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【短編】前菜は惑星スープです〜生命誕生秘話〜

料理の神である高部神は迷っていた。具体的には、次の神々の祝賀会で何の料理を出すかを迷っていた。

「次の祝賀会はゼウス様やヤハウェ様、アッラー様などの有名人も来られる大きな祝賀会。その祝賀会に見合うビッグで斬新な料理を作りたい……」

高部神が宇宙をウロウロしていると、恒星の周りを回る、とある若い惑星が目に入った。

「若い惑星か。これはいい出汁が取れそうだ。これを材料に何か一つ作ってみるか」

高部神はまずその惑星を強火にかけた。惑星は火の海になり、マグマが地表を覆った。

「よし。いい感じにこんがり焼けたな」

次に高部神はその惑星に水を加え、塩とうま味調味料(アミノ酸)を入れた。

「これで惑星スープの完成じゃ!見た目も美しい青色で、まるで宝石のようじゃ」
「祝賀会が始まるまでここに置いておこう」

高部神はそのスープを、水分が蒸発したり凍ったりしないよう、恒星から程よく離れた位置に置いておいた。

それからしばらく経って、高部神がスープの様子を様子を見に行くと、何と、アミノ酸どうしが複雑に結合して自己複製する謎の物質が生まれていた。

「これは興味深いな。面白い!」

高部神はその物質を生命と名付けてみた。高部神は祝賀会までの暇つぶしに、生命を観察することにした。

やがて、生命はその数を増やし、惑星上を覆い尽くし、多様化していった。酸素を生み出す生命が現れたり、その酸素を代謝に使う生命が現れたりした。やがて生命はどんどん巨大化していった。

「生命活動によってスープのアミノ酸の総量がどんどん増えているな。このまま置いておけば、さらにうま味が増すに違いない」

高部神は、生命活動によって料理のうま味成分(アミノ酸)が増える現象を、発酵と名付けた。

「祝賀会で出すのが楽しみじゃ。みんなこの料理に驚くに違いない」

やがて、しばらく経つと、二本足で立って歩く猿の種族が現れた。彼らは凄まじい勢いで賢くなり、文明を作った。

「スープに知的な生命と文明が生まれてしまった!これを食べるのはちょっと忍びないな」
「どうしたものか……」

そこで、高部神は妙案を思いついた。

「こいつらが我々の存在を感知して信じるか試してみよう!こいつらが信心深ければ食べるのは止めにしよう」
「しかし、何かヒントを与えて手助けしてやりたいな」

高部神は、スープに使者を送り込むことにした。使者には適当に、キリスト、ムハンマドなどと名前を付けておいた。

「お前ら、我々の存在を周知してこい!」

やがて、その知的生命の多くが、神の存在を信じるようになった。一方で、知的生命の間で、科学という学問が発達し始めた。やがて、オッカムと名乗る個体が現れ、オッカムの剃刀という概念を発明した。オッカムの剃刀とは、物事の説明に余分な仮定を入れるべきではないという考え方だった。知的生命はその考え方に基づいて、神の存在という仮定を、科学理論から削ぎ落とすようになった。

「この科学という学問は気に入らないな。神の存在を仮定せずに世界の成り立ちを説明しようとしている」

やがて、その知的生命たちは徐々に神を信じなくなり、科学を信じるようになってしまった。

「こいつらを生かしておく道理はなくなった。次の祝賀会で出してしまおう」

やがて、祝賀会の日がやってきた。高部神は自慢げに言った。

「こちらは惑星スープ、100億人の不信心者添えでございます」
「実に美味そうだ!やはり高部神の作る料理はスケールが違うな!」

神々は口々に高部神を褒め称えた。

「では、命に感謝。いただきま〜す!」

人類の時間で紀元25世紀。世は科学技術万能時代を迎えていた。そんなある日のこと。NASAは宇宙空間に、地球へ真っ直ぐ飛んでくる、月の直径ほどの長さのスプーンを大量に感知した。人類はパニックになった。人類は反物質爆弾やガンマレーザー砲でスプーンを破壊しようとしたが、そのスプーンは人類にとって未知の物質でできており、全く効果がなかった。一部の金持ちたちは宇宙船に乗って地球から脱出した。

ゼウスは不機嫌そうに言った。

「これから飯だというときに、コバエが飛んでおるわい」

ゼウスはパン!と手を叩いた。金持ちたちの宇宙船はペチャンコに潰れた。

やがて大量のスプーンが地球に激突し、その瞬間に全生命は滅びた。人類が不信心だったばっかりに……。

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