スジを煮込んだものです。

玉ねぎたっぷりなのは、いつもの糖質オフレシピ。ご飯の量を減らしても物足りなくない仕上がりにするひと工夫です。

バターで炒めて玉ねぎが透き通ってきたら、ごはん投入。

そして真打。ウスターソース。ここで使うソースは、くれぐれもウスターです。これが関西発祥の意地です。

よく混ぜ合わせつつ炒めます。水分が多くてとろみのないウスタソースなので、ごはんが吸うように全体がからみます。それとともに、香ばしいソースの焼ける香りが漂ってとってもスパイシー。

仕上げにこしょうをプラスします。

どうでしょう。

おっと。福神漬けを忘れてはなりません。なんてったって、カレーを模して生まれたひと皿です。もちろん彩りとノスタルジックな気分を呼び覚ますためにも、赤いやつがいいですね。

そして仕上げ。カレーにウスターソースをかけるカルチャーが、ソーライス誕生のヒントになったのだとしたら…これも必須です。

追いソース。

ソーライス進化系、炒めソーライスの完成です。

🧂流れゆく歴史の中で

ソーライスが生まれた背景に、昭和の恐慌という時代背景があったならば、いつかまた流れゆく歴史の中で、新しいアイディアメニューが生まれるきっかけになるようななにかが起きるのかもしれません。

そのできごと自体は歴史の教科書に刻まれても、それに付随して生まれたメニューが載ることはないでしょう。しかし料理の歴史においては、エポックメイキングなできごとになるはずです。

時を経た令和の時代。たとえば食の多様化、異なるポリシーの理解から、大豆ミートやハラルフードというものが、広く知られるようにもなりました。

今回試したソーライスは、あくまで食文化が進化する過程の一環であり、第1次形態でしかないのかもしれません。

きょうこの瞬間も、あの日ソーライスが生まれたように、いまだ知らないメニューが、どこかでその誕生の瞬間を迎えているのではないでしょうか。

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