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小説 創世記

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聖書の中の「創世記」を組み込んだ小説を書いています。 戦後の絶望の中で、一人の人が神に呼ばれ歩んでいく物語です。
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記事一覧

小説 創世記 16章

小説 創世記 16章

16章

その頃、一雄とその妻ヒメの間に子はなかった。

その頃、イブキが蘇土村の女性と結婚した。
その名を空(ソラ)と言った。
結婚式は蘇土村、吾村、河南町の三つの村が集まって、盛大に行われた。

そしてその一年後、ソラは子どもを身籠った。
そのことでヒメは心を痛めた。
神の一雄にした約束を知っていたからだ。
自分がその約束にふさわしくない者であるように感じた。
そのヒメを見て、一雄は心を痛めた

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小説 創世記 15章

小説 創世記 15章

15章

激動の数日間が終わった夜、
一雄の上に神の言葉が響いた。
一雄は幻を見ていた。
その声に、心は躍った。

「恐れるな。
 わたしがお前の盾だ。
 お前は大きなものを得る」

一雄の目の前には大きな光があった。
光に向かって叫んだ。
神との対話は初めてのことだった。
「神よ!あなたは何をくださるのですか!
 この財産はなんのためにあるのですか!
 わたしの子が後を継ぐのでしょうか!
 それ

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小説 創世記 14章

小説 創世記 14章

14章

カイは王国を築いていた。

カイが大阪の街を支配していた頃の組織『バビロン』は解散する。
それに取って代わる組織は即座に、その領域を奪っていった。
結局、人々にとっては、
支配される組織が代わり、街が少し物騒になっただけで、大した変化はなかった。

カイは蘇土村(そどむら)の長となっていた。
村が豊かになったのはカイの商才のおかげだった。
カイは村の若者たちを力で従えて、すぐに村を支配し

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小説 創世記 13章

小説 創世記 13章

13章

飢饉を乗り越えた村はどんどん豊かになった。
家畜も増え、一雄もイブキもそれぞれ牧場を持つようになった。
その牧場はどんどん大きくなっていった。

村に子どもが増えていった。
家族も大きくなっていき、村を広げなければいけないということになった。

そこで一雄はイブキに言った。
「ここで一度、僕ら、分かれていこう。
 村を広げるのに、君の牧場をそこに移動させてくれないか?
 みんながそこをも

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小説 創世記 12章b

12章b

その年、何日も雨が降らない日が続いた。
作物が実らず、家畜もバタバタと死んでいった。

そこで一雄は大阪の中心部、街の方へ行き、食料を買ってこようということにした。
村から送り出されて、何人かの若い衆とヒメ、イブキと共に街に向かった。

大阪の街は荒れていた。
暴力で支配している者たちがいた。

そのことを心配して一雄はヒメに言った。
「聞いてほしい。
 僕は君が本当に美しいと思う。そ

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小説 創世記 12章a

小説 創世記 12章a

12章a

一雄はまた声を聞いた。
「北へ行け。
 おまえはおまえの家族を離れて北へ行け」

大きく、腹の中で響く声。
一雄はすぐに「はい」と言ってヒメとイブキに伝えた。

ちょうどその頃、ヒメの両親たちは新たな産業のアイデアとノウハウを得ていた。
そこで一雄たちと両親たちは別の道を行くことにした。
一雄たちは北、大阪へ、両親たちは南、牧場のあるあの町へ行くこととなった。

ノアから与えられた様々

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小説 創世記 11章c

小説 創世記 11章c

11章c

本当に美しいと思う女の子に一雄は出会った。

名前をヒメと言った。
彼女は面白い絵を描いた。
牧場によく足を運び、心を込めて家畜たちの世話をし、たくさんの絵を描いた。
その絵を描いている姿を一雄遠くから見ていた。

そのうちに一緒に絵を描くようになった。
一雄は見たまま忠実に、ヒメは現実とは違うカラフルな絵を描いた。
二人は互いを深く知っていき、心惹かれていった。

ヒメの両親は鯨を獲

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小説 創世記 11章b

小説 創世記 11章b

11章b

塔が完成に近づいてきた。
ここまで2年かかった。
莫大な金がかかった。
危ない橋も何度か渡った。
しかし、その分だけ勢力は拡大していった。

悪いことはカイが先頭に立ってした。
部下にやらせる前に自分が危ない橋を渡って見せた。
カイは賢く、運が良かった。

「なぁ、エノ」
隣に立って塔を眺めているエノに言った。
「はい。カイさん」
エノはカイの方を向く。この数年でエノとの関係性もずいぶ

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小説 創世記 11章a

小説 創世記 11章a

11章a

カイ(4章参照)の組織『バビロン』は隆盛を誇っていた。
組の構成員も数百になり、幹部は大きな金を動かしていた。幹部は一緒に住んでいた家族たちだ。
エノが二番手である。

暴力と混沌の世界を生きるカイの日々は、
ソラが死んでから何も楽しくなかった。
それに反して成功は積まれていった。
今や、カイに逆らう者はいない。
バビロンよりも前にあった組織も金と力で黙らせた。

カイの目は灰色に濁っ

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小説 創世記 10章

小説 創世記 10章

10章

それから5年が過ぎた。
一雄とイブキは18になった。

ノアとアカネには三人の子が生まれた。
ノアたちの共同体はどんどん大きくなっていた。
牧場も敷地を広げ、また別の場所にも牧場を作った。

街は活気を取り戻し、多くの人は仕事を取り戻した。
牧場にもたくさんの人が住み、共に過ごした。
昼間は子どもたちが家畜と共に遊び、夜は大人たちも加わって共に飲んで食って騒いだ。

ノアとアカネは子ども

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小説 創世記 9章

小説 創世記 9章

9章

街は少しずつ建て直されていった。

牧場を広げ、家畜を増やした。
さすがに人々に食糧を与え続けることはできなかったが、ノアには森の知識があった。
牧場を囲む森から食糧を得る方法を、ノアはたくさん知っていた。
人々に罠の仕掛け方を教え、食べられる野草を教え、果実の調理と保存の方法を教えた。

なにもかもを一度失った人々は、喜んでこの新しい生き方に従った。
目の前にすることがあり、自分や家族の

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『Adam』

『Adam』

1章

東京は火の海になった。
その後、一帯は茫漠としていた。
天は雲に覆われ、地は混沌として何もなかった。
闇が街を包んでいた。

神は仰せられた。「光、あれ」
瓦礫の下にボロボロの雑巾のように横たわっていた少年、一雄はその声を聞いた。
すると瓦礫が剥がされ、空の光が一雄の目に差し込んだ。

彼は喉が渇いていた。
神は仰られた。「水よ、あれ」
一雄はその声を聞いた。
すると雨が降ってきて、一雄の

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『Adam』は小説創世記のまとめです。

創作大賞2023にエントリーしました!
そのために小説創世記を名を新たにして、まとめて一つの記事にしました!

応援、よろしくお願いしますm(_ _)m

小説 創世記 8章

小説 創世記 8章

8章

雨が止んで、塀の周りの水が引いていった時、鳥たちが飛び立っていった。

そしてそれから動物たちが牧場の外に出ていった。
それで完全に水が引いたのだとわかった。

一雄に声がした。
「外に出よ。
 街に行き、人々に食を分け与えよ。
 家を建て直し、住まわせよ。
 動物の衣を着せよ。
 すべては私が与える。私がおまえと共にいる。」

3人が街に降りたった時、言葉を失った。
建物はことごとく壊れ

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