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#1299 せんとらるぱァくを歩く、じよんとれおなァど

それでは今日も幸田露伴の『露団々[ツユダンダン]』を読んでいきたいと思います。

今日から「第二回」に入りますよ!それでは早速読んでいきましょう!

第二回 長き日を囀[サエズ]り足らぬ雲雀[ヒバリ]かな
其[ソノ]舌動き易き痴人[チジン]の妄評[モウヒョウ]と、野夫[ヤフ]の雑談[ゾウダン]。

西の空に傾く太陽の色、漸[ヨウヤ]く濃[コク]して、あはれ天帝の指環[ユビワ]の紅寶石[コウホウセキ]を、小兒[ショウニ]の車推す保母の見立[ミタテ]もおもしろく、南の方[カタ]に横[ヨコタ]はる浮雲[フウン]の形は妙に畳[タタ]まりて、それぞあぽろの衣裳のれェすならむと希臘[グリイス]の書[フミ]抱[カカ]へし少年の洒落もおかしき夏の夕暮。若葉の林間より音[オト]づるゝ油蝉の聲[コエ]高く、噴水の池邊[チヘン]を渡り来[キタ]る微風[ビフウ]僅[ワズカ]に涼し。裙[モスソ]をひるがへし傘をならべて歩[アユ]むは、仲よき女同士が、友呼びつれて塒[ネグラ]に帰る小鳥を指さして何やら語るは眼の付く物もさすがにやさしく。杖を把[ト]り、犬を曳[ヒ]きて過ぐるは、世をすねた詩人にや、靴に踏まれて地に伏せし下草[シタクサ]を見て低く咡[ツブ]やきしは感[カン]を起[オコ]す情もいと細[コマ]かし。皆[ミナ]是れ日中のあつさを晩景[バンケイ]の清きにあらひ、ぶろうどうェいの塵[チリ]をせんとらるぱァくにまぬかれんと徘徊する中[ウチ]にさりとては心なき二人連れ、足は羊の如く静[シズカ]なるこそよきに、家鴨[アヒル]の如くしどろに走り、話は鳩の如くをとなしきが尊きを、雲雀[ヒバリ]の如[ゴトク]せわしく囀[サエズ]り、誰[タレ]憚[ハバカ]りもなき高調子[タカチョウシ]
「じよん、/\、晝[ヒル]の苦[クルシ]さは印度の様であッたが、今の快[ココロ]よさはいでんの園[ソノ]と思はれるではないか」。
「おゝ、れおなァど、君は印度に行[イッ]た事があッたか。又はいでんに住[スン]だことがあるか」。
「裁判所で代言人[ダイゲンニン]の辨論[ベンロン]するやうに攻撃せずともよいさ。予は原告でも何でもない」。
「たヾ怠惰者[ナマケモノ]なるのみ」。
「失敬な、君も同類は免れない」。
「悪[ワ]るかッた。人をそしる聲は其の讒[ソシ]らるゝ人の耳より其のそしる人の耳へ先づ早く聞[キコ]ゆるであッた」。
「恐れ入ッた、名言を覚えて居たね。君には珍らしい、感心だ」。
「どうだ、僕も一箇[イッコ]の君子だらう」。
「はゝ、其[ソノ]一言[イチゴン]でやはり一箇の凡人[ボンニン]たることをあらはすのだ」。
「なぜ」。
「自[ミズカ]ら賛する者は自ら止[トドマ]ッて進まざるものなりといふ諺がある」。
「やれ/\名諺[メイゲン]で復讐をされた。併し吾々[ワレワレ]の談話も大分高尚になッて来た」。

やはり舞台はアメリカのようですね……。

ということで、この続きは……

また明日、近代でお会いしましょう!

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