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マルジェラと僕と、時々バレンシアガ

2歳になった子が何でも触る。


今でも小さいが、さらに小さかった頃はトイレットペーパーの芯に通るものは飲み込めると聞いて、手に持つもの持つものを口に運んでいたので、気が気ではなかった。


今は、おもちゃなどを口に運ぶことは無くなったが、食べ物であれば何でも口に運ぶ。



スプーンやフォークを使って食べることができ、最近ではお箸にも興味を示して使ってみようと試みている時もあるが、結局は手掴みの時が一番美味しそうに食べている。


必然的に手が、米粒やソースだらけになっているので、食べ終わったら手を洗うようにしているが、食事をしていた机や椅子はベタベタになっており、手洗いをすり抜けた米粒が寝室のテレビにこべりついてるなんてのは日常茶飯事である。


机や椅子、テレビなんかは拭けば綺麗になるしいいのだが、服につくと少し面倒だ。


ひどい時は子は食事の度に服を着替えることもしばしばある。


米粒ぐらいであれば取り除いて洗濯機で洗えばいいのだが、ソースなどで汚れてしまった時は、洗濯機に入れる前に漂白したり、ひどい時はつけおきしてから洗うようにしている。


子の服なんて汚れるものだし、元から高いものを買っていないので、全く問題はないのだが、大人の服になると話は少し変わってくる。


単純にサイズが大きいので、洗面所で漂白やつけおきをする場所をとってしまう。


先日も、奥さんの服にケチャップと思しき汚れがついており、気付いたのも汚れがついてから時間も経っており、


「気に入ってたのに、落ちるかなー」と言いながら、奥さんは漂白剤をもみ込んでいた。


子にお気に入りの服がないとは言わないが、大人には気に入ってる服、思い入れのある服、高かった服が存在する。



奥さんの汚れ落ちなかったら嫌だなと言う感情はごく自然な感情に思える。


逆に私は、何も思わない。


ケチャップ汚れがついている!わーい!とはもちろんならないが、汚れたからといって特に何も思わない。


汚い手で触られようが、水たまりの水をかけられようが、何も思わない。


笑ってしまう時もあるが、少なくともネガティブな感情はわいてこない。



おそらく物への執着が全くなく、思い入れのある服やお気に入りの服がない。


全ての服がお気に入りと言えるし、全ての服がお気に入りじゃないとも言える。




ご飯やら、バナナやら、ハンバーグやらを食べた後、ぎゅーってくっついてきてくれ、そのついでに服で顔全体を擦り付けてきた。


Paul Smithの白いTシャツは一瞬で、Paul Smithでも思いつかないであろう独創的な模様が作り出された。ちょっとおしゃれだなと思った。



草木の密集する場所を、ぐんぐん突き進み、落ち葉やどんぐりを拾っては、捨てるを繰り返していた。


保護者である以上、ついて行かざるを得ず、枝が顔に当たりそうな場所だったので、前屈みになりながら、JONH LAWRENCE SULLIVAN のTシャツで後を追った。


親子共々、服にはひっつき虫が大量についていて、子には1本、私には3本、小さな枝が刺さっていた。


子の服からひっつき虫と枝をとり、自分の服のも取った。


枝が生地を貫通していて、1カ所穴が空いていた。


最後に全体的に子の服をぱっぱと払うと、大事そうに握りしめていたどんぐりを1つ「どーぞ」と言って渡してくれた。


素直に思った、「優しい人になってください」と。



衣替えほどたいそうな物ではないが、夏服の整理をしていると、Tシャツと子の思い出がいくつか浮かんできた。



マルジェラのTシャツを広げた時に、身に覚えのない汚れが背中のあたりについていた。


背中というよりは腰に近い位置に、明らかに手形の汚れがついていた。


サイズ的に心当たりは一人しかいない。


なぜ見逃して季節を超えたのか、今からこの汚れは取れるのか、真剣にTシャツをクリーニングに出すことまで検討した。


大学生の頃にSTUDIOUSで買って長く使っている、青のロングコートのボタンは引きちぎられたことがある。



また、ボタンをつければいいし、子はボタンが好きだし、取ったボタンを大事そうに握りしめていた。



URBAN RESEARCHの黒のチェスターコートでは外出中寝てしまって、抱いていたら、よだれまみれになっていた。


よだれ特有のにおいがして、若干くさくなっていた。



生地に染み込んだヨダレの上でとても気持ちよさそうに眠っていた。


バレンシアガのアウターを着てる時に、肩車をしていると、子が足をバタバタさせて、さっきまで公園で遊んでいた靴の裏がアウターの胸元に綺麗にスタンプされた。



「あー」勝手に声が出てしまっていた、汚されてしまったと。


Paul Smith、JONH LAWRENCE SULLIVAN、STUDIOUS、URBAN RESEARCHでは動じなかったのに、バレンシアガとマルジェラでは動揺してしまった。

ブランドに優劣があるわけではないし、先ほども書いたように、全ての服がお気に入りであり、全ての服がお気に入りではない。



高かったからである。



私の持ってるアウターの中で一番高価なのがバレンシアガで、私の持っているTシャツの中で一番高価なのがマルジェラであった。


物にちゃんと執着しており、お金に執着していた。




でも、マルジェラのTシャツの季節を越した汚れも、バレンシアガにつけられた足跡スタンプも、今では綺麗に取れている。


だから、またマルジェラのTシャツの上にバレンシアガのアウター羽織って、どこにでも一緒に行こうと思う。



雨上がりの公園でも、どんぐり拾いでも、あなたの好きなピザトーストを、外で食べてもいいよ。


疲れたら、肩車してもいいし、抱っこして寝てしまっても大丈夫。




できれば服は汚してほしくないけど、汚れたら汚れたでいいよ。



服はまた買えるけど、あなたとの時間は、何にも代えられないから。


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