つくだ博

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ご挨拶

 毎日が目まぐるしく過ぎています。  気を抜く間もなく、朝が夜になり、気絶するように眠って、また朝を迎えます。  昨日まで8月1日だと思っていたのが、あっという間に10日になっています。思えば1月から8月まで、一気に経過しました。時の流れをせき止められません。  たまの休みに、ようやく物語を書くことができます。  皆さまにお読みいただきました連作短編『コンセプトブックシェルフ』は、5月から初めて、6、7、8月と、計4か月連載してきました。  これまでは『家族』をキーワードに

    • コンセプト・ブックシェルフ 4話『清き心は月ぞてらさむ』(8月)

      タイトル『清き心は月ぞてらさむ』  足が地面につかなかった。なぜなら、体が浮遊していた。  砂浜から眺める分には、海は青く見えなくもなかった。けど間近だと、海水はエメラルドのように緑色に輝いていた。汚いというわけではなく、肌に触れても嫌悪感はなかった。  9歳だった俺は、浮き輪を持たずに泳いだ。海面に浮かぶブイの紐を掴んで行けば、流されることはないと思った。砂浜から沖にかけて、縦にずっと続いていた黄色とオレンジのブイを引っ張って、奥へ奥へ辿った。  やがてブイの群は、俺を阻

      • 天気の子 見てきた 感想(ネタばれあり)

        新海誠監督の、前回の「君の名は。」が大好きだったので初日に視聴 感想 前回の君の名は。が「主人公とヒロインが世界を救う話」なら、 今回の天気の子は「主人公とヒロインが世界を滅ぼす話」だった。 もちろん面白かったけど、新海誠監督の悪いところが濃くでちゃったかもね。 まずはいい面 ・面白い 面白かったよ。なんだかんだで初日に見れてとっても良かった。 2回目はいつ行こうかな。 ・ソフトバンクのお父さん 面白いギミックだなと思った。こういうのがあると、ぐっと映画に没入できるね。

        • コンセプト・ブックシェルフ 3話『天の川われても末に逢はむとぞ』(7月)

           台所の流し台に、空のコップが置かれていた。  コップの底に、麦茶の雫がたまっていた。  それ以外は、流し台には何もなかった。ほかの食器は水切りカゴと収納棚に並べられていた。  母さんと姉ちゃんはまだ寝ている。今は朝5時なので間違いなかった。もしふたりのどちらかが出したコップなら、飲み終わったら洗って、水切りカゴに置くはずだった。  俺も、喉が渇いたから、起きて台所に寄っただけだった。一杯の麦茶でも飲んだら部屋に戻って寝るつもりだった。  でも冷蔵庫を開く前に、台所から引き

        • コンセプト・ブックシェルフ 4話『清き心は月ぞてらさむ』(8月)

        • 天気の子 見てきた 感想(ネタばれあり)

        • コンセプト・ブックシェルフ 3話『天の川われても末に逢はむとぞ』(7月)

          コンセプト・ブックシェルフ 2話『梅雨空に、赤蜻蛉(とんぼ)』(6月)

           赤とんぼの歌を聴くたびにいつも、味気ないなと思う。  現実の街の様子と、その響きにギャップがあるように思えた。だって今は秋ではない。  視界に映る街はそんなに素敵ではなかった。音は右耳に入ったら左耳に抜けていくようだった。そのうちチャイムの放送が終わった。  遠くにある市のスピーカーが、午後4時半になったことを告げた。俺は学校からの帰り道だった。  どしゃ降りの中を、折りたたみ傘ひとつで進んでいた。蒸し暑かった。ローファーの中がぐしょ濡れで、制服が張り付いた。カバンが水を吸

          コンセプト・ブックシェルフ 2話『梅雨空に、赤蜻蛉(とんぼ)』(6月)

          コンセプト・ブックシェルフ 1話『令月にして、気淑く風和ぎ』(5月)

          「う~ん……何だろうなあ~」  リビングのソファに座り、新聞を広げている父さんがうなり始めた。 「何だろうなあ~。う~ん……」 「はいはい。何がですか、お父さん?」  水のジャーッと勢いよく流れる音が止まった。台所にいる母さんが、いつもの呆れた調子で尋ねた。 「何って。アレだよ、アレ。わかるだろ?」  父さんは新聞を見ながら、あごをしゃくるようにして言う。 「まーた始まったんだから。アレじゃわからないでしょう?」 「アレって言ったら、アレだろう。何でわからないんだ

          コンセプト・ブックシェルフ 1話『令月にして、気淑く風和ぎ』(5月)

          小説 コンセプト・ブックシェルフ 第0話 ノートの皆さま、はじめまして

          はじめまして。つくだ博と申します。 この先一か月ごとに、季節ごとの新作書下ろし短編を投稿してまいります。 短いけれども、良質な、心に残る読み物を揃えたい、と思っています。 『コンセプト ブックシェルフ』というタイトルをつけました。 特定の主題やテーマを取り入れて、それを前面に押し出し、同業者との差別化を図ることを「コンセプト○○」と呼びます。 例として、コンセプトカフェがあげられます。 メイドのコスプレをした従業員が接客をするコンセプトの「メイドカフェ」。 上質

          小説 コンセプト・ブックシェルフ 第0話 ノートの皆さま、はじめまして