マガジンのカバー画像

mini story * 2021〜

13
2021.05〜 が舞台です。 流星くんが30歳! みんな結婚して、子どもができてる!
運営しているクリエイター

記事一覧

君影草は毒を持ち、君を待つ

君影草は毒を持ち、君を待つ

喉が痛すぎて目が覚めた。
体の節々が痛くて、高熱が出ていることを熱さで感じる。

シーツの上に敷いたバスタオルが濡れていて、シャツはぐっしょりと重みも帯びていた。
だるい体を半身だけ起き上がらせて、シャツを脱ぐと重みから解放されて、暑さも少しだけ軽減した。

このまま裸で寝てしまおうか。

そんな考えも僅かに頭をよぎったが、明日は絶対に外せない仕事があるし、と、思い直して力を振り絞って新しいシャツ

もっとみる
りんご煮は起きてから食べます

りんご煮は起きてから食べます

寝込む私を空さんが看病してくれている。
温かい生姜のスープと、たまごのおかゆが身に染みる。

「うう…、空さんごめんなさい…」

「いや、謝ることじゃないでしょ。
むしろ大丈夫?梅ちゃんが体調崩すなんて、年に一回あるかないかだよね?」

「高校は皆勤賞、仕事も皆勤賞でした…」

「今日も休みの日に熱出してるしね」

体が強いのを取り柄に生きてるから、取り柄がなくなった私はいま、無力どころの騒ぎでは

もっとみる
甘い思い出は独り占め

甘い思い出は独り占め

家に帰ると、蘭ちゃんとスズが来ていた。
最近歩けるようになった由隆(ゆたか)が俺の方に
てちてちと迎えにくる。

「おかえり、和政。」
「大澤おかえりー」

詩織に続いて蘭ちゃんとスズも俺の方を少しだけ見る。

俺たちはなんだかんだで近所に住んでいるせいで
この二人は俺の家を
料理教室かなんかと勘違いしている。

…確かに、我が家はキッチンがやたら広い。
アイランドにしたし、あらゆるキッチン家電を

もっとみる
夏の思い出は海の香り

夏の思い出は海の香り

部屋に飾られた写真を見て
息子の星翔(ほしと)が私の裾を引いた。

「すずー、これはいつのしゃしんだ?」

星翔が指した指の先には6年前くらいに
みんなで行った海の写真が飾ってあった。

流星先輩、大澤、フクちゃん、カクちゃん、
あっちゃん、野上先輩、伊達先輩、秀ちゃん、
フミくん、泰睦くん、美波先輩、
桜先輩、蘭ちゃん、流香ちゃん。

「これは私たちがまだ、デビューして
こんなに忙しくなる前の写

もっとみる
あなたがくれた透明な花束

あなたがくれた透明な花束

夜遅くに鳴ったインターホンに答えると
フミくんを背負った泰睦が笑顔で手を振っていた。

男一人背負っても余裕そうなところとか
いちいち、私の気に触る。

「もうー!これ、何回目?!」

「つぐみ先輩、ごめんなさい。
フミくんの足から靴取ってあげて。」

スヤスヤ眠るフミくんの足から靴を外し、玄関にバラバラと落とした。
フミくんの赤いスニーカーが、椿みたいに落下する。

泰睦は物の多い廊下を歩き慣れ

もっとみる
未来を築く理由

未来を築く理由

眞冬ちゃんと美奈ちゃんと都ちゃんが
我が家に遊びにきてくれて、
私はこの間、詩織ちゃんに教わった
インスタ映えするケーキを焼いた。

他にも、クラッカーやチーズを用意して
ワインを持ってくる。

スパークリングワインを見た
美奈ちゃんと都ちゃんは
テンションを上げて、椅子に座った。

「蘭、子供見ながらコレつくったの?!
天才すぎるんだけど!」

「詩織ちゃんが、簡単なやつ教えてくれたの!
大澤た

もっとみる
その勇姿は日々に希望を与える

その勇姿は日々に希望を与える

都ちゃんが珍しく、テレビ雑誌を買ってきたと思ったら
「オリンピック特集2021」というタイトルだった。

俺も思わず、その雑誌をパラパラとめくる。

シャワーからあがった都ちゃんが
髪の毛をタオルで拭きながらテレビをつける。

「ちかちゃん!!今日だよ!」

「あー、柔道女子48kg級?」

「あと、男子60kg級もね!
これは見ものだよ!見ないと損だよ!」

根っからのスポーツ少女の都ちゃんは

もっとみる
ガラス窓を伝い落ちる雨のしずく

ガラス窓を伝い落ちる雨のしずく

大澤くんの部屋がどこにあるのか、私は知ってる。

大澤くんの奥さんが
洗濯物を取り込んでるのを見たことがあるから。

高級住宅地の高台にある、低層マンションの3階の
一番端の、ルーフバルコニーのある部屋に大澤くんは暮らしてる。

先月、半年付き合ってた彼氏に
私がこんなことしてるってバレて振られた。

でも別にそれで良い。

大澤くんは私の全てだ。

今じゃ若い子の間で知らない人なんていないんじゃ

もっとみる
てるてる坊主が並ぶ窓

てるてる坊主が並ぶ窓

連日、雨が降る中で
5歳になる鞠子と、3歳になる私の双子の息子、
孝義(たかよし)と旭孝(あきたか)と
淳士の子どもの真姫ちゃん(5歳)と隼也くん(2歳)の7人で
幼児向けのテレビ番組を見ながら、てるてる坊主を作る。

「皆川と一緒に、てるてる坊主を作るなんて
高校の時は想像もしなかったわ」

淳士はため息混じりで笑いながら
真姫ちゃんに色ペンを渡した。

「つーか、お前四人目お腹にいるんだってな

もっとみる
成長を残す術として

成長を残す術として

蘭ちゃんのインスタグラムを眺めて
俺は溜め息をつく。

そんな俺の様子を見て
カクは少し心配そうにする。

「フク?どうかした?」

「あー…いや。
妻が大バズりして笑ってしまってた」

蘭ちゃんが高校の頃の親友達に
唆される形で
インスタグラムに自分の写真を載せるようになり、早3年。

気付いたらフォロワー80万人の
めちゃくちゃすごいインフルエンサーになってた。

カクもギャラスタのインスタグ

もっとみる
その男、長男につき

その男、長男につき

営業の外回りの休憩だかなんだか知らないが、
泰睦は俺達の家に来て
買ってきたプリンを食べる。

「てゆうかさあ。
俺は一体、何人の甥っ子と姪っ子を持てばいいわけ。」

来月一歳になる和奏(わかな)を見て、そう呟いた。

「やすちか、プリンくださーい」

長女の楓香(ふうか)は笑いながら泰睦の隣に座り
ニコニコ笑って泰睦のネクタイを引っ張ると
泰睦は自分の食べていたプリンを渡した。

「桜さんは?」

もっとみる
その線を超える機会を、もう何年も窺っていた

その線を超える機会を、もう何年も窺っていた

表彰台に上がり、頭を下げながら
花束と表彰状、ガラスの盾を受け取る彼を見て
私は顔を伏せた。

「最優秀営業契約数は
関東営業海南区3課、伊達泰睦くんです!」

ニコニコしながら手を振ると
「やすちかー!」と黄色い歓声が上がる。

「伊達くんは今年も
営業部門全賞総なめしちゃったね」

社長も嬉しそうに、ちかちゃんの手を握る。

「そうですね。
今年も妻とハワイ旅行に行こうと思います!」

ドッと

もっとみる
遥かに超えた未来調和

遥かに超えた未来調和

美波の入院している病院に、遥と零香と行くと
流香と、山本家族が先に来ていた。

結婚する時、バタバタ忙しそうだったのも
もう、3年前の話になる。

「あ、流香ちゃん、ともくん、さーちゃん!
こんにちはー。」

「やっほー!
だて!さくら!るか!」

零香の後に、粋がって挨拶する遥を俺は軽く小突いた。

零香はそんな遥を気にせず、流香のところに笑顔で駆け寄った。

「るかちゃんも来てたんだ!会えて嬉

もっとみる